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光星学院では3季連続準優勝! スカウトの評価を覆し、田村龍弘(ロッテ)が覚醒した3つの理由

 6月の月間打率がリーグトップの4割。リード面でも投手陣を引っ張り、6月の月間MVPに輝いた田村龍弘(ロッテ)。パ・リーグの捕手としては2004年の城島健司(当時ダイエー)以来、ロッテの捕手としては1992年の青柳進以来だという。

 本人は、一時打率2割を切っていたバッティングの突如の目覚めに「自分でもわからない」とコメントしていたが、本来、“打てるキャッチャー”であり、それも相当に“打てるキャッチャー”だった。ただ、プロ入り時にはキャッチャーでなくなる可能性もあったのだが……。



★高校当時、評価されにくかった“キャッチャー・田村”

 4年前の秋。ドラフト前の取材で光星学院(現校名は八戸学院光星)の練習グラウンドを訪ねた。ちょうどシートノックが行われており、見渡してみると田村は後輩たちに交じり、セカンドのポジションについていた。左手にはキャッチャーミットではなく内野手用のグラブ。3年時も春夏の甲子園で活躍した田村だったが、活躍の一方でスカウトたちからは“こういう話”が聞こえるようになっていた。

「キャッチャーでは厳しい」
「内野で使えるなら二番手野手くらいになる可能性は……」

 “キャッチャー・田村”を否定する人たちの理由は、何を置いても当時173センチ78キロとされていたサイズだった。

「あの体でプロのレギュラーはきつい」
「長いシーズンもたない」

 どの時代でも当たり前のように囁かれる根拠のない打消し理由。僕はそんな言葉を口にするスカウトに何度か「でも、田村は……」と何度か“反論”した。僕の中では“キャッチャー以外の田村”など、持ち味の7割を消すようなもの、田村はキャッチャーでこそ、との思いが強くあったからだ。

★攻守どちらでも“語り”ができた

 田村は2年時の甲子園ではサードを守り、キャッチャー・田村をしっかり見たのは3年時の春夏の甲子園での10試合ほどだった。動きに緩慢なところはややあったものの、型にはまらず、時に徹底して攻めるリード、あるいは、試合前後の取材ルームでの“語り”に捕手としての資質がビシビシと伝わってきた。

 とにかくよくしゃべり、実に記憶のいい選手だと感心させられた。絶対とは言わないが、好捕手の条件だ。

 たとえばタイムリーを放った打席を振り返るとする。田村はあの場面は前の打席でこういう攻めがあり、初球、2球目がこうだったから3球目のこの球を狙った、といった調子で快打の理由を明快に語ってきた。

 捕手としても同様で、具体的な場面を挙げて話をするほど、その口は饒舌になった。捕手としての目が打者として生き、打者としての目が捕手として生きる。まさに理想の打てる捕手の姿に見えた。ただ、この辺りの野球脳の部分はなかなかスカウトたちには伝わらない。


★ずば抜けたミートセンスとタイミングの取り方

 打者・田村を振り返ると常に打っていた印象だ。甲子園はもちろん、青森県大会でも、調べれば東北大会でも、どんな大会でも常に打った記録が残っている。

 中学時代からの同僚の北條史也(現阪神)は「アイツは中学時代からいつも打ってます。スランプの時を見たことがない。僕の苦手なインコースもさばきますし、単純に凄いです」と話していた。あるいは高校の日本代表でチームメートとなった?橋大樹(龍谷大平安→広島)も「タツ(田村)のミートセンスはちょっと違います。飛ばす力は僕も負けないですけど、芯で捉える技術はマネできない」と一目置いていた。

 当時、本人に打撃について聞くと、小学校の頃から指導者によく言われてきた言葉として2点を挙げてきた。1つは「お前はポイントを知っているから打てる」。もう1つは「タイミングの合わせ方が上手いから打てる」。

 タイミングと言えば甦ってくるシーンがある。3年夏の甲子園の3回戦(対神村学園)。田村は柿澤貴裕(現楽天)の変化球に対し、足を降ろしたところで1、2……としばらく待ち、そこへ来た高めの球を左中間スタンドへ放り込んだことがあった。これには驚いた。

 準々決勝の桐光学園戦でも松井裕樹(現楽天)のスライダーを同じように左足を降ろしたところで待ってから、痛烈なライナーでライトへ打ち返した。

 あるいは、相手が投球モーションに入ったところ、打席内で足の置き位置を変え、打ったことも。

 形や常識にこだわらず、対相手を第一に考えたスタイルも、やはり田村の高い野球脳を伝えてきたものだった。



★現状把握力と危機に対する備えの早さ

 4年前の取材時、「絶対に田村はキャッチャー」「キャッチャーでこそ」と力む40過ぎのライターに、内野ノックを終えたばかりの18歳は冷静にこう返してきた。

「北條は上位でプロだと思うし、スター候補は大事に育ててくれるはず。でも、自分は下位指名。すぐ、クビになるかもしれないので、キャッチャーでも内野でも出れるチャンスがあるところで出ていかないとダメなんです」

 現状の評価もしっかり受け止めた中での備え。ますます大したものだと感心させられた。あっという間に1時間近くになったインタビューを終えた時に、やはり強くこう思っていた。

「田村はキャッチャーでこそ」


 月間MVP受賞の知らせに、あの時“キャッチャー・田村”の評価に消極的だったスカウト陣はこの活躍をどうみているのだろう、と少しひねた思いが頭をよぎった。

 一方で現役時代は名捕手だった伊東勤の監督就任もおそらく追い風となり、捕手として田村を指名したロッテ。こちらのスカウト陣にも当時の田村評を改めて聞いてみたい思いである。


文=谷上史朗(たにがみ・しろう)
1969年生まれ、大阪府出身。地元・関西を拠点にプロ・アマ問わず幅広く野球を取材するスポーツライター。田中将大(ヤンキース)など、中学時代からマークしていた選手も多く、これと思った選手を徹底的に追いかける。近著に『崖っぷちからの甲子園―大阪偕星高の熱血ボスと個性派球児の格闘の日々』(ベースボールマガジン社)がある。

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