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file#020 荒波翔(外野手・DeNA)の場合

『野球太郎』ライターの方々が注目選手のアマチュア時代を紹介していく形式に変わった『俺はあいつを知ってるぜっ!』
今回の担当ライターは新井広美さん。昨夏に発売された『静岡高校野球』制作に関わり、日頃から静岡県内の中学野球から社会人野球まで追いかけています! が、取り上げてもらったのは、アマチュアからプロへと静岡の両隣の県で活躍してきた若手スピードスターです!


神奈川のスーパースター


 荒波翔(DeNA)の球歴は輝かしい。中学時代に戸塚シニアの主将として全国制覇をしたことから始まり、横浜高では1年夏からレギュラーを獲得し、甲子園ベスト4。快足を生かしたアグレッシブなプレーと守備範囲の広さで魅了した。3年春はエース・成瀬善久(現ロッテ)の活躍もありセンバツで準優勝したものの、荒波は2回戦で自打球により骨折。しかし、足を骨折しながらの激走はいまだ多くの人の印象に残っているだろう。
 ドラフト候補に名前が挙がりながらも、東海大に入学。持ち前のセンスで、1年春からレギュラーとなったが、2年で靭帯を断裂。1年を棒に振った。しかし、3年で復活すると、大学日本代表に選出され、世界大学野球選手権で大活躍。4年では大学選手権で準優勝を果たした。もちろん、再びドラフト候補となるが、好不調の波の激しさがネックとなった。「名前のように、波が荒いからなぁ」と残念がり、今後の成長を期待するスカウトもいた。
 そんな神奈川のスーパースターがトヨタ自動車に入社したのは2008年だった。




下降線を辿った社会人時代


 トヨタ自動車は荒波が入社する前年に日本選手権で優勝するなど、全国トップクラスの強豪。そんなチームに入り、荒波はルーキーイヤーに1番センターに定着。社会人屈指の強力打線の一角を担い、日本選手権連覇に貢献した。2年目にも都市対抗東海予選で活躍し、誰もがプロ入りを予想していたが、都市対抗本戦で20打数1安打と極度の不振に陥った。チームが準優勝しただけに、波に乗れない荒波の姿は余計に目立ってしまった。そして、その年のドラフトではまたしても指名はなかった。
 今年こそはと意気込んだ3年目には9番など下位を打つことが多かったものの、都市対抗東海予選で5割近くを記録する活躍。しかし、その後に調子が落ち始め、都市対抗本戦では無安打。高校時代から有名で人気のある荒波にはいつも横断幕を持って駆け付けるファンもいるのだが、そのファンたちの声援からも元気がなくなるほどの不調だった。
 2010年の10月に入り、日本選手権東海予選取材のため、岡崎球場の記者席に集った地元記者たちが、ドラフトの話題で盛り上がる時にも、荒波の名前は挙がらない。スカウトに話を聞くことが多いマスコミの間でも指名はないのではないかと思われていたのだ。それほど、都市対抗本戦以降の荒波は存在感がなくなっていた。
 それでも、練習試合などで時折飛び出す三塁打を見る度に、荒波という選手の華やかさを思い出した。俊足を飛ばし、一塁から二塁を軽やかに回り、二塁から三塁に到達する時の風を切るスピード感、そして鋭くキレのあるスライディングは荒波独特のものだった。守っては、打球に向かって一直線に走り、捕球すると、低くまっすぐな送球で走者の足を釘づけにする。調子がいい時のスイングは、ボールがバットに吸いついてくるように直線的な軌道でボールに向かって走り、軽く振り抜く。荒波のプレー全般に感じる爽快なスピードからはスターとしての資質をはっきり感じさせた。




社会人よりプロ向き? 計りかねる実力


 そんな3年目を過ごしていた荒波だったが、ドラフト直前に突然、名前が取り沙汰され始める。そして実際にドラフト会議で横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)に3位で指名された。地元出身のスターということで評価が高くなったというが、その順位には驚かされた。
 荒波の身体能力やポテンシャル自体がプロレベルであったことは間違いない。人目を引く華やかさもプロ向きだった。ただ、好不調の波が激しく、不調時には守備要員になってしまうのも確かだった。一発勝負の厳しい戦いが多い社会人野球よりも、長いリーグ戦を戦って、平均で結果を求められるプロの方がもしかしたら合っているのかもしれない…と頭をよぎった。社会人野球のレベルに対応できなかったわけではなく、当たっている時には、どんな投手からも打ってみせただけに、この選手の実力を計りかねるところもあった。
 そして、プロ2年目の昨年、荒波は1軍に定着したどころか、141試合に出場し、ゴールデングラブ賞を獲得するほどの活躍を見せた。三塁打をリーグ1位の7本放ち、スピード感とセンス溢れる荒波らしいプレーもファンにアピールした。盗塁もリーグ2位だったが、失敗が多いのが玉に瑕。とはいえ、2年目としては十分な成績だ。ただ、プロが合っているのかどうかはまだわからない。トヨタ自動車でも、1年目に大活躍した後に、2年目、3年目と調子を落としている。安心はできないが、常に神奈川のスーパースターとして輝いてほしい選手だ。





文=新井広美(あらい・ひろみ)/東京都出身、静岡県在住。雑誌『野球小僧』の編集を経て、現在はライター兼編集兼雑用として『静岡高校野球』に携わる。静岡の中学から社会人までを守備範囲に逸材を探す。好きな言葉は「しなり」。

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