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「斎藤佑樹開幕→キヨシインフルエンザ」こんな1面の差し替わりもありました〜記者の悲喜こもごも〜

 前回(連載2回目)は「スポーツ紙記者の日常」と題し、記者ならではの不安や、激しい紙面争いなどをお伝えしてきました。最終回となる今回は「スポーツ紙記者の悲喜こもごも」を、今だからこそ語れるエピソードとともにスポーツ報知デスクの加藤弘士さんからうかがいました。

渾身のスクープだったのに……

 2012年2月2日。当時、日本ハムの斎藤佑樹投手を担当していた加藤さんは、ある確信を基に「記者人生を賭けた」と言ってもいいほどのスクープを掴む。

「日本ハム・斎藤佑樹、開幕投手内定」

 キャンプインから間もない時期もさることながら、前年に新人で6勝を挙げた佑ちゃんがメジャー挑戦したダルビッシュ有(レンジャーズ)の穴を埋めるべく、開幕投手を務める。誰もが目を疑うその見出しが、翌2月3日の各コンビニや売店、各家庭に届けられるはずだった。しかし……。

加藤 当初の予定では「栗山指名、開幕投手は佑」が1面だったんですよ。しかし、DeNAの中畑清監督が就任したばかりで、宜野湾キャンプでの熱いパフォーマンスが話題を呼んでいました。そんなさなか、キャンプ2日目で中畑監督がインフルエンザにかかってしまい、それが急遽差し替わって1面になってしまったんです。こっちは「開幕投手・斎藤」にかなりの確信があったし、記者人生を賭けたスクープだったのに……。



菊地 その記事は最終的にはどこで扱われたんですか?

加藤 5面です……。当初は1面だったのが、カラーでもなくなってしまって。しかも、ネット上では翌日から、我々に大バッシングですよ。「そんなわけない」、「報知のバカ記者の妄想記事」とか散々書かれました。

菊地 でも、その年、実際に斎藤投手が日本ハムの開幕投手になりましたよね。“やっぱり報知の加藤すげえな”となったんじゃないですか?

加藤 いえ、そこから2カ月も経っていたので、ウチが第一報だったことを覚えている人は誰もいなかったです(苦笑)。やっぱりこれを1面にできなかったのは悔しかったなぁ。それで、佑ちゃんが西武との開幕戦で1失点完投勝利を挙げてね。あれは札幌ドームのネット裏で見ていたんですが、めちゃくちゃうれしかった。「開幕投手は斎藤」を書いて、さらに「開幕投手で初完投勝利」を書けたのは、記者冥利に尽きる喜びでした。やっぱり、スクープはテンションが上がりますよね。

 ライオンズ担当だった去年は「西武がカーターを再獲得へ」ってどこよりも早く報じることができた。カーターってホントいいヤツで、日本が好きで、ライオンズが好きで、西武の応援団が好きで。個人的に大好きだった選手なので、カーターの原稿については絶対に他紙には負けたくなかった。本紙での扱いは決して大きくなかったけれど、ネット上ではものすごくアクセス数を記録したんですよ。いかにカーターが西武ファンに愛されている選手だったかを、実感した出来事でもありました。



“結婚”報道こそ選手からの信頼のバロメーター

加藤 スポーツ紙はできる限り、人事や選手の去就などを、球団が公式発表する前に取り上げなくてはいけません。そのためには記者の取材力が問われるのはもちろん、チーム関係者と信頼関係を構築しなくてはならない。そういうところでは、結婚報道はまさに記者と選手の信頼度が現れますね。

菊地 この人になら明かしてもいい、そういうことですもんね。

加藤 僕はとある投手の結婚をスクープさせていただいたことがあるんですが、新郎新婦が区役所に婚姻届を提出した後、両家による食事会の席になぜか僕もいるという不思議な経験をしたことがあります(笑)。もちろん最後まではいませんでしたが、「5分でいいので」とその場に立ち会わせていただき、「明日の紙面を楽しみにして下さい。お幸せに!」と帰りました。この仕事をしていないと、なかなか経験できない場面ですよね(笑)。

“マスコミ嫌い”への対処法

菊地 それでもやはりマスコミ嫌いの選手や指導者っていると思うのですが、そういった場合はどうされているのですか?

加藤 「当たって砕けろ」ですよね。「無駄だ」とは思わず、とにかくガツガツいく。10回行ったら1回ぐらいは喋ってくれるかもしれませんし、こちらから行かないと、何も始まらないので。

菊地 10回中9回無視されてもですか……。

加藤 やはり、聞くことが僕らの仕事ですから。そこはファンとは違う。エラーした選手にもファンなら、「そっとしておいてあげなよ」かもしれないけれど、やっぱり「なんで?」って聞かないといけない。嫌われるかもしれないけれど、聞くことが僕らの仕事なんです。プロ野球記者になりたてのころ、ある中継ぎ投手には「加藤は打たれた時だけ来るんだよな」と言われたこともあります。正論だったので、素直に反省しました(笑)。

 こうした「取材の難しさ」については、来場者からの質問コーナーでも多くの質問が飛んだ。

来場者(女性) 取材慣れした子、何を聞いても通り一辺倒なことしか言わない選手には、どうすればいいのでしょうか?

加藤 僕はバカ話というか、世間話から入るようにしてます。好きなテレビや音楽の話とか。本人があんまり答えてくれないようなら、その選手の周辺に聞く。そういった点でいくと、甲子園の試合前取材には、監督やエースやキャプテンを敢えて回避し、控えの選手に話を聞きに行くようにしています。彼らの周りには、ほとんど記者が集わない。でも、控え選手が持っているチーム情報は濃厚ですよ。喋りたくてウズウズしてるので、そこからいいエピソードが引き出せたりもするんです。スポーツ紙だから、スーパースターを取り扱うのは当然ですが、スターだけでチームは成り立たない。控えや裏方さんなどにも敬意を持って、ガツガツ話を聞くようにしています。

 参加者アンケートでは「加藤さんの知識、仕事に向ける心意気にとても感動した!!」、「将来の夢への参考にもなり、すごく良かったです」、「最近、新聞を購入していませんでしたが明日の報知は買います」という声が集まった。

 2時間の予定もあっという間に過ぎ、大盛況に終わったトークイベント。“報知新聞あるある”から記者の裏話や矜持まで様々ことを語ってくださった加藤さん、楽しいお話をありがとうございました!



[ゲスト/写真左]加藤弘士(かとう・ひろし)・・・1974年4月7日、茨城県水戸市出身。水戸一高ではプロレス研究会に所属。慶應義塾大法学部法律学科を卒業後、1997年に報知新聞社入社。広告局、出版局を経て、2003年からアマ野球担当。アマ野球キャップや、野村克也監督、斎藤佑樹の担当などを経て、2014年より野球デスクに。173センチ、62キロ。右投右打。

[司会/写真右]菊地選手(きくちせんしゅ)・・・本名:菊地高弘。『野球部あるある』著者、『野球太郎』副編集長。加藤デスクとは渡部建さん(アンジャッシュ)らが出演しているプロダクション人力舎主催「高校野球大好きナイト」で親交が始まり、イベント開催に至った。

構成=高木遊

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