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現役引退を決断した、希代の野球小僧へ贈る!“山本昌”化した、藤井秀悟が見たかった…

 プロ野球12球団合同トライアウト受験者に対して、いわゆる“再生”への道を提示するこのコーナー。最終回の本稿を執筆中に、残念なニュースが飛び込んできた。

 「藤井秀悟現役引退」のニュースである。

 11月26日、今季のタイトルホルダーを祝福するNPB AWARDS 2014が開催された華やかな日に、4球団を渡り歩いて通算83勝をマークした左腕が、ひっそりと引退を表明した。

 第2回トライアウトでも、マウンドに登る際にはひときわ大きな歓声を浴びていた藤井。過去には試合中のヤジを受けて、マウンド上で涙したり、ヤクルト在籍時にはミーティングに遅刻したり、お昼のテレビ番組の観覧席に座っている姿が、お茶の間に放送されたり……、数々のエピソードを持っている。ブログで練習メニューを報告する傍ら、飼っている小型犬チワワを紹介するなど、親しみやすい選手として人気もあった。

 175センチの体全体を使った、躍動感溢れる個性的な投球フォーム。そして高校、大学、プロの間で4度のヒジを痛め、靱帯断裂手術も経験しているため、体の使い方や投球フォームについて研究熱心な面を持った選手である。この投手の体の使い方を、『野球太郎』でも活躍中のタイツ先生(「自然身体構造研究所」所長・吉澤雅之氏)による診断で再起に向けたエールを送り、本連載の締めにしたかったのだが……。残念ながらそれはかなり難しい状況となったが一縷の望みを託して、タイツ先生の分析結果を贈りたいと思う。



★最大の魅力は背骨の使い方だったが……


 藤井投手のよさは、背骨の使い方にありました。人間の背骨は横から見ると、「S字」になっています。これは立つことに関しては、縦に真っ直ぐ伸びる「I」よりも強い構造です。さらに「S字」の2つのアーチを筋肉が支えていることで、上下左右の動きに対して、強力なバネの力を生み出すことができます。

 藤井投手の投球フォームを見てください。右足を上げてから打者側に踏み出す直前に、打者側から藤井投手を見ると、体が「C」のようになっているのがわかると思います。ここで背骨のパワーを利用して、バネの働きを生みだしてから、その力をリリースに結びつけています。このように、全身をバネのように使うことで、それほど大柄ではない藤井投手でも、一流の球筋を投げることができていたのです。

 ところが、近年の藤井投手の投球フォームを見ていると、明らかに筋力が衰えてきた印象を受けます。加齢による筋力の衰えは、どうしようもない部分もある。特に藤井投手の場合、筋力の衰えがそのままパワー減少に繋がるフォームなので、その影響は大きいでしょう。

 また、藤井投手からは「僕はまだできる」というニュアンスの発言を耳にしました。「衰えを認めたくない」「若い選手に負けたくない」という気持ちがあると、どうしてもムダな力が入ってしまう。そうすると、藤井投手の長所でもある独特の投球フォームの柔らかさが消えてしまい、マイナスの効果を生み出してしまいます。現在の投げ方には、踏み込んだ足に粘りがなくなってきた印象もありますね。

★目指すスタイルはただひとつ!

 では、藤井投手が再生するにはどうすればいいか。筋力が衰えた分、柔らかさで補うことができるはずです。各関節の可動域を広げることで、位置エネルギーが確保でき、体重移動から生み出されるパワーが大きくなる。投球フォーム的には、50歳目前でも現役を続けているあの山本昌投手(中日)が、いい見本となるでしょう。

 具体的には、長所であった背骨の可動域をさらに広げて、打者に踏み出す前足を外旋させる動きも強化。それには股関節の可動域を大きく、もっと柔らかくする必要があります。山本昌投手のように、股関節を大きく使う投球フォームをマスターすれば、再生の可能性はあるでしょう。


 バランスボードの上に乗り、ダンベルを使いながら四肢の可動域を強化。この動きを運動神経に覚えさせてから、ネットスローを繰り返しましょう。

 実績は十分にある藤井投手。過去の考え方を変えて、「柔らかさで勝負する」スタイルに変貌すれば、再生の道が開けるはずです。

★打撃投手から現役復帰の可能性はあるのか?

 取材を進めるうちに感じたのは、タイツ先生のいう「“山本昌”化した藤井秀悟」を、ぜひ見てみたいということ。それだけに、現役引退のニュースはショックであった。

 ところがその直後、またもや驚くべきニュースが飛び込んできた。引退した藤井は、巨人の打撃投手に就くというのだ。このニュースを聞いた筆者は、僅かながらの希望を感じずにはいられなかった。藤井秀悟の現役復帰への道が、蜘蛛の糸のような細い可能性ではあるものの、まだ残されている……と感じたからだ。

 過去、打撃投手から現役復帰した例は少ないながらもある。横浜ベイスターズで打撃投手兼任で契約し、1軍で勝利を挙げるまでになった西清孝や、オリックスで現役復帰した栗山聡らがその例だ。ただし、藤井の場合は年齢も高く、復帰する可能性があれば現役として声をかける球団もあっただろう。

 だがしかし、何よりも野球が好きな、野球小僧・藤井秀悟なら、誰もが想像しなかったことをやってのけそうな気がするのだ。打撃投手を職として、体作りや投球の研究を続けることで、タイツ先生の指摘する「柔らかさで勝負する」スタイルを身に付ければ、現役復帰の可能性もあるのではないだろうか。藤井がどこかでこのページを覗いていたら、ひょっとして……と、夢をふくらませながら、この連載を締めたいと思う。



■プロフィール
タイツ先生/1963年生まれ、栃木県出身。本名は吉澤雅之。小山高時代は広澤克実(元ヤクルトほか)の1学年下でプレーした。現在は「自然身体構造研究所」所長として、体の構造に基づいた動きの本質、効率的な力の伝え方を研究している。ツイッター:@taitsusensei では、野球、サッカー、バスケットボールなど国内外問わず、トッププロ選手たちの動きについて、つぶやいている。


■ライター・プロフィール
鈴木雷人(すずき・らいと)…会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。"ファン目線を大切に"をモットーに、プロアマ問わず野球を追いかけている。Twitterは@suzukiwrite

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