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センバツ準決勝のいちばん長い日。1990年、魂と魂がぶつかり合ったダブル延長戦


 3月26日、福大大濠対滋賀学園、福井工大福井対健大高崎の2試合が延長15回引き分け再試合となった。「2試合連続引き分け再試合」は甲子園史上初。

 まさに激闘と呼ぶにふさわしい熱戦が繰り広げられているが、過去には「準決勝2試合がともに延長サヨナラ決着」という大会もあった。

 それは1990年、第62回大会でのこと。延長13回、延長17回と2試合続けて激闘が続いたこの日は、「センバツ史上最高の準決勝日」とも言われているが、それはどんな試合だったのか。準決勝が目の前に迫る今、時間の針を巻き戻してみたい。

土俵際からのドラマ


■1990年:準決勝第1試合
近大付(大阪)対 東海大甲府(山梨)

■スコア(延長13回)
東海大甲府 000 000 022 0 000  4
近大付   201 000 001 0 001× 5

 近大付の先制で始まった準決勝・第1試合。3回裏に近大付が中押しの1点を奪い3対0とリードを広げる。東海大甲府打線を抑えていたことから、近大付優勢のまま試合が終わると多くのファンが思った。

 しかし8回表から東海大甲府が猛反撃を開始し、9回表の土壇場で逆転。逃げ切りたい東海大甲府は、2死までこぎつけたもののエース・榎康弘(元ロッテほか)が捕まり、エラーも絡み同点を許してしまう。

 10回からは両校意地の張り合いでゼロを並べるが、13回裏に事件が起こった。

 近大付は2死一、三塁のチャンスで二盗を仕掛ける。東海大甲府の捕手は、一塁走者を刺そうと二塁に送球したが、カットに入った二塁手の前でショートバウンドし、二塁手が送球を弾いてしまう。その間に三塁走者が生還。あっけないサヨナラで死闘は幕を閉じた。

 9回裏、13回裏ともに2死から試合が動いた。まさに「野球は2死から」を体現したような試合だった。

17回裏のミラクル弾


■準決勝第2試合
北陽(大阪)対 新田(愛媛)

■スコア(延長17回)
北陽 000 003 000 0 000 000 0
新田 010 000 020 0 000 000 1×

 2回表に先制した新田だったが、その後は北陽(現・関大北陽)のエース・寺前正雄(元近鉄ほか)に沈黙。すると流れは徐々に変わり、6回表に北陽が3点を挙げ逆転。

 このまま北陽が押し切るかと思われたが、8回裏に新田の4番・宮下典明(元近鉄)が2点本塁打を放って同点に。

 この一発で勝利の行方がわからなくなった試合は、9回に両校の投手が踏ん張り延長戦に突入。その後は息つく間もない投手戦となる。

 膠着状態が破られたのは17回裏。新田の1番打者・池田幸徳が力投を続ける寺前をとらえ、本塁打を左翼席に放り込む。劇的なサヨナラホームランで3時間34分に渡る激闘に終止符を打った。

 この大会、新田は春夏通じて甲子園初出場。1戦ずつ力をつけ勢いに乗った快進撃ぶりは「ミラクル新田」と称えられた。「甲子園には魔物が棲む」ともいうが、そんな見えない力の後押しがあってのサヨナラ劇だったのかもしれない。

 なお決勝は近大付が5対2で新田を下し、初優勝を飾った。


“劇闘”が生まれる背景


 2試合とも延長戦に突入した1990年のセンバツ準決勝は、サヨナラ悪送球、サヨナラ本塁打といずれも劇的な幕切れとなった。

 甲子園は負けたら終わりの一発勝負のトーナメント。ある意味、毎試合が決勝戦のようなもの、とも言える。しかも、あと一歩のところに優勝が見えてきた準決勝ともなると、なおさらお互いに譲れない。だからこそ、このような激闘が生まれるのだろう。

 近年は選手の体調管理を考えて、球数制限やタイブレーク制の導入などが叫ばれている。筆者も重々その必要性は感じるが、それによって高校野球ならではの「激闘の延長戦」が見られなくなると思うと……一抹の寂しさがある。


文=森田真悟(もりた・しんご)

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