第8回■キヨシのいつも絶好調！ ―中畑清のメゲない生き方― （著者柏英樹）

2012/12/3

　のっけから野球古本の品揃え日本一の「ビブリオ」小野店長がハイテンションであります。12月に入りプロ野球も本格的なオフシーズンに突入…なんて関係ないぜ！と言わんばかりに元気な小野店長が動画で連呼している「絶好調！」は皆様もご存知、横浜DeNAベイスターズ・中畑清監督の決め台詞であり、代名詞であります。

　振り返れば今年も野球界では様々な出来事がありましたが、「中畑清監督誕生」のニュースは上位にランクインすることは間違いないでしょう。屈辱の最下位に沈んだ今シーズンですが、既に秋季キャンプでは自身が経験した「地獄の伊東キャンプ」を彷彿とさせる練習を敢行。他にも結果はどうなるかわかりませんが、福留孝介選手をはじめとする大型補強もすすめているようで、来季も「熱いぜ！横浜DeNAベイスターズ」から目が離せません。ということで、今回は野球人・中畑清の生い立ちから学生時代、巨人軍入団、そして現役引退までを余すところなく書き綴ってあるこの野球本を紹介します。

　まずは表紙のこの顔、この表情がイイですね～。「若いぜ！」とお約束のツッコミを入れたくなりますが、よく見るとそんなに変わっていないという印象も受けますなぁ。9人兄弟の8番目にあたる、男では末っ子として誕生した中畑清。当時の中畑家は貧乏のどん底で、父親が「中畑畜産」という畜産会社を立ち上げた理由はズバリ、子だくさんの家庭で自給自足ができるという目論見があったようです。中畑は毎朝5時から自ら絞った牛乳一升（1.8リットル）をバケツで飲んでいたとのこと。買ってもらったグローブをはめたまま寝るほどの野球好きに育ち、中学、高校と無名校で野球を続けます。高校時代は選手が居ない、手が大きいからという理由で捕手に抜擢されますが、最後の夏の大会は不慣れなポジション故に本人の痛恨のエラーでサヨナラ負けを喫します。その悔しさを晴らすべく、駒澤大学に進学後は「東都の長嶋」と呼ばれるほどの大活躍。ただし、元気者ゆえ上級生からイロイロと厳しい愛のムチを受けていたり、最上級生になれば優勝の喜びでハメを外して当時の太田誠監督にキツ～くお灸をすえられたり…とまあ、生い立ちからプロ入りまでが書かれた「キヨシの田舎っぺ野球人生」の章はその名の通り「田舎っぺ」が真っ直ぐに、純粋に野球を愛して成長して行く様が興味深く書かれています。

　もちろん、プロ入り後の野球人生が書かれた章もありますが、特に印象に残ったのは晩年の話。昭和61年オフに一部報道でロッテ・落合と交換トレードの噂が流れた時の話が泣かせます。当時、あることがきっかけでトレード話がチラホラと出るようになり、自身は納会の席でその年に引退する選手が胴上げされるなか「オレも胴上げしてくれ」と浴衣姿で胴上げされます。あれだけ明るい中畑でも悩んだ時期があったようですが、そんな暗いムードのなか、ロッテ球団が落合のわがままに腹を立て、任意引退選手扱いにして球界追放をチラつかせたときには、「選手側の立場からすると、それはあり得ない」と落合を擁護するなど、男気溢れた行動をとるのです。実は中畑は労働組合日本プロ野球選手会の初代会長を務めるなど、プレーヤー以外の立場でもリーダーシップを発揮し、タイトルや偉大な記録などとは無縁ですが、球史に名を残す実績を残しているのです。

　そんな因縁めいた関係のある落合をはじめ、本人にゆかりのある有名人17名の贈る言葉も収録されています。落合は「キヨシはイイ男の代名詞だね」と語り、駒大、巨人と四六時中一緒だったという平田薫には引退後を考えて焼肉屋の店長に就かせたり、演歌歌手の吉幾三は「キヨシちゃんは売れなかった頃からよくしてもらった」とその人間性を讃えています。オフの間に読んでおけば、来年はさらに興味を持って横浜DeNAベイスターズを応援できることは間違いありません。サブタイトルが「中畑清のメゲない生き方」って、なんかの自己啓発本っぽいですが、DeNAファンならずとも、プロ野球ファンなら必見！の内容ですよ。

■プロフィール
小野祥之（おの・よしゆき）／プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリング。と、まだまだ謎は多い。

文＝鈴木雷人（すずき・らいと）／会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。先日鎌ヶ谷スタジアムで行われたNPBトライアウトには有給休暇を取得して現地参戦。突撃レポートを担当した。

■お店紹介
『BIBLIO』（ビブリオ）
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