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【高校野球100年物語】準決、決勝でノーノーを達成した伝説の投手・嶋清一〜昭和前半編

 夏の甲子園の前身である「全国中等学校優勝野球大会」。今年の大会をもって、100年が経過したことになる。この100年の歴史を振り返り、激闘、印象的な選手、感動する話などを伝えるこのコーナー。今回は昭和前半に起きた、印象的な出来事を紹介しよう。


☆史上唯一の統一王座決定戦! “春の王者・高松商”対“夏の王者・和歌山中”

 1927年、センバツ優勝校には夏休み中のアメリカ遠征旅行が企画された。そして、この年のセンバツを制したのは大投手・小川正太郎擁する和歌山中。前年覇者の広陵中を下して、優勝とアメリカ行きを獲得した。同年夏、主力組をアメリカ遠征で欠いた和歌山中は、甲子園出場こそ果たしたものの1回戦負けだった。この夏の大会を制したのが四国代表の高松商。こちらも広陵中を決勝で下して、優勝を飾った。

「主力組が出ていれば夏も和歌山中が優勝したのでは?」

 わき起こった疑念を解消するかのように行われたのが、同年11月6日、大阪・寝屋川球場で史上初の春・夏優勝校同士の決勝試合だ。試合は序盤に猛攻を見せた高松商が小川投手相手に7点を挙げ、日本一の栄冠を獲得した。

☆甲子園史上に輝く「元祖ドクターK」明石の怪童・楠本保!

 昭和初期に活躍した大投手が明石中の楠本保だ。1930年のセンバツを皮切りに、春・夏計6回甲子園に出場。「世紀の剛球投手」「明石の怪童」などの異名で呼ばれた。特に圧巻だったのが1932年のセンバツ。大会史上初となる全員奪三振を2度も達成(1933年春にも1試合達成)し、チームを準優勝へと導いた。

 1933年、最後の夏の大会も準優勝するなど、甲子園通算15勝(5敗)、8完封。その後、慶應義塾大学に進み、東京六大学リーグでも活躍。大学卒業後、戦地に赴き、中国で戦死している。

☆史上唯一の「大会3連覇」――絶対王朝・中京商の時代

 100年の歴史を誇る高校野球において、たった1校しか達成できていない大記録、それが1931年から1933年にかけて中京商が達成した「大会3連覇」だ。

 1931年夏、台湾代表の嘉義農林を倒して大会初出場にして初優勝を達成。翌年夏も、延長戦の末に四国代表の松山商を下して史上3校目の大会連覇を達成した。そして、1933年の甲子園。準決勝・明石中戦との延長25回の死闘を制すると、翌日の決勝戦では京津代表の平安中を2−1で振り切り、前人未到の大会3連覇を達成した。この3年間、エースとして君臨した吉田正男は、夏の大会14連勝(無敗)、甲子園通算23勝(史上最多勝)という金字塔を打ち立てた。

☆不滅の大熱戦! 延長25回を戦い抜いた明石中と中京商

 1933年夏、史上初の大会3連覇を目指す中京商とセンバツ準優勝の明石中が対戦した準決勝が8月19日午後1時10分に開始された。試合は中京商の先発・吉田正男と明石中の先発・中田武雄の両投手の好投で延長戦に突入。両チームともチャンスは作るものの、決定打が生まれずゼロ行進。当時のスコアボードは16回までしか表示できず、17回以降は得点板を継ぎ足して対応。さらに用意していた「0」のカードもなくなり、係員が白いペンキで書き込んで急場をしのいだ。

 そして迎えた延長25回裏。中京商は無死満塁のチャンスを作り、次打者のセカンドゴロの間に三塁走者が本塁へ生還。1−0で中京商が死闘を制した。「アンパイアも観衆もへとへとです」と実況アナウンサーは試合終了を告げた時刻は夕刻6時5分。試合時間は4時間55分だった。

☆甲子園開幕前日に代表校決定!? 真っ黒なユニフォームで行進に

 1938年7月、阪神地区を大雨が襲った。後に「阪神大水害」と呼ばれる、その大雨の影響は球児たちにも及んだ。本来であれば代表校が決まっていてもおかしくない8月3日に兵庫大会が開幕。決勝戦はなんと甲子園本大会の前日という綱渡りの日程だった。

 この年、兵庫大会を制したのは、エース・別当薫(元毎日ほか)を擁した甲陽中。決勝戦で滝川中の別所毅彦(元南海ほか)に投げ勝って全国大会出場を決めたが、その翌日からもう甲子園本大会。甲陽中ナインは正に着の身着のまま、真っ黒なユニフォームで入場行進に参加した。

☆5試合連続完封&準決・決勝ノーヒットノーラン!! 無敵の男、嶋清一

 甲子園史上最強の投手は誰か? 通算最多勝(23勝)&3連覇の吉田正男(当時中京商)、戦後唯一の通算20勝投手・桑田真澄(当時PL学園)、春夏連覇の松坂大輔(当時横浜)や藤浪晋太郎(当時大阪桐蔭)……あまたいる偉人たちを差し置いても、1大会限定で見れば嶋清一(当時海草中)で決まりだ。

 1939年の第25回選手権大会で5試合全てをシャットアウト。45回無失点はもちろん大会記録だ。しかも準決勝・決勝戦に至っては2試合連続ノーヒットノーランという快挙を成し遂げたのだから、「嶋の大会」と呼んでも何ら差し支えはない。そんな大投手・嶋は春夏あわせて6回も甲子園に出場しているが、通算では8勝(4敗)。いかにこの大会で神懸かっていたかを物語っている。


(文=オグマナオト/イラスト=横山英史)

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