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夏はオレの季節、とファンを魅了した「甲子園最強打者」名鑑/第28回

 「Weeklyなんでも選手名鑑」は、これまで活躍してきた全てのプロ野球選手、アマチュア野球選手たちを、さまざまな切り口のテーマで分類し、テーマごとの名鑑をつくる企画です。
 毎週、各種記録やプレースタイル、記憶に残る活躍や、驚くべく逸話……などなど、さまざまな“くくり”で選手をピックアップしていきます。第28回のテーマは「甲子園最強打者」名鑑です。

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 猛暑の中、夏の甲子園は順調に日程を消化中。連覇を目指す大阪桐蔭や古豪・箕島、その箕島と34年前に延長18回の死闘を演じたメンバーの息子がベンチ入りする星稜、春の覇者・浦和学院などが登場する話題のカードが続いています。

 選手では、多くのスカウトが注目する大阪桐蔭の森友哉が初戦で2打席連続本塁打を記録。甲子園通算本塁打を5本とし、さらに増産しそうな気配を見せています。ほかにも聖光学院の園部聡が終盤に二塁打を放ち逆転に貢献し、茨城大会で4本塁打を放った常総学院の内田靖人は甲子園初本塁打を放っています。スカウト注目選手を中心に、特に打者が持てる力を発揮しているようですね。

 今回はそんな好打者たちが名を連ねようと挑む、伝説の打者で名鑑をつくります。

1978-79年 香川伸行(浪商)

 香川が高校生になった頃、大阪ではPL学園などが台頭し、伝統校・浪商(現大体大浪商)はその勢いに押されており、夏の甲子園からは15年遠ざかっていた。しかし、中学時代から府内にその名を馳せていた香川や、エースとなる牛島和彦の動向を聞いた有力選手が浪商への入学を決めたことで、浪商はチーム力を高めていた。

 バッテリーを組んだ香川と牛島は1年秋にはレギュラーに。秋季大会を順調に勝ち上がり、近畿大会に進出、準々決勝で天理を完封。準決勝では香川の本塁打などで木戸克彦西田真二のいるPL学園にも打ち勝った。浪商は1年生バッテリーが堂々の活躍で2年春(1978年春)のセンバツ出場を決め、浪商の復権を印象づけた。

 香川にとって初の甲子園は1回戦で高松商に0-3で敗戦。自身の打席でも1安打2四球に終わった。一方、大阪から2校出場したライバル・PL学園は8強入りし、その強さを全国にアピール。PL学園はその勢いで同年夏、全国制覇を達成する。浪商は再びPL学園を追う立場となる。

 香川が次に甲子園に出場したのは、1年後の3年春(79年春)。浪商は秋季近畿大会を制覇し、近畿の有力校を破ったことから優勝候補として甲子園に挑んだ。期待の声に応えるかのように、香川は4試合で2本塁打を含む7安打を放つ活躍を見せ、浪商は決勝まで勝ち進む。

 香川は箕島との決勝戦でも2安打2打点と奮闘。しかし7-8で敗れ準優勝に終わる。

 同年夏の大阪大会、浪商は決勝でPL学園に9-3で勝利し、18年ぶりの夏の甲子園出場を決めた。主役として甲子園に臨んだ最後の夏、香川はマークをかいくぐり2回戦から準々決勝まで3試合連続アーチを記録。金属バット使用、ラッキーゾーン有りと打者有利な条件だったが、これは連続試合本塁打としては現在も破られていない甲子園記録である。

 準決勝では蔦文也監督率いる池田と対戦。投打で充実した浪商有利の声で始まったが、緩いカーブを使った投球に翻弄され、浪商は9回まで無得点。香川も2四球で出塁したが安打は出ず、0-2で敗戦した。

 香川の甲子園通算成績は40打数16安打、5本塁打。出場した11試合で無安打に終わったのは3年夏、最後の試合の池田戦のみで、思いのほか粗のない打者だったといっていい。劇的な逆転打などはなかったが、序盤のコンスタントな加点に香川はよく関わっていた。

 90キロ台の体格を生かした高校通算41本塁打という長打力と、手首を柔らかく使ったしぶとさを併せ持っていた香川。浪商が激戦区・大阪で繰り返し甲子園に出場するうえで、香川のようなタイプは非常に価値のある打者だったことだろう。

[香川伸行・チャート解説]


【長打力:5】……甲子園通算5本塁打は歴代4位の記録
【決定力:4】……試合を決める安打は実はあまり打っていない
【スター性:4】…そのキャラクターと実力で幅広い世代から人気を集めた

【長打力】……打者としてボールを遠くに飛ばす能力
【決定力】……試合の流れを変えたり、勝利を決めたりする打撃力を見せたか
【スター性】…選手としての華がどれだけのものだったか

を5段階評価した(以下同)。

1983-85年 清原和博(PL学園)

