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「世界の本塁打王」以前の「早実の王」の一歩目がここに!『アサヒグラフ 第38回全国高校野球選手権大会特集号』〜嗚呼、青春の“時空を超えた”甲子園!特集〜



アサヒグラフ 第38回全国高校野球選手権大会特集号

 いや〜暑い、熱い、アツイ! あっという間に梅雨が明け、今年も来ましたアツイ夏。今年は“猛暑”というよりも暴力的な暑さという意味で、“暴暑”という言葉がピッタリな気がします。夏が暑いのは今も昔も変わりませんが、同じように今も昔も変わらず、この季節から高校球児たちの甲子園大会出場に向けたアツイ闘いが繰り広げられるワケですね。

 というわけで今週のベースボールビブリオは先週に引き続き、高校野球大特集。野球古書の品揃え日本一! の古書店ビブリオから紹介するのは1956(昭和31)年に発行されたアサヒグラフ・第38回全国高校野球選手権大会特集号であります。


 まずは目を引くこの表紙。美しく微笑むキレイなお姉さんと、後ろに座る学生帽を被った暑苦しい男子学生とのコントラストが非常にイイ! この女性は公募で選ばれた一般女性ですが、日本は確実に変化を見せていました。

 太平洋戦争が終わって約10年、この年の「経済白書」に「もはや戦後ではない」と書かれているように、戦後のダメージから復活しようと、日本全体が一致団結してエネルギッシュな雰囲気に包まれていた時代。そんな明るい時代を象徴するような表紙といえるでしょう。戦後の高度経済成長の始まりは1954(昭和29)年から始まった神武景気(じんむけいき)から、といわれていますが、まさにこの時代はその好景気のまっただなかであり、この年の甲子園大会も大いに盛り上がりをみせていたことを、この本から感じることができます。

 この年の甲子園大会で特筆すべきはズバリ、初のナイター試合が行われたことでしょう。好景気を背景として、この年の5月、甲子園球場に当時としては水銀灯を併用した日本一の明るさを誇る照明設備が完成。プロ野球のみならず、高校野球でも日没になった場合はナイターとして試合を続けることが決まりました。そのナイター設備は早速、力を発揮することになります。

 大会初日の第三試合、伊那北vs静岡の8回表に内野の四基の照明灯が輝き、さらに延長戦に入ってからは外野の二基にも灯がつきました。これが高校野球史上初ナイターの瞬間であります。
 さらにこの大会で注目すべきは、あの大物選手が甲子園デビューを飾ったことでしょう。「世界の本塁打王」王貞治さんが早稲田実業の1年生で出場しているのです。予選でも新宿戦で四球をひとつ出しただけのノーヒット・ノーランの快投をみせるなど大活躍。次々と強豪校を破り見事、代表の座を勝ち取りました。

 一年生の夏に早くも甲子園の土を踏んだ王さんですが、当時の早実打線は3番に醍醐猛夫(元毎日)、4番に徳武定之(元国鉄ほか)という将来プロ野球界で活躍する選手が在籍し、王さんはその先輩に続く5番に抜擢されていました。

 1回戦の新宮戦の9回表、0-1で負けていた早実は醍醐が四球で歩き、徳武がヒットで無死一、二塁の大チャンスを作ります。そして打席に立つ王さんに出されたサインはなんと「送りバント」。見事、三塁前に転がしたものが、内野安打となりました。これをきっかけに早実は逆転し、勝利をもぎ取ったのでした。実はこのバントでのヒットが、あの「世界の本塁打王」である王さんの甲子園初安打でした。意外ですな。

 続く2回戦の岐阜商戦では先発として甲子園初登板しますが、初回に1点を先制され、結果は散々。早実もこの試合には敗れたものの、1年生ながら特大の三塁打を放つなど、打者・王貞治はその存在感を残したと書かれていました。現役選手のみならず、往年のプロ野球名選手の学生時代の“武勇伝”がこれでもか! というほど埋まっている高校野球古本の世界。時代感覚が麻痺するほど、その世界は深いのです、はい。



 そして時代を感じさせるのがこの一枚。前述した「もやは戦後ではない」という言葉が流行語となったこの年、日本は確実に変化を見せていました。野球応援で初めてのチアリーダーの登場であります。

 この本によれば、甲子園大会に応援団が登場したのは1924(大正13)年ごろ。急上昇する野球人気とともに応援もヒートアップし、各校はそれを抑えようと、アルバイトで応援団長を雇います。しかしながらアルバイトだけあって、これが全くの無統制。その応援ぶりも団長がただ赤い陣羽織を着るなどの「ドンチャン騒ぎに過ぎなかった」とあります。

 しかしその後、野球の強い学校には立派な応援団長が続々出現するようになります。彼らは見事な統率力をみせ、応援団長のリードに従う応援方式に変わってきました。日本の野球応援の礎となった出来事といえるでしょう。さらに時代を重ね、学ランを着た男子学生が中心となって統率していたバンカラな応援団に混じって、この本が出た時代から女子学生が応援するようになったというわけです。

 この記事で紹介されているのは初出場の北陸代表・滑川高校(富山)の女子リーダーたち。「スカートに紺のシャツというユニフォームに、はち切れんばかりの若さを包んだ女子リーダーに、流石の甲子園ファンもあっと息をのんだ」とあります。うーん、当時の野球ファンにとっては非常に刺激的だったのでしょうね…。今では当たり前のように、高校野球の応援で女子学生たちがチアリーダーとして踊っていますが、こんな歴史があったとは…。勉強になりました!

 野球選手だけでなく、高校野球を取り巻くオモシロ情報も満載の高校野球古本。皆さんも是非、ビブリオに足を運んでそんなネタを探してみましょう!


■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリングと、まだまだ謎は多い。

文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは@suzukiwrite

■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088

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