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村田透(クリーブランド・インディアンズ)独占インタビュー第3回:見えてきたメジャーの背中

 実は今年、村田は「メジャーデビュー」を果たしている。メジャーキャンプで、オープン戦に登板したことを報道で知ったファンも少なからずいるだろう。 

「いや、単なるバックアップですよ。ようするに“助っ人”ですよ。それに、今年が初めてというわけではないです。これまでもバックアップに呼ばれたことはあったんですが、実際に投げる機会がなかっただけなんです」

 キャンプも終盤に差し掛かった3月20日、対アスレチックス戦の8回2死からメジャーのマウンドに立った。それまではスタンドのない練習グラウンドでしかプレーしていなかった。すぐ近くにある空港の滑走路から響く飛行機の爆音を聞きながら仰ぎ見た、すぐ近くのメイン球場で練習するメジャーとの途方もない距離が一瞬だけ縮まった。

「正直、やっとここまで来た、って感じでしたね。(巨人時代に参加した)アリゾナ・フォールリーグ(マイナーのシーズン後、有望選手を集めて行うリーグ。日本からも年によっては選手が派遣された)でメイン球場は使ったことはあったんですけど、(インディアンズのキャンプ地の)グッドイヤーのマウンドは初めてでした」

 試合はすでに大差がついていたが、ランナーを溜めたピンチでのいきなりの登板だった。

 打者との駆け引きは全て覚えているという。

「中島(裕之/元西武)さんとも対戦したんですよ。セカンドフライですね。試合前には挨拶にもいきました。今まで面識はなかったですが、松坂さん(大輔/2013年シーズンはインディアンズマイナーでスタート)が言ってくれていたみたいで。でも、いざマウンドに立つと、そんなのは全然関係なかったですね。もう必死でしたから」

 代わりばな、先頭に四球を与えるも、次の打者をライトフライに打ち取ってなんとか切り抜けた。しかし、甘くはなかった。9回は4安打を許し2点を失った。

「自分の投球ができないまま終わったって感じでしたね。カーブでストライクを取れなかった……。絶好のチャンスと思いすぎ意識しすぎたですね」

 メジャーのボールにも対応できなかった。

「全然、違うんですよ。マイナーのボールは、まだ僕がいた頃の日本のボールに近かったくらいです。滑り方も大きさも、メジャー球は全部違うんです。結局、それに慣れることができないまま、何もわからずに終わってしまった感じです」

 「初登板」はほろ苦いものになったが、村田はインディアンズのキャンプ打ち上げ後のオープン戦帯同メンバーにも選ばれた。「メジャーリーガー」としてチャーター機に乗り、機内食として出された分厚いステーキをほおばった後は、両側に誰もいないシートに横になった。「1軍」を感じた瞬間だった。



 しかし、遠征先のサンディエゴではリリーフの声がかかることはなかった。

 この開幕前の最後のオープン戦にまで帯同すれば、いよいよメジャーか、と思いがちだが、実際には契約の壁が存在する。最後の最後に「大逆転」を演じ、調子の上がらなかったメジャーリーガーにとって代わって、メジャー契約を勝ち取る者もいれば、村田のように、緊急事態に備えてのバックアップ要因として帯同を命じられる者もいるのだ。そのことは村田自身よくわかっていた。

「淡い期待を抱くことはなかったですよ。マイナーから駆り出されただけなんで。遠征に行くのに、ピッチャー2、3人がバックアップに呼ばれるんですけど、それに声がかかっただけです。野手もマイナーから10人くらい連れていかれてました。僕らを試すっていうものでも、将来的な昇格を見据えての経験を積ませるっていうわけでもないです。

 マイナーの主力は、(キャンプ地に)残って開幕に備えてました。マイナーだって勝つために試合するわけで。そういう中、僕らはマイナーのキャンプ打ち上げの前に駆り出されているわけですから。本当に大事な選手は(キャンプ地に)残って最終調整しないと。特に投手はね」

 それでも、村田は始めてメジャーのスタジアムの土を踏んだ。しかし、それがまだ「本物」のメジャーでないことは十分理解していた。

「もちろん、ベンチには入りましたけど、うれしいって感じでもなかったですね。一緒に行ったからって、余程のことがない限り、試合に出ることができるわけでもないし、開幕に残ることもないですから。

 もちろんメジャーの遠征に帯同できたのは自分にとっては大きいですし、勉強にもなりましたが、本音のところは、(3Aの)開幕も近づいていたので、それに向けて練習や、最後の調整がしたかった、って感じです。でもまあ、メジャーの選手と一緒に行動できたんで、いい経験でしたね」

 だから、メジャーの一員という実感は湧かなかったようだ。

「やっぱり壁はありましたね。メジャーとマイナーの上下関係みたいな。こっちはホント『助っ人』みたいでしたから。さすがに『お前誰やねん』みたいなことはないですよ。メジャーの選手と言えども、みんな苦労していますからね。逆にちょっと気を使ってくれるくらいだったです」

 中でも、かつて日本でプレーした「元助っ人」はなにかと村田を気遣ってくれたと言う。

「アッチソン(元阪神)がいたんで助かりました。日本でやっていたせいか、別に僕のことを知っていたわけではないけど、結構、彼は声をかけてくれたんですよ。自然と日本の話になりましたね」

 2008年から2シーズン、阪神でセットアッパーを務めたベテランは、帰国後もメジャーで貴重なリリーフとして活躍した。インディアンズとマイナー契約を結び、村田らとともに汗を流していたのだ。彼は「大逆転」を演じ、この最後の遠征前にメジャー契約を勝ち取っていた。苦労人の右腕は、今年も70試合に登板し、負けなしの6勝2セーブを挙げている。


▲村田透ベースボールカード


(次回に続く)

■プロフィール
村田透(むらた・とおる)/1985(昭和60)年5月20日生まれ、大阪府出身。大体大浪商高〜大阪体育大〜巨人〜インディアンズマイナー。大体大浪商高では2002年のセンバツに出場し、勝利も挙げた。大阪体育大3年時に大学選手権で初優勝に貢献し、MVPも獲得した。2007年の大学社会人ドラフトで巨人1巡目の指名を受け入団したが、3年で戦力外通告を受ける。トライアウトに参加した際に、インディアンズのスカウトから誘いを受け、マイナー契約を結んだ。2014年は主に3Aで先発投手として活躍した。ブログ「村田透のおもんない話(http://ameblo.jp/toru-murata/)」

■ライター・プロフィール
阿佐智(あさ・さとし)/1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。

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