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秋の夜空にファンファーレ。4年間神宮に通うライターが2019年のヤクルト戦で受けた1番の衝撃

文=勝田聡

秋の夜空にファンファーレ。4年間神宮に通うライターが2019年のヤクルト戦で受けた一番の衝撃
 当たり前のことが幸せだった。2020年4月。そう感じることが多くなった。日本、いや、世界中の人々がそう思っているのではないだろうか。

 見えない敵の威力は凄まじく、日常生活にも大きな影響を及ぼしている。NPBにおいては開幕がいつになるのかわからず、当面は無観客との報道も出ているほど。当たり前のようにあったはずの野球がそこにはないのである。

 ぼくは2016年シーズンから昨年まで4年間にわたって神宮球場で行われたヤクルト戦を全試合現地観戦してきた。そんな当たり前も凍結されている。

 4年間の間に神宮球場で行われた公式戦は266試合にのぼる。オープン戦や(忌々しい)ポストシーズンの試合は含まれていない。

 266分の1、その全部に思いがある。それは10点差の大逆転勝利や七夕の悲劇、山田哲人のサヨナラ満塁通算200号本塁打、延長12回裏の青木宣親の一撃…の前の大引啓次の指差し確認、村上宗隆の初打席初本塁打の後のガッツポーズなど記憶に残る試合だけではない。

 淡々と進行し起伏のないまま終わった試合にも、なにかの気づきがある。いや、あった。

 今の時代、試合展開やハイライトをボックススコアや動画などであとからでもチェックすることは難しくない。

 だからこそ球場で現地観戦するからには、そうではない「なにか」を持って帰りたい。それは雰囲気といった目に見えないものであったり、球場入りの際に見せる選手たちの笑顔、相手チームの選手との談笑、ブルペンでの挙動…そういったことだ。

「なにか」を感じ取るための現地観戦


 試合のない日々が続くなか、去年を振り返ったとき、もっとも記憶に残っているのは劇的な試合ではなかった。多くの人は試合結果を憶えていないだろう。ぼくも憶えていない。

 CS出場の可能性は消え、5位の中日とも9ゲーム差あった9月6日。相手は首位を走る巨人だった。

 この日は青木がスタメンを外れたこともあり、前日に昇格したばかりの塩見泰隆がスタメンで起用された。青木がスタメンで出場しないということは、試合前に行われる恒例のダッシュもないということを意味する。少し寂しい。

 衝撃は試合開始15分でやってきた。塩見が第1打席に入る直前、スタンドがどよめきに包まれる。同時に笑い声も。登場曲が競馬で使用されるファンファーレ(中山競馬場G1)だったのだ。わかる人にはわかる。そんなメロディーが神宮球場に響き渡った。それだけでおなかいっぱい。周りのファンと顔を見合わせたことは憶えているが、結果は憶えていない。

 2打席目以降はファンも準備している。ファンファーレが流れると中山競馬場さながらの手拍子と「おいおい」の掛け声。野球と競馬は親和性があるという定説(筆者調べ)がよくわかるスタンドの盛り上がり方を見せた。もちろん結果は憶えていない。

 当日、テレビやネット配信でも塩見の打席でファンファーレを聞くことはできた。しかし、第1打席での盛り上がり方やどよめき、そして臨場感は現地だからこそ深く味わえたもの。そう思っている。

 秋の夜空に流れる突然のファンファーレ。今年もこれを超える「なにか」を感じ取りたい。開幕が待ち遠しい。

■試合データ
日時:2019年9月6日

ヤクルト 5対2 巨人
勝:石川(7勝5敗)
負:高橋(5勝5敗)

本塁打
ヤクルト:バレンティン30号
巨人:亀井13号

■神宮球場で行われた公式戦

2019年:67試合
2018年:67試合
2017年:67試合
2016年:65試合

文=勝田聡(かつた・さとし)

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