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堂々たるマウンドさばきと強い真っ直ぐ…松田遼馬(阪神タイガース)

 ゲーム終盤のマウンドへ現れ、実に堂々と自分のボールを投げ込む。まだ2年目の19歳というのに、まるで恐れがない。その投げっぷりを見る度、松田遼馬を初めて長崎の波佐見高校へ訪ねた時の思い出が蘇る。

 強く印象に残ったのは当時、野球部長を務めていた宮原先生の話だった。宮原先生は「島原の中学校に球の速いピッチャーがいる」と噂を聞き、ある試合を見るためにはるばる足を運んだ。目当ての投手が松田だったわけだが、そこで確かに球の速さ、強さも目立ったが、何より、目を引いたのがピンチでの勝負強さだと言ったのだ。

 「その試合でも何度もピンチはあったんです。コントロールもまだ不安定でフォアボールやエラーもあって塁に結構出していた。でも、ホームには還さない。中学生あたりだと精神的にまだまだ幼いですから、そういうピッチングはなかなかできない。でも、ランナーが出てもまったく慌てた様子も見せないし、堂々としていた。これは違うな、とそこを見て思いましたし、これは勝てる投手だと思いました」

 松田の一番の売りはこのピンチでの強さにある。高校時代にも真骨頂を見せた戦いがあった。3年春のセンバツ、横浜戦だ。「松田遼馬」の名前を一気に全国区に広めた一戦。全国屈指の名門・横浜を相手に8安打、8四死球を許し、8回を除き毎回走者で満塁の場面も実に3度あった。しかし、試合巧者横浜に15残塁を記録させる粘投で見事1失点完投、170球を投げきり勝利を掴んだのだ。

 普段の松田はいつも目元をニコニコとさせながら言うなれば飄々、感情の起伏を感じさせないタイプ。田中将大(楽天)や前田健太(広島)あたりに感じた「強さ」よりも、大自然の中で育ち、野球楽しんできた「大らかさ」が堂々たるマウンドさばきにつながっている気がする。



 7月13日、甲子園でのDeNA戦の今季初登板から17試合19イニング連続無失点で一躍、関西では“時の人”となった松田。無失点継続していた17試合中、15試合は1イニング限定登板だった。うち2度の3者連続を含め3つのアウトを全て三振で終わらせた試合も3度。8月29日の巨人戦で長野にサヨナラ本塁打を浴び、連続無失点は途切れたが、ここまで20試合、21イニングを投げ23奪三振と奪三振率も高い。

 真っ直ぐは球速以上に手元で強いのが持ち味で、好調時は少々甘く入っても押し込める。変化球ではカットボールがプロに入り、持ち味になってきているが、絶対的な決め球となる変化球はまだない。逆に言えば、ストレートの強さでここまでは投げきっており、ワンランク上の変化球を手にすれば、その時点から一気にストッパーとしての可能性も広がっていくだろう。そうなっていくまでの過程では、勝ちゲームでの登板や、今以上に厳しい展開で投げる場面も増え、松田の良さがより見えてくるはずだ。

 ただ、ここにきての投球には疲れが見え、29日に初失点で初黒星の後は、4日のDeNA戦も1イニングで3安打を浴び1失点。その試合はテレビ観戦だったが、これまで見た中で最も球の走りが悪く、インパクト勝負でも押し負けていた。肉体的、精神的にも疲れがたまってきていることは想像に難くなく、終盤戦はより厳しい状況に追い込まれることも十分考えられる。それでも、近い将来ストッパーの可能性も適性も十分感じさせる若虎。今は、強く、速い真っ直ぐと、打たれてなお堂々と経ち続けるマウンド姿を見守り、ここから一層の成長を楽しみたい。

ライタープロフィール
谷上史朗(たにがみ・しろう)…1969年生まれ、大阪府出身。関西を拠点とするライター。田中将大(楽天)、T−岡田(オリックス)、中田翔(日本ハム)、前田健太(広島)など高校時代から(田中は中学時代から)その才能に惚れ込み、取材を重ねていた。

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