「豪球投手のほうが雨の被害は大きい。」《今回の野球格言》
《今回の野球格言》
・左投げ投手はフィールディングが苦手な可能性が高い。
・走塁重視のチームは牽制をもらうと喜ぶ。
・豪球投手のほうが雨の被害は大きい。
「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!
★球言1
《意味》
左投げの選手は右投げの選手に比べ、内野手として守れるポジションが少ないため、幼い頃からゴロをさばく経験が不足しがち。ゆえに左投手は、フィールディングを苦手とするプレーヤーが多い。
《寸評》
左投げの選手が、投手以外で内野を守るとしたら通常は一塁手となる。一塁の守備では、二塁ベースや三塁ベースなど、自分の右側へ送球することは多いが、左側へ投げることはほとんどない。そのため、三塁側のピッチャーゴロを捕り、反転して投げるというプレイは、経験の浅い左投手にとってさらに難しい動きとなる。
《作品》
『錻力のアーチスト』(細川雅巳/秋田書店)第5巻より
《解説》
春の神奈川県大会準々決勝。桐湘高と蔡理高の対決も終盤の8回裏。4−2と2点をリードした桐湘高は、マウンド上に二番手投手・喜多幹生。追う蔡理高は1番・金崎からの好打順も、走者が出られないまま2死に。3番の杉山が打席に入る。
次打者の4番・蓬莱豊を気にしつつ、「ここを乗り切れば……」と心のなかで呟くマウンドの喜多。その初球――。
杉山が不意を突くセーフティーバント。三塁方向へボールを転がす。左投手である喜多にとっては、一塁への送球は逆モーション。
「左利きなら内野手の経験も少ないはず フィールディングも巧くはねえだろ!?」
杉山のしたたかな狙いとつなぐ意識が、蔡理高に逆転へのチャンスを呼び込むのだった。
★球言2
《意味》
走塁の意識が高いチームは、牽制で必ず戻れる位置までしかリードしない。牽制してもアウトにできないばかりか、エラーの機会が増え、投手のクセを探すチャンスまで与えてしまう。
《寸評》
作中では、一塁に出たランナー全員が第1リードを3.5メートル、第2リードを7メートル取ることを徹底。“機動破壊”で2014年夏の甲子園に旋風を巻き起こした健大高崎ではないが、走塁はチーム全体の意思が統一されてこそ本物の脅威となる。
《作品》
『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ/講談社)第24巻より
《解説》
県内2強の1つである千朶高と、秋季大会の初戦で当たった西浦高。横綱相手にも臆することなく、2回終了時点で3−0。好調なスタートを切る。
3回表、千朶高の攻撃。西浦高は簡単に2死を取るも、2巡目に入った千朶高の1番・岩崎広哉に二塁打を打たれてしまう。ここから代打の4番・飯田太一郎まで4連打を浴びて3失点。なおも2死一塁で、飯田の代走に島亜紀史が起用される。
タイムを取り、マウンドへ集まる西浦ナイン。チームの中心・田島悠一郎が、千朶高は打撃だけでなく、走塁も優れていることを指摘する。
「走塁は足の速さより 意識(※32)が重要なんだ(中略)こういうチームはけん制すればするだけ喜ぶんだ(中略)けん制もらえばクセさがせるだろ」
田島の的確な分析に、西浦ナインの顔は青ざめていた。
※32・作中では「意識」に傍点。
★球言3
《意味》
軟投派の投手は多少、雨の影響で地面がぬかるんだり指が滑ったりしても対応しながら投げられるが、豪球派の投手はわずかな雨の影響がボールに大きな差を生み、投球の内容を変えてしまいやすい。
《寸評》
「元祖・怪物」と呼ばれた作新学院時代の江川卓も、最後の夏は銚子商との雨中の延長戦で押し出しサヨナラ負け。やはり豪球投手と雨の相性は悪そうだ。投球の始動から指先のかかりまで、すべてが揃った上での豪速球。雨による微妙な誤差を試合中に修正するのは至難の業に違いない。
《作品》
『風光る 〜甲子園〜』(七三太朗、川三番地/講談社)第40巻より
《解説》
関大淀川高との熱戦が続くなか、突如降り出した雨。マウンド上の多摩川高・野中ゆたかは、肩で息をしながら、関大淀川高の主砲・赤井隆也を打席に迎えていた。夏の甲子園2回戦。場面は3回裏1死、走者一、二塁。多摩川高が4−1と3点をリードしている。
スタンドで見守るのは、徳島代表・村上学園の大石。四国一の防御率を誇る右腕として甲子園に乗り込んできたが、1回戦でゆたかと投げ合った末、多摩川高に敗れた。
「一生懸命やっとる者に 神様が雨を降らせてくれた・・・(中略)ゆたかは雨でも平気で投げられるやつやき しかし淀川のヤマスケはそうはいかんき」
ヤマスケとは関大淀川高のエース・山口大輔のこと。大石は「豪球投手の方が雨の被害が大きい・・・」と漏らしながら、勝負の行方を見守っていた。
■ライター・プロフィール
ツクイヨシヒサ/1975年生まれ。野球マンガ評論家。幅広い書籍、雑誌、webなどで活躍。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング 勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。ポッドキャスト「野球マンガ談義 BBCらぼ」(http://bbc-lab.seesaa.net/)好評配信中。
記事タグ
この記事が気に入ったら
お願いします