 甲子園で清原が見せた打撃は、特に通算記録においては空前絶後という言葉がふさわしい。それまで香川が持っていた甲子園通算5本という本塁打数を2年夏(1984年夏)の1回戦で更新。その後も7本塁打を放ち計13本塁打(春4本、夏9本)を記録した。これは最多記録で、チームメイトだった桑田真澄元木大介(上宮)が記録している2位の記録、6本塁打に大きな差をつけている。3年夏(1985年夏)に記録した1大会5本塁打も単独首位。2年夏(84年夏)の1回戦享栄戦に記録した1 試合3本塁打は最多タイ記録。3試合連続本塁打も3年夏に記録しており、これも最多タイだ。

 打率も驚異的だ。夏の甲子園では1年時は.304(23-7)、2年時は.476(21-10)、3年時は.625(16-10)と年々アベレージを上げている。

 ただし、個別の試合から勝負強さについて考えてみると、少し印象が変わる。1年夏、当時強打で一世を風靡していた、池田を破った準決勝で清原は4打数4三振。スターだった投手・水野雄仁から本塁打だけを狙っていたためとも言われるが、高校野球界の盟主交代劇には乗り遅れた。

 2年春のセンバツでも、準決勝の都城(宮崎)戦で5打数1安打、敗れた決勝の岩倉戦で2打数無安打と、重要な試合で活躍していない。同年夏も初戦で3本塁打するもその後は尻すぼみだった。準決勝の金足農(秋田)戦では無安打、決勝の取手二戦では3打数1安打に終わっている。さらに3年春も準決勝の伊野商(高知)戦で渡辺智男から3三振している。3年春までの4度の甲子園での準決勝以上の打率は.200(25-5)、本塁打は1本だけ。警戒されているにしても物足りない数字といえるだろう。

 だが、この傾向を一変させたのが3年夏の活躍だ。大会を通して打ちまくり、甲西(滋賀)との準決勝で3打数3安打、2本の本塁打を放つ。宇部商(山口)との決勝でも4打数3安打、2本塁打を記録し、5度目の甲子園にしてようやく4番の責務を果たすことに成功したのだ。

 成績はもちろん、甲子園のスターが受けるプレッシャーと正面から向かい合い、それを乗り越えたという意味でも清原は最強打者にふさわしい。

[清原和博・チャート解説]


【長打力:5】……13本塁打のうちラッキーゾーンではなくスタンドインした本塁打も8本。長打力は文句なし
【決定力:5】……3年夏、準々決勝以降は3試合で5本塁打と爆発。それまでの不振を吹き飛ばした
【スター性:5】…「甲子園は清原のためにあるのか?」というアナウンサーの名言も飛び出した。甲子園の申し子

1990-92年 松井秀喜(星稜)

 松井秀喜の甲子園出場は1年夏(1990年夏)、2年夏(1991年夏)、3年春(1992年春)、3年夏(1992年夏)の計4回。チームとしての最高成績は2年夏の4強と少し地味だ。

 松井個人の成績としては、8強入りした3年春がベストか。1回戦の宮古(岩手)戦で2本塁打を含む4安打7打点。この7打点はセンバツでの1試合最多記録である。堀越(東京)との2回戦でも1本塁打を打っている。

 なお、甲子園のラッキーゾーンは、松井が3年となった春に撤去された。松井が2年夏に1本打った本塁打は右中間スタンドに飛び込んでいるので、甲子園で打った4本の本塁打はすべてスタンドに届かせたものということになる。

 テークバックが小さく、フォロースルーの大きいスイングは、80年代の長距離打者に目立った、ウエートトレーニングで鍛えた上体の力と金属バットの反発力で少々強引にボールを飛ばす打法とは異なり美しかった。プロ入りしてからのフォームと比べてみても差が小さく、でき上がった打者だった。

 3年夏に起きた前代未聞の「5打席連続敬遠」は、そんな松井の完成度が引き起こした事件だった。2回戦で松井のいる星稜と対戦が決まった明徳義塾の馬淵史郎監督は、甲子園で松井の打撃を目の当たりにし「高校生の中に一人だけプロの選手が混じっていた」と感じたという。その後、星稜の打撃練習も偵察し、松井への警戒をさらに強めた。

 そして迎えた試合当日、明徳義塾は松井を全打席敬遠するという策を敢行。

・1回表 2死三塁
・3回表 1死二・三塁
・5回表 1死一塁
・7回表 2死走者なし
・9回表 2死三塁

 走者なしでも歩かせるなど、明徳義塾に徹底的に方針を貫かれた星稜は2-3で敗れた。2点は松井を歩かされたあとのチャンスからの得点だったが、それ以上の得点が奪えなかった。

 松井は試合後の握手こそ拒否したと言われているが、不条理な敬遠にもふて腐れず、淡々と打席に立った。その姿は多くのファンの心を打った。

 後に松井は「5打席連続敬遠された打者だと証明しないと、という思いは持ち続けた。大きなエネルギーになった」と話している。事件の後、馬淵監督や明徳義塾の選手たちへのバッシングが起きたが、その後の松井の活躍は彼らを救うものでもあったはずだ。バットを振らずに伝説をつくった極めて珍しい打者といえるだろう。

[松井秀喜・チャート解説]


