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file#004 武田勝(投手・日本ハム)の場合

◎今や日本ハムのエース・武田勝

 ダルビッシュ有(レンジャーズ)が抜けた今シーズン、日本ハムの事実上エースとなった武田勝。ゆったりとしたテークバックからトップのところで手首を「クイクイッ」と動かしてから投げる技巧派左腕は、ダルビッシュとは天と地ほどのスピード差があるものの、コントロールとコンビネーションの良さを駆使し、昨年までと同様、大崩れすることなくゲームを作り続けた。




◎個性豊かな投手陣に埋もれがちだったシダックス時代

 私が武田勝のピッチングを直接目にするようになったのは、社会人チーム・シダックス時代の2004年である。関東一高から立正大を経て、すでに入社4年目となっていたが、恥ずかしながら、それ以前については彼の存在すら把握していなかった。
 武田勝を見るきっかけとなったのは、この記事で過去紹介した選手の例にもれず、別の選手が目的で球場に足を運んだときである。ここでは、同じシダックスで投げていたドラ1候補の注目投手・野間口貴彦(現巨人)であった。
 しかし、正直に言うと、私は当時の武田勝のピッチングに何ひとつ響くものを感じなかった。特に当時の私は、将来プロに行きそうな選手というのは、特別な目利きでなくともすぐわかるような“いい雰囲気”があるはず、という先入観が強くて、武田勝からはそういったオーラを感じとることができなかったのだ。
 そのフォームは、ノソーっとした動きからボールを隠しながらテークバックするところに始まり、トップで高々と頭の上に持っていく間のとり方、そして腕を振り出す直前に手首を「クイクイッ」と動かすところに至るまで、今とほとんど変わっていなかったと思う。だが、お目当てが社会人きってのバランスを誇った速球投手・野間口である。スピードについてはウサギとカメくらいの違いがあるし、当時の武田勝は腕の振りが今よりずっと鈍く、投げるボールも大きく曲がるスライダーかカーブのような変化球を投げてばかりという印象だった。そのため、いわゆる“社会人どまりの技巧派”のひと言で片付けてしまっていたのだ。



 「今思えば」という言い訳をすれば、当時のシダックスの個性豊かな投手陣に影響を受けていたように思う。ことスピードやキレに関して言えば野間口が飛び抜けていたのは先に述べたとおりだし、年齢は野間口より上だが03年に野間口と一緒に入社した加納大祐(シダックス−パナソニック/10年に引退)という、気合十分の本格派右腕もいた。余談だが、この加納は専修大時代に江草仁貴(広島)との両輪で東都大学リーグで投げまくっていた姿を何度も見ており、当時の『野球小僧』編集部員の間では何かと話題に挙がっていた投手だった。そして、この2人以外にも右アンダースローの杉本忠がいて、さらに新日鉄広畑から転籍してきた上田博之の存在も大きかった。上田は恰幅のいい技巧派左腕で、牽制が抜群にうまく、ボールは遅くても小さなテークバックによる出どころの見にくさと、フォームやボールの緩急を駆使して打者を翻弄していた。こうした多種多様の猛者がいる中で、常に淡々と投げている武田勝を外から見て高評価するのは難しかったように思う。その意味では、名将・野村克也監督が武田勝の資質を見抜いて野間口に続く主力として起用していたのは、月並みな言い方だが「さすが」としか言いようがない。

◎日本ハム入団後の進化

 ところが、実際のところ、武田勝はプロ球団のスカウトからはそこそこの評価をされていたらしく、野間口がプロ入りした04年の時点で同時に指名される可能性もあったようだ。結局、その年の指名は実現しなかったものの、翌05年にはシダックスのエースとして、ともに初戦で惜敗ながら都市対抗と日本選手権で登板。9月にはオランダで開催されたIBAFワールドカップの日本代表に選ばれている。そして、秋の大学生・社会人ドラフトで日本ハムから4巡目で指名され、晴れてプロ入りとなった。



 とはいえ、このときの印象もやや微妙なものがあった。日本ハムは、選手の獲得基準を体格やスピードの尺度だけで判断しない球団で知られている。その姿勢は素晴らしいとはいえ、失敗となる指名も色々ある。果たしてあののらりくらりとしたピッチャーがプロで通用するのだろうか? このとき武田勝の年齢はすでに27歳。変則投法を唯一の武器に、ファームのエースになるか、1軍で中継ぎを数年やるくらいが精一杯のように思えた。
 ところが、いざフタを開けてみれば、武田勝は1年目の06年から1軍に定着してしまう。秋の日本シリーズでは先発登板も果たした。以降の活躍ぶりは、ご存知のとおりである。ドラフト目線でアマチュア選手を評価するとき、よく「プロ向き」という言葉を安易に使ってしまうが、そんなのは実際にやってみないとわからないものだと本当に痛感させられた武田勝の成功だった。
 ただ、社会人時代を見ている者としては、武田勝はプロに入ってからストレートの伸びが格段に向上したように思う。元々、スピードガン表示は130キロ台中心で大きな違いはない。だが、緩いスライダーをしつこく多投したあとに、右打者の懐にズバッと投げ込むストレートは、今ほどの伸びはなかった。その度合は実のところ、本当にわずかなものかもしれないが、その“わずか”な差によって、武田勝は今、第一線で通用しているように思うし、それがプロになってからも力を尽くしたことによる成果であると言えよう。そして、社会人時代は影を薄くしていた淡々とした姿勢も、プロでは味方の援護に恵まれずとも辛抱強く投げ抜く形で生かされていた。
 つまり、結果的にはプロ向きだったのだということだ。それが見抜けなかった私としては、「いやはや、恐れいりました。すいません」と、潔く白旗を上げる次第である。



◎今までどおり淡々と末永い活躍を望む

 ということで、今年も脂が乗り切った活躍を見せている武田勝。だが、遅咲きであるため、プロ7年目ながら今年でもう34歳となった。これからは、徐々に年齢との戦いにもなっていく。どのようにしてプロの世界で生き残っていくだろうか。やはり、アマチュア時代から一貫していた、しぶとく、そして淡々と投げ続けていく中で、さらなる“微進化”を積み重ね、末永く活躍することを期待したい。ジェイミー・モイヤー(マリナーズほか)や山本昌(中日)のように、40代後半になっても並み居る若い選手を手玉にとる姿が見られることを今から楽しみにしている。


文=キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載つつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』(10月5日創刊)を軸足に活躍中。

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