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第九回 チーム選びの落とし穴(3)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考えるコーナーの第九回目。今回は野球ライター“ハリケン”こと服部健太郎さんが実話を交えて、「チーム選び」について語ります。

 前回まで、「わが子を少年野球チームに入れる時、いったい何を基準にチームを選んでいるのか?」をテーマに、「最も多い理由と基準」や「落とし穴」について触れてきた。今回は「のびのびしたゆるいチーム」の落とし穴について考えてみよう。

「のびのびチーム」にも落とし穴


「『チームが強いから』という理由で子どもの野球チームを選ぶ際の注意点』が主テーマだった前回。もしかすると、「強いチームはいろいろ裏のからくりがありそうで、なんだか怖くなってきたよ。失敗したくないから、勝負にこだわらない、のびのびしたゆるいチームを探すよ」と思ってしまった方もいるかもしれない。
 しかし、「『のびのびしたゆるいチーム』ならば、世の親子たちは不満を抱かないのか?」と問われれば、そうとも言い切れない。チーム選びの難しいところである。

のびのびチームにいる2タイプ


「のびのびしたゆるいチーム」という評価をその地で受けているチームに入団した方々に「なぜそのチームを選んだの?」という質問を向けた場合、返ってくる答えは大きく二つのグループに分けられる。
 一つ目のグループを仮に「タイプA」とする。入団理由には次のようなものが挙げられる。

「このチームなら、へたれで運動神経の鈍いうちの子でも続けられそう。試合にだって出してもらえそう」
「男の子だから、キャッチボールくらいできるようになってほしいけど、別に野球にどっぷりのめりこんでほしいわけじゃない。あくまでも習い事感覚で入れた」
「受験勉強をしながら運動不足解消程度に野球ができるところがよかった」

 こういった理由による入部は親主導によるものが大半で、当の子ども自身は、野球に興味がないばかりか、入部するまではキャッチボールすらまともにやったことがなかったりするケースが多い。親子共々、野球に対する温度は総体的に低いのが特徴だ。
 タイプAが「ゆるい」という点を重視し、選んだ層だとすると、もう一方のグループである「タイプB」は「のびのび」というフレーズを重視した層と言える。例を挙げると、

「野球は親子共々大好きだけど、子どもには勝負にこだわらない、のびのびとしたチームで野球をさせたかった」
「将来的には野球選手や甲子園を目指してほしいけど、子どものうちは楽しく野球をさせたいから」
「上の子が勝利至上主義のチームで酷使されて故障してしまったから、下の子はのびのびとしたチームでやらせたかった」

 といった理由だ。
「強いチームの落とし穴」が不安になり、「のびのびしたゆるいチーム」を検討し始めた方は、大半がタイプBといっていいかもしれない。
 しかし、この類のチームの中で、不満を抱きやすいのは実はタイプBだったりする。

じれったいタイプAへの不満


 タイプBはいったいどのような不満を「のびのびゆるゆるチーム」に抱くのだろうか。
 まず挙げられるのは、同チームの中にタイプAの選手が多いパターンだ。
「野球と真剣に向き合っていない選手が多すぎる!」
「習い事気分で野球をやってる。野球をなめてる!」
「根本的に野球が好きじゃない子が多すぎる。うちの子もつられて意識が低くなりそうだ」
 などなど。
 タイプAの子たちにすれば心外な話だが、タイプBの人たちからみれば、片手間に習い事感覚で野球をやっているように見えるタイプAの子たちは、じれったい存在に映りがち。タイプAの選手の割合が多いほど、「弱いチーム」という評価をいただく可能性は高く、「勝負にこだわらないチームがいいとは言ったけど、やる気のあまりない子に囲まれ、足を引っ張られて負けるのはどうにも腑に落ちない」といった不満が次第に募っていく。
 チームに入る段階ではタイプAだったが、次第に野球熱が高まり、親子共々、意識もやる気もタイプB寄りになるケースもある。しかし、それはタイプBに生じがちな不満を抱えやすくなる、ともいえる。
 チームが選手全員を均等に試合に起用するような方針だと、
「どうして頑張っている子と野球を片手間にやっている、頑張っていない子の試合に出てる頻度が同じなんだ!?」
「それを公平と呼ぶなら、真剣に野球と向き合っている子たちがかわいそう」
 といった指導者のほうへ矢印の向いた不信感も芽生えてしまったりする。

素晴らしい「のびのびチーム」とは?


 ほかにも、さまざまな誤算がタイプBにはつきまといがちだ。
「のびのび」の正体が実は「だらだら」だったりする。
「のびのびしたチーム」という触れ込みだったが、実際は「あまりやる気のない子もやり過ごすことができるチーム」という意味合いだったりする。
「これじゃあ意識の高い子が浮かばれない。もっと厳しくしてくれ」とリクエストしたくなるが、厳しくするとタイプAの子たちが辞めかねない。のびのびチームはタイプAの子たちをきちんと受け入れることでチームとしての存在価値を見出しているケースもあるため、環境を劇的に変えることは案外難しかったりする。
 タイプAの親からは「そんなに野球と真剣に向き合いたいならこんなゆるいチームに入ってこなきゃよかったのに」といった目で見られ、ふと気が付けば、勝利にこだわりすぎていて、毛嫌いしていたはずのよそのチームが「野球への意識が高い子ばかりの、ピシッとした、いいチーム」に思えてきたりする。
 もちろん、のびのびを謳いながら、チームワーク、野球に対する意識、技術の向上に長けた素晴らしいチームもたくさんあり、すべての「勝利にこだわらないチーム」でこのようなことが起きるわけではない。
「強いチーム」に落とし穴があるのと同様、「勝負にこだわらないのびのびチーム」にも落とし穴が存在するということ。このことを頭の片隅に置いておくだけでも、「入ってよかった」と思えるチームに入団できる確率はかなり高められるはずだ。

服部家の入団事情


  「ところで服部家では、なにを基準にお子さんのチームを決めたのですか?」
 よく、そう訊かれるが、実は、長男ゆうたろうが2年生の時にチームに入ることになった際、大きな決め手となったのは「勝負にこだわりすぎず、のびのび、ゆるゆる」という点だった。
 第3回の記事を読んでくださった方などはわかってくださると思うが、未知の世界へ踏み出すことに著しく臆病で、野球チームに入ることに対し、とてつもなく後ろ向きだった長男を強豪チームに入れようなんていう気はさらさら起きなかった。「もしも無理やり厳しいと評判のチームに入れてしまったら、好きになりかけていた野球を嫌いになってしまうんじゃないだろうか?」。そんな危惧もあった。とにかく、ハードルの低いところからスタートさせよう。そんな思いでチーム入団を決めた。
(次回へ続く)



文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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