【長打力:5】……本塁打は4本と多くはないが、打球の伸びは規格外
【決定力:4】……2年夏の準々決勝、準決勝では6打数0安打と沈黙。勝負強さを見せたであろう3年夏が実質1試合に留まった
【スター性:5】…「5打席連続敬遠」という前代未聞の出来事を引き寄せる資質に日本中が注目

そのほかの「甲子園最強打者」たち

1974年 篠塚利夫(銚子商)
 2年春・夏(1974年)に甲子園に出場。1974年夏は金属バットが解禁された年だが、木製バットにこだわった。にもかかわらず19打数8安打、本塁打も2本打つ活躍で全国制覇に貢献。

1974-76年 原辰徳(東海大相模)
 1年生から三塁手のレギュラーとしてプレーし、夏3回、春1回の甲子園出場。2年春には準優勝。甲子園通算成績は52打数20安打、本塁打1本。地方大会も超満員にする人気。2年春の高知との決勝戦では3安打と気を吐く。

1982-83年 江上光治(池田)
 高校野球の常識をパワー重視に変えたやまびこ打線を水野雄仁、畠山準らと構成。2年夏(82年)の準々決勝で優勝候補・早稲田実の荒木大輔から初回に本塁打を放つなどして優勝。翌春の夏春連覇にも貢献。

1983-85年 桑田真澄(PL学園)
 甲子園全26試合で104打数37安打、6本塁打。二塁打を10本、三塁打を1本打っている。同級生の清原和博の存在、エースとして大活躍したことで、スポットライトは当たりにくいが中長距離打者として非凡な才能を発揮。

1985年 藤井進(宇部商)
 3年夏に才能開花。3試合連続で本塁打打ち大会4本塁打を記録した。この大会で挙げた14打点は歴代2位の記録。PL学園との決勝戦では桑田真澄からセンターにフェンス直撃の三塁打を打っている。

1986年 水口栄二(松山商)
 3年夏に準優勝。1番ショートとして29打数19安打(大会最多記録)とひたすら打ち続け、打率は.655を記録した。

1990年 内之倉隆志(鹿児島実)
 3年春・夏に連続出場。春に1本、夏に3本の本塁打を記録し連続8強入りに貢献。

1988-90年 元木大介(上宮)
 2年春(89年)、3年春・夏(90年)に甲子園に出場。春4本、夏2本の本塁打を放っており歴代2位の記録。高校通算は24本塁打と少ないがそのうち6本を甲子園で打ってみせる派手さがあった。

1991年 萩原誠(大阪桐蔭)
 3年春に8強、夏に優勝したチームで主軸を打った。春に1本、夏に3本の本塁打を放ったほか、夏は16打数11安打と大活躍した。

1994-95年 福留孝介(PL学園)
 2年春(1994年)、3年春・夏(1995年)に甲子園へ。2年春には4強進出。甲子園通算34打数12安打、3本塁打。高校生離れした鋭い打球が印象的だった。

1999-2000年 武内晋一(智辯和歌山)
1年夏(1999年)、2年春・夏(2000年)に甲子園へ。4強、準優勝と徐々に成績を上げて挑んだ2年夏は、26打数14安打、2本塁打と活躍し全国制覇に貢献。チームとしても打ちまくり、大会通算100安打は甲子園記録として現在も残っている。

1999-2002年 森岡良介(明徳義塾)
 1年からレギュラーを張り、3年春を除く、計4回甲子園へ。通算53打数23安打.433と安定したバッティングを見せて3年夏には優勝。長打力も見せた。

2004-05年 平田良介(大阪桐蔭)
 2年春、3年夏の2回甲子園へ。3年夏、東北との準々決勝で3本塁打し、清原の記録に並ぶ。甲子園通算5本塁打は史上4番目の記録。

2005-07年 中田翔(大阪桐蔭)
 1年夏(2005年)、2年夏(2006年)、3年春(2007年)の3度出場。37打数12安打。3本塁打。雰囲気ある打者として注目浴びる。

2007-08年 浅村栄斗(大阪桐蔭)
 2年夏(2007年)、3年夏に甲子園へ。29打数16安打、2本塁打を放ちリードオフマンとして活躍。全国制覇を成し遂げた。


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 甲子園で強打者として存在感を残すのは、どうしても試合数の多い選手になってくるかと思います。どんなにいい打者でも、出場機会が少ないとそれが実力であるという印象に結びつかない部分もあります。

 チームが8強もしくは4強以上まで勝ち抜き、かつ個人として記録を残しているような打者を拾い上げると、このような感じになってきます。ただ、通算で見て好成績でも1回戦や2回戦で固め打ちしている選手もかなり見られ、同じ甲子園でも出場校間のレベルの差はかなりあるのがわかります。

 金属バット導入以前の好打者は、成績の単純比較ではなかなかすくいあげにくいのですが、時代を区切って観察し、投手がスターとなりがちだった70年代以前の甲子園で打棒を振るっていた選手をピックアップするのも面白そうです。


文=秋山健太郎(スポーツライター)
イラスト=アカハナドラゴン

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