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《野球太郎ストーリーズ》阪神2013年ドラフト3位、陽川尚将。屈辱の育成指名から4年、奮起を誓う強打者

取材・文=谷上史朗

《野球太郎ストーリーズ》阪神2013年ドラフト3位、陽川尚将。屈辱の育成指名から4年、奮起を誓う強打者

阪神がドラフト3位で指名した大学生内野手は、高校時代に巨人からの育成指名を蹴ったスラッガーだった。反骨の男はこの4年で何をつかんだのか?

ぶれずに育成指名を拒否


 ドラフト当日は夕方から森友哉の取材で大阪桐蔭高にいた。西武からの1位指名を受け、記者会見に続き体育館で同級生による胴上げ、吹奏楽部の演奏。大阪桐蔭高ではもはや秋のお馴染みの風景を眺めながら、スマートフォンでその後のドラフト状況を確認していると、阪神の3位指名に目が止まった。

「陽川尚将 東農大 内野手」

 思わず金光大阪高の横井一裕監督に祝福メールを打つと、少しして返信が来た。その直前には「嬉しくてこっちからかけました」と陽川本人に電話をしたということだったが、メールの最後にあった「めちゃめちゃ嬉しいです♪」の一言からも思いが伝わってきた。

 4年前――。当時、金光大阪高の4番を打っていた陽川はドラフト候補として注目を集めていた。2年秋に印象的な活躍を見せ、3年センバツにも出場。強肩、強打のスラッガーは、タイプは違ったが、関大一高の西田哲朗ともよく並び称されていた。しかし、春以降、ぐんと株を上げた西田に対し、打撃面のもろさも目立った陽川の評価は停滞。

 結果、ドラフトでは西田の楽天2位指名に対し、陽川は巨人の育成3位指名。「下位なら(本指名が)あると思っていた」と振り返る陽川にとって現実を突きつけられる結果だった。しかも、ドラフト前に「育成ではプロ入りしない」と横井監督らが各球団に伝えていた中、巨人が指名(巨人側が陽川側の意向をしっかり把握していなかったという話もある)。指名を知った瞬間、横井監督の頭に一抹の不安がよぎった。

「やはりあれだけの人気球団ですし、陽川の気持ちが揺れないか、正直思いました。でも、アイツは『(プロ待ちの状況でも待ってくれた)大学の監督や(横井)先生と約束しましたし、自分の気持ちは変わりません』とはっきり言いました。そこは偉かったですね」

数字に表れる打撃の変化


 阪神ファンにとってたまらないエピソードだろうが、巨人をふって進んだ東京農業大では1年春からベンチ入り。途中出場の日本大戦で一発を放ち、ワンチャンスで二塁のレギュラーをつかんだ。

 するとこの春に3本、さらに秋は5本塁打。まず長打力で見せた。ただ、本塁打については最終的に23本まで数を伸ばしたが、高校時代からの成長をより感じたのは、一発より通算で105本を打った安打の方だ。同じ東都2部で専修大時代の長谷川勇也(ソフトバンク)の103本を上回る、と関西のスポーツ紙などではドラフト後に大きく出たが、試合数の違いなどもありこれは単純に比較できない。それより注目は打率の変遷だ。2年春.244、秋.279、3年春.300、秋.318、4年春.450、秋.366。これを見るだけではっきり精度の向上を想像させる。

 本人は「甘い球をミスショットしないようになってきました。特に春は今までに感じたことがないくらいバットがスムーズに出た」と振り返る。しかも「決してよくなかった」という秋も.366。

「大学でヒットゾーンが広がって、対応力もそれなりに上がった」の言葉に素直にうなずく。

 横井監督は「彼にとっては早くから出られるチームで経験を積めたことが大きかったと思います」と話したが、さらに「でも彼の一番の武器は…」と続けてきた。

「体がとにかく強いこと。高校の監督をさせてもらって16年ほどですが、陽川を見て体が強いというのはこういうことか、とわかりました。痛いとか風邪を引いたとか、3年間で練習を休んだことが1度もなかった。この先も一番の武器になっていくと思います」

伝説生んだ「鈍感力」


 高校2年秋の近畿大会では、38度を超える熱から試合直前までベンチ裏でダウンしながら8回に起死回生の同点アーチ。大阪桐蔭高を下したこともあった。

 さらに今秋のリーグ戦でもこんなことが…。9月10日、国士舘大戦の5回、三塁守備で打球に飛び込み左肩を脱臼した。強烈な痛みが走り、誰もが交代と思った直後、チームメートの助けを借り、左肩をはめると、心配する首脳陣に直訴し出場を続行。これだけでも今の時代に驚きだが、さらに直後の打席でホームランを打ったというのだから、鉄人・金本知憲(元阪神)ばりの伝説だ。

 しかも本人は「パカッとはまったんで。あとで少しケアしたら大丈夫だろうと普通に出ました」と涼しい顔。そんなエピソードを聞きながら、今から5、6年前、渡辺淳一の著書で流行った「鈍感力」という言葉を思い出した。肉体的にも精神的にも陽川に感じた「鈍感力」は、猛者と曲者が入り混じるプロの世界で大きな力になっていくはず。となれば、あとは実力だ。4年前の思いもしっかり胸の奥に秘め、さぁ、ここから。幼少期から憧れた甲子園の舞台で虎党を酔わせる快打を――。

 楽しみにしている。

(※本稿は2016年11月発売『野球太郎No.007 2013ドラフト総決算&2014大展望号』に掲載された「30選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・谷上史朗氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)

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