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国際色を増すスポーツアイランド・沖縄〜懐かしい顔が集まる韓国球団キャンプ1―指導者編―

 前回は、沖縄恩納村での韓国球団オープン戦から、日本野球にゆかりのある選手の今をお送りした。しかし、携わっているのは選手だけではない。今に限ったことではないが、指導者もまた、海を渡って日本野球を韓国に伝えている。

 韓国野球は、日本流とアメリカ流の両極の間を揺れ動いていると言っていいだろう。プロ創生期、選手の多くは日本の社会人やプロを経験した者で、指導者も日本育ちの在日韓国人が少なからずいた。

 今年からハンファ・イーグルスの監督としてKBO(韓国プロリーグ)に復帰したキム・ソングンもそのひとりだ。1982年の創設以来、韓国のプロ野球を見守り続け、厳しい練習で選手を鍛え上げてきた。合理性ばかり追求する現在の日本球界にしばしば苦言を呈するキム監督だが、今年は、西本聖(元巨人ほか)、正田耕三(元広島)、古久保健二(元近鉄ほか)、安倍理(元西武)、立石充男(元南海)という古き良き昭和の日本野球を知り尽くしたコーチ陣を招いた。

 赤間運動公園の施設は実に充実している。メイン球場の横には陸上競技場があり、サムソンの選手は毎日の練習をこのスタンド下にあるウエイトトレーニング場で終える。これらスタンド付きのスタジアムの一段下には、内野だけのフィールドとサブグラウンドがある。両軍の投手陣は、このサブグラウンドの両端を使って試合前の調整を行っていた。ハンファ・イーグルスの選手はバント処理の練習をしていた。


 その選手たちにまなざしを送っていたのが、現役時代、何度も守備の名手に贈られるダイヤモンドグラブ賞(現ゴールデングラブ賞)に輝いた西本ピッチングコーチだ。昨年まで指導していたオリックスを退団後、ハンファから声がかかったという。現役時代、誰にもマネできない練習量で、「怪物」江川卓とエース争い演じた西本は、キム監督好みに違いない。

 バント練習が終わると、選手たちの様子を立って見ていた西本は、選手のもとに歩み寄り、芝生の上に両膝をついた。そしてボールを受け取ると、数メートル先の選手にスナップスローで投げる。それを何度も繰り返す。時折、周囲の選手にヒジとスナップの使い方をスローモーションで解説している。伝家の宝刀・シュートを伝授しているようだった。

「練習量は確かに多いね。何しろ監督さんが厳しい方だから。でも、それもこのチームだからってのもあるんじゃないかな」

 初めての韓国球団のキャンプについて西本はあっさりこう言った。現役の最後を韓国で送った、この日の対戦相手であるサムソンの門倉健投手コーチは、かつて、自分が実際に体験した韓国野球の練習量に驚いたことを述べている。しかし、自身の現役時代の練習量の多さがそうさせるのか、西本は、単純な日韓比較をすることはなかった。

 練習方法についても、自分が経験してきたものと全く違うとしながらも、それを「お国柄」のゆえだとはとらえていないようだった。

「もう全然違うね。でも、日本でもチームによって結構違うからね。こっちでも、チームによって違うんじゃないかな」

 初めての韓国、いろいろと戸惑いもあるだろう。それでも、言葉については、問題ないと言う。


「まずは野球でしょ。そうでしょ、野球しにきたんだから。通訳もいるしね」

 しかし、通訳を介すると細かいニュアンスなどは伝えにくいのではないか。その質問を向けると、笑いながら私の旨をつついてきた。

「確かにそうだよ。でも仕方ないじゃない。そこを何とか伝えていくのかが、我々の仕事でしょうよ」

 今はとにかく、韓国語の習得まで手が回らないと言う。

「もう選手の背番号と名前覚えるのが、大変なんだから」

 と、笑いながらメイン球場に向かう背中は、新たな挑戦に向かう喜びにあふれていた。

 オープン戦の季節。私はとりわけ、沖縄でのオープン戦が好きだ。今年のペナントレースはどうなるのかというワクワク感と、今シーズンはどんな選手が出てくるのかという期待感……。沖縄独特のゆったりした空気がない、まぜになったキャンプ終盤の試合の雰囲気は、ほかの場所では味わえない。小さなスタンドのネット裏の席には、力投する選手の息づかいやバットがボールをとらえる乾いた音が飛び込んでくる。この音を聞いて感じる球春はなんとも言えない。

 そう言えば、この日の赤間での試合、スタンドには、ひとつひとつのプレーの度に上がるハンファベンチからの声が鳴り響いていた。「声出し」は日本野球の基本。キム・ソングン監督の「イズム」は、日本人コーチたちを通じて確実にハンファナインに浸透していっているようだった。


 2月に沖縄に行く野球ファンには、是非とも韓国チームのキャンプ見学も勧めたい。日本ゆかりの選手や指導者は今や各球団にいるし、日本チームとの練習試合も行われる。静かな雰囲気の中で、じっくりキャンプ見学ができるし、なんと言ってもネット裏最前席でのプロ野球観戦が、なんと無料でできるのだ。野球の国際化が進む今、国境を越えなくても目にすることができる海の向こうのプロ野球に触れるのもまた一興ではないだろうか。


■ライター・プロフィール
阿佐智(あさ・さとし)/1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)

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