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第15回『あぶさん』『グラゼニ』『球世主!!』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1



《意味》
守備側がクロスプレーをアウトにするためには、連携に係わる野手がノーミスでプレーを成立させなければならない。対して攻撃側は、ただひたすら走るだけ。リスクは守備側のほうが大きい。

《寸評》
ボールを追う、捕球する、送球する、中継する、タッチする。守備側がこなす動きはどれも複雑。打球や守備位置などで、プレーの状況も大きく変わる。攻撃側は、走るという単純な動きに加え、塁間の距離もベースの位置も変わらない。クロスプレーを狙う時点で、利は後者にある。

《作品》
『あぶさん』(水島新司/小学館)第47巻より

《解説》
1991年のパ・リーグ開幕戦。19年目のシーズンを迎えた景浦安武は、福岡ダイエーホークスの四番として先発出場を果たす。
二回表の第一打席。四球で歩いた景浦は、続く五番・岸川勝也の打球が右中間に転がるのを見て、一気に本塁突入を図る。先制点が欲しい場面だと判断した上での、やや暴走気味とも思える走塁だった。
本塁のクロスプレーは、間一髪セーフ。だが、味方ベンチに座る今井雄太郎からは「たまたまボールをがそれて運良くセーフやったけど、しっかりするがーて」の声が。
景浦は、笑顔で言葉を返す。クロスプレーをアウトにするためには、連携に加わる野手がすべての動作を完璧にこなす必要がある。ところが、ランナーはひたすら走るだけ。完璧なのは、ホームベースのタッチだけでいい、と。
「危険は守備側の方がはるかに多い……な。雄さんの言う通り たまたま(※13)が結構あると言うことだ」

(※13)作中は、「たまたま」に傍点。


★球言2


《意味》
正対するようにリードする右投手から、背中側へ回り込む左投手へスイッチすると、二塁走者はつい気が緩み、離塁が大きくなりがち。守備側にとっては、牽制球を投げる絶好の機会となる。

《寸評》
右投手の場合、二塁走者は相手の視界へ入っていく形になるため、どうしても見られている恐怖≠ノ駆られる。一転、左投手に代わると、今度は背中越しの死角に入っていく形になるので、リードが取りやすくスタートも切りやすい、という精神的な錯覚≠ノ陥ってしまう。

《作品》
『グラゼニ』(森高夕次、アダチケイジ/講談社)第2巻より

《解説》
抑えのエース・瀬川が二軍に落ち、守護神不在となったプロ野球の神宮スパイダース。首脳陣は、川崎ブルーコメッツ戦を前に、臨時の新ストッパーとして右投手の富永を指名する。
9回表、3対2の場面。1点差を守りきるため、満を持して富永がマウンドに上がる。ところが二死二塁とし、打順は四番の左打者・ボビー。
スパイダースのベンチでは、監督の田辺が悩んでいた。1点差の最終局面。右投手と左打者の対決は怖い。自ら「気が弱い」と公言する彼は、左の凡田夏之介をリリーフに起用する。
いきなりの指名に戸惑いの表情を見せつつも、セットポジションに入る凡田。まずはクイック気味に二塁へ牽制……。これがまさかのタッチアウト。予期せぬ幕切れに、田辺監督が歓喜の声を上げる。
「左投手(※14)に代わったことでランナーが油断したんだよ? 左投手になって死角となったから 離塁が大きくなった」
指揮官の恐怖心が生んだ勝利だった。

※14・作中では「左投手」に「ひだり」のルビ。


★球言3


《意味》
内角のボールを打ち返すためには、身体の中心である腰を回転させ、ヘッドを走らせることが重要。男の股間にぶら下がったバットが振り切れるように、キレのあるスイングを心がけるべし。

《寸評》
かの長嶋茂雄も、全裸で素振りをしながら股間の振れ具合を確かめていた、という逸話が残っている。おもちゃのデンデン太鼓と同じ要領で、身体の軸を真っ直ぐに保ちながらスイングすると、勢いよく振り回せる。思ったほど痛みはなし。実際にやってみたので間違いない。

《作品》
『球世主!!』(ましま蒼樹、はたのさとし/双葉社)第1巻より

《解説》
プロ野球・カミジョーファルコンズの二軍監督となった花坂陽馬は、就任初日から紅白戦を課す。
「一軍半」を揃えた白組に対し、紅組は「万年二軍」の負け犬チーム。試合は、序盤から白組の一方的なペースで進む。
六回表。突如、紅組ベンチに現れた花坂は、選手たちへ的確なアドバイスを飛ばし始める。
結果が伴うことで、勝利を欲し始める紅組の選手たち。出会った当初から花坂を嫌っていた堂島翔太も、苦手の内角を克服しようと、彼にアドバイスを求める。
「内角ねぇ オマエなんか チ○ポ振り回した方が 当たるんじゃねーのっ」
尋ねた自分の愚かさを後悔する堂島だったが、かつて指導者から教わった「内角を打つには 身体の中心を使え」という言葉を思い出し、「よーするに…チ○ポでふれ」ということかと思い当たる。
室内練習場で裸になり、素振りを始める堂島。何度も繰り返すうちに、ヘッドの走り方が変わっていくことを実感するのだった。


※次回更新は2月12日(火)となります



文=ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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