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高木勇人を見てきたからわかる、課題克服からプロ入りへの道筋。しかし、この活躍までは予想できず…/file#034

昨年の都市対抗予選で完封勝利


 この原稿を書いている6月上旬は、社会人野球の東海地区予選が真っ盛りだ。高木勇人が昨年まで所属していた三菱重工名古屋は、6月6日の試合を終えた時点で本大会出場権を獲得できておらず、予選敗退のおそれも出てきた。三菱重工名古屋のある選手に、こんなことを聞いてみた。高木がプロで活躍していることで、チーム内に盛り上がりが生まれたかどうか、と。それに対して答えは「あまりないですね。それよりも、高木と中根さん(慎一郎/昨年限りで退部)がいなくなったので、投手陣が大変で……」と、むしろ高木の抜けた穴の大きさを嘆いていた。

 昨年の都市対抗予選で高木は大仕事をやってのけた。残された最後の代表枠を懸けての決定戦で、ヤマハを完封。140キロ台後半のストレートで押し、勝負どころではスライダーをコースへ決めて三振を奪った。投げっぷりがよく気合十分の見事なピッチング。大事な試合でも勝ったことにより、スカウトの間でも「高木をプロで」との空気が一層強くなった。


ドラフト候補と期待されながらもチームでは……


 しかし、それまでは、あまり高木が大活躍したという印象がない。というのも、三菱重工名古屋の先発はベテラン左腕の中根慎一郎と、過去に中日でプレーしていた菊地正法、さらにアンダースローの水野鉄男が担っていたからだ。

 前述した昨年の完封劇も、最後の最後で大会初先発を務めたもので、普段は主にリリーフ役。150キロ投げるというのは有名だったが、役割的には地味だった。しかも菊地などは、ほとんど一人で投げ抜いてしまうから、高木に出番はなし。高木を見に来たスカウトも“空振り”になり、その日は高木を見られずじまいで帰る羽目になるから、「菊地がいらんことをして……」という冗談も聞かれたものだ。

 また昨年、東海地区社会人野球ではシーズン開始後、しばらくは守屋功輝(Honda鈴鹿〜阪神4位)のほうが高木より評価が高かった。年齢が高い高木は、投手不足の球団が急場しのぎに獲得する程度では、という見方もあったほどだ。

 日に日に評価を上げ、ドラフト間際に上位候補まで浮上したわけだが、それでもプロでは中継ぎ起用が想像される程度で、ここまでの大活躍は誰も予想できなかった。

筆者は2010年に初取材、しかしその後は……


 150キロの球をもっていても、リリーフでいくらか投げるだけにとどまり、試合を決定づけるプレーが頻繁にあるわけではなかったから、筆者もあまり高木と直接話す機会がなかった。しかし、一度だけ5年前に、試合を終えた直後の高木をつかまえ、簡単に話を聞いたことがある。2010年春のことで、東北福祉大とのオープン戦の試合後だ。

 この年は、高木が三菱重工名古屋に所属して3年目。高校から社会人野球入りした高木にとって、高校3年時を最初のドラフト対象年とするなら、この年は2度目のドラフトイヤーだった。


 プロ入りについての思いを聞いてみると、「意識するところもありますが、あまり意識しすぎると(マウンド上で)力みになってしまうので……。リラックスして投げられればと思っています」と答えてくれた。雰囲気は今と変わらず、ゴツさはあまり感じないタイプだった。

 技術的には「課題はコースに投げること。球の威力を殺して低目にというよりは、キレ・スピードを保ったままコースに投げたい。そうすると空振りもとれるので」と分析していた。制球力が課題だと言われており、それを本人も自覚しながらも、長所である球威は失うまい、という姿勢がみられた。実際、春先ながら145キロ前後の馬力のあるボールを投げており、迫力を感じたものだ。

 結局、この年のドラフト指名がなかった高木は、2011年〜2013年の秋のドラフトでも吉報が届かず、通算5度の「指名漏れ」を経験することになる。

 2010年春に話したとき、そこから4度指名漏れするなど本人は思っていなかったと思う。そして筆者もまさか、その投手が4年後に指名されるなど考えすらしなかった。本コラムのテーマは『俺はあいつを知ってるぜっ!!』だが、今回はむしろ逆で、アマにいた4年間の間にもっと話しておけばよかったと、後悔の念に苛まれている。



■ライター・プロフィール
尾関雄一朗(おぜき・ゆういちろう)/1984年生まれ、岐阜県出身。新聞記者を経て、現在は東海圏の高校、大学、社会人を精力的に取材している。絶大なネットワークを持ち、多くの「隠し玉選手」を発掘、そのつど『野球太郎』誌面で発表している。中日新聞のウェブサイト『中日新聞プラス(http://chuplus.jp/blog/list.php?category_id=486&pl=131739992)』にて連載している。

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