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第十六回 右打ち・左打ちの適正を見極める

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考えるコーナーの第十六回目。野球ライター“ハリケン”こと服部健太郎さんが実話を交えて、「右打ち・左打ちの適正を見極め」について語ります。
 今回はバッティングの右打ち、左打ちのどちらが子供に合っているのかを見極めるには? というテーマです。


右投げ左打ちは遺伝する!?


「うちの子たちって、左打ちと右打ち両方だよね?」

 前週の「右投げ左打ち」をテーマにした記事を読み終えた妻が確認を求めてきた。長男のゆうたろうが左打ち、次男のこうじろうは右打ちなので「うん」と答えると、「なんでそうなったんだっけ?」と話は終わらなかった。
「まぁ、つまりは、打ちやすい方に落ち着いたってことやん」
「二人とも元は右利きなのにゆうたろうは左の方が打ちやすかったのかあ。なんか面白いね。二人とも私のお腹から生まれたのに。あなたはどっちだったんだっけ?」
「え、おれ? おれは右投げ左打ちだよ」
「じゃあゆうたろうはあなたの左打ちが遺伝したんだ」

右投げ左打ちが遺伝するなんて話、聞いたことないぞ…。

「あなたはいつから左打ちなの?」
「高校に入った時に左に変えてん。小学校の頃から、遊びで左打ちやったときに、『なんかこっちのほうが打ちやすいな』っていう感覚はあったんやけど、当時、右投げ左打ちってまだ周りで少なかったし、なんか踏ん切りがつかないまま、ずるずる中学卒業してもうて。新しい環境に飛び込むのを機に、えいっ!て、思い切って変えたんだよ」
「ふーん、環境が新しくなるのを機に女の子がメガネからコンタクトにするみたいな話やね」
「そ、そう…?」
「ゆうたろうはいつ左打ちに変えたんだっけ?」
「あいつは…小4の夏やな」

07年夏にチームに起きた左打ちブーム


 小2で野球を始めた頃から、バッティングセンターで遊びで左で打ってる長男の様子を見ていると、ふにゃふにゃなフォームながらも、やけにスムースに振る。右打ちではどうしても左サイドの壁が崩れ、体重移動がうまくいかないのに、左打ちだと、左の足がピッチャー方向へずれるほどに、左から右へ体重がスムースに移る。

(ひょっとしてこれは左の方が合ってるんちゃうか?)

 本人が「試合で打てなくなるから右でいい」というので、あえて強制はしなかったが、小4の夏合宿の朝の練習中に遊びでティー打撃をしているゆうたろうを見たコーチ(甲子園に2度出場した経験がある)が「絶対に左で打つべきだ!」と強く本人に進言。半信半疑のまま、午後の練習試合で試しに左打席に立ったところ、いきなり右中間へランニングホームランを放ち、本人も周囲もびっくり。
 それまで右で1本も打てなかったホームランが左初打席で飛び出したことで、「俺、左打ちで行く!」と大興奮で宣言する長男。
「なんか左打ちになるといいことが起きるみたいだぞ!?」と思ったのか、チームメイトもこぞって左打ちに興味を示すようになり、その後、練習場は左打ち王国と化した。
 その後、そのまま左打ちに定着する子と、「ちょっと打てる気がしない…」と断念する子に分かれていき、結局、左打ち登録まで行き着いたのは、取り組んだ子のうち半数ほどだった。

 次男のこうじろうは、長男の衝撃的な左打ちデビューを目撃した後の数日間こそ、左打ちの練習をしていたが、「自分には違う気がする」と言い残して断念。私も次男のスイングの様子を見ていて「こうじろうは左打ちじゃないな」と感じていただけに、「そうしろそうしろ」と断念させた。
 周囲からは「有利と言われている左打ちに兄が転向したのだから、てっきり弟にも左打ちでやらせると思った」とよく言われたが、本人も私も「合ってないな」と感じてしまうのだから仕方がない。
 左打ちフィーバーにグラウンドが湧いた夏から6年近くが経つが、兄・左打ち、弟・右打ちは今も変わらず。「結果的に落ち着くべきところに落ち着いた」という気はする。

感覚頼りの判断は心許ない?


 妻が思い出したように言う。
「そういえば、私も『あれ、こうじろうくんは左打ちじゃないの?』って、チームメイトのお母さんたちに何回か言われたことがあるなぁ。『だめなの…?』って答えてたけど」
「お母さんの中でも『左打ちが有利』って思ってる人が多いんじゃないかなぁ。俺もよく言われたもん。『てっきり弟さんも左打ちだと思ってました』って」
「本当に左打ちは有利なの?」
「一塁までの距離が近いし、球が見やすい右ピッチャーの方が多いといったことは確かにあるんだけどね」
「聞いてたらめっちゃお得そうやん! ほんまにこうじろうは左打ちじゃないん? もしかしたら違うと思い込んでるだけで、実は左打ちの方が向いてるのかもよ。」
「いや、違うと思う。あいつは右の方がスムースに打てるんだって。本人が一番わかってるよ」
「でも、なんとなく感覚的なものでしか判断できてない気がするなあ。 『あいつは右打ちだな』とか『あの子は左打ちの方が合ってる』とかよく言ってるけど、そんな感覚で判断していいのかな? もっとはっきりした調べ方はないの?」
 確かにそうだ。右打ちか左打ち、どちらが選手に合っているのか。明確な判断方法があったら指導者としても嬉しいのだが…。

生まれつき決まっている!?


 そんなある日、息子たちと一緒に、定期的に通っているスポーツ整体院へ行ってきた。
 長男のヒジの故障がきっかけで見つけた整体院なのだが、かれこれ4年近く通っている。いつも予約で埋まっており、中にはプロ野球選手の来訪者もいるらしい。
 妻の言葉が妙に引っかかり、「うちの子たちは、右打ちと左打ち、どっちが向いていますかね?」と先生に訊ねてみた。
 先生は「お兄ちゃんは左打ちで、弟は右打ちですね」と即答した。実際のプレーを見たことないのに、なぜわかるのだろう?

「人間って、体重を移すのが得意な方向が生まれつき決まっているんですよ。お兄ちゃんは左から右に体重を移すのが得意だし、弟は右から左に移すのが得意。今のままで合ってると思いますよ」

生まれつき決まっているとは思わなかった! 子どもたちが、「左じゃない気がする」とかいった発言をしていたけど、あれは生まれつきの向き不向きを体で感じていたということか…! なんだかすごくいいことを聞けた気がするぞ。
 先生は続けた。
「ただし、お兄ちゃんのように右投げ左打ち、つまり左から右に体重を移すのが得意な選手は、投げる時の体重移動が苦手だったりするんですよ。お兄ちゃんも、投げる時の体重移動が若干苦手ですね」
 なるほど…。これも納得の意見だ。投手で右投げ左打ちのプロ野球選手って少ないなぁ、と思ってはいたが、「利き手がデッドボールを受けやすい」という理由以外に、そういった理由もあるのかもしれない。
 最後に聞いてみた。
「それは先生の感覚で判断してるんですか? 何か明確な判断基準などはないのですか?」
「うーん…」と唸った後、先生は言った。
「ぼくの中では確信できる確かなものなんです。でもそれは、他人からすれば結局感覚にしかすぎないわけですよね。でも、感覚も確信があるものなら、捨てたものじゃないですよ」
 なるほど…。この言葉、妻へのお土産として持ち帰らせていただきました。



文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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