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《野球太郎ストーリーズ》巨人2013年ドラフト1位、小林誠司。社会人でイチから技術を磨き直した強肩捕手(2)

取材・文=服部健太郎

《野球太郎ストーリーズ》巨人2013年ドラフト1位、小林誠司。社会人でイチから技術を磨き直した強肩捕手

前回、「イケメンドラフト候補生」

「阿部慎之助の後継」という近年の宿題を片付けるべく、巨人がドラフト1位で指名したのは社会人の守備型捕手。しかも華やかな容姿の好青年だった。

プロに入るだけでは意味がない


 同志社大で1年秋よりレギュラーを奪い、上級生時には4季連続優勝の立役者となった。気がつけば、ドラフト候補生として自分の名が野球雑誌に載ることが当たり前の状況になっていた。

 幼少時から憧れていたプロの世界に、手が届くところまで来ている。大学卒業後はプロの世界へ行く。小林の心は固まっていた。

 ところがそんな小林に苦言を呈した人物がいた。日本生命の花野巧監督だ。

「小林は大学の後輩ということもあって、気にかけて大学時代の彼のプレーを見ていたのですが、プレーのひとつひとつが甘いんです。プロですぐに通用するようなレベルではなかった。でも小林自身は、自分がドラフト候補生として、マスコミに取り上げられていることもあってか、完全に舞い上がっていた。彼には『プロに行きたいと言えば、獲ってくれるところはあるかもしれないけど、今のままでは到底通用しないよ』とはっきり言いました。大卒選手は、やはり即戦力寄りの存在として見られてしまう部分が強い。それならば、社会人に進み、プロですぐに通用するだけのスキルを身につけた上で、2年後に即戦力捕手として評価を上げてからでも全然遅くないぞ、と」

 小林は大いに悩んだ。プロに入るだけじゃ意味がないという花野監督の言葉に、納得する自分もいた。

 最終的に小林は大学4年時にプロ志望届は出したものの、1位指名をプロ入りの条件にしたこともあり、指名はなかった。しかし小林に後悔の念はなかった。

「『2年後に行ける保障なんかないんだから、行けるチャンスがある時に何位であっても行ったほうがいい』という意見も周囲にはあったけど、自分は『2年後にドラフトにかからないのなら、大卒で即プロ入りしても、どのみち成功していない』という考え方だった。2年後の秋に即戦力捕手という高い評価で指名してもらえるように頑張ろうと決意し、社会人の門を叩きました」

ユニホームを誰よりも汚す日々


 日本生命に入社すると「自分のプレーがこれまでいかに甘かったか」ということを、とことん思い知らされた。

 それまでの小林は、無走者の時は後ろに逸れても構わないという姿勢でプレーしていた。しかし、花野監督はそういったプレーを断じて許さなかった

 花野監督に「走者がいるかいないかでワンバウンド捕球に対する意識を使い分けているような選手は、すでに相手にスキを見せているようなもの。そんな選手はいざ走者がいる場面できちんと止めようと思っても、ボロが出てしまう」と言われれば、うなずくほかなかった。

 イニング間の二塁へのスローイング練習。小林は捕球後すぐに投げず、投げやすい体勢に立て直し、じっくりと体重を乗せてから投げていたが、こういった習慣も花野監督の目にかかれば単なる悪習だ。

「監督からは『本番でそんなゆっくり体勢を立て直しているヒマなんかあるのか? 本番と同じようにすぐに投げなさい。バッターがいない分、焦る必要はないのだからストライク送球が100パーセント投げられるはず。100パーセントでなければ、相手が嫌がるスキのないキャッチャーとは言えない』と言われ続けました」

 リード面に関しても「自分の理想論の世界でサインを出している」とダメ出しを食らうところからスタート。一からやり直した。「野手の本塁送球がどんなに悪くとも、後ろに逸らした責任はすべて捕手にある」と徹底的に叩き込まれた。

 先輩たちの1球に対する意識の強さにも驚かされた。「1球に対し必死になってボールに食らいつく姿が、一番かっこいい」。心からそう思えるようになった。ユニホームを誰よりも汚した日々。それが小林の社会人野球生活だった。

 花野監督は言う。

「小林がすごいところは、入社後、自分の力不足を認められず、『こんなはずじゃ…』と下を向いているだけの選手が多い中、すぐさま自分の力不足を認め、一からやり直せたことです。実力不足を認めてからの成長の速さに彼の野球選手としてのセンスを感じました。

 この2年間、彼はワンバウンド捕球の練習とスローイング練習をずっとやり続けた。グラウンドを後にするのはチームでいつも最後。ユニホームは決まって泥だらけです。課題だったバッティングもプロの世界で4回に1回は打てるところまで成長した。もう大丈夫。プロでレギュラーを張れる選手になった、と言っていいでしょう」

 ドラフト会議の数日後、野村祐輔がこんな話をしてくれた。

「8年前のキャッチャーへのコンバート、聞いた時は『え!?』と思ったし、小林自身もコンバートの理由はいまだに監督から聞かされたことはないみたいですけど、コンバートは大正解だったということですよ。でなきゃ、ドラフト1位なんてことには絶対にならないですもん」

 再び同じステージに立った元黄金バッテリーの対決が、今から楽しみでならない。

(※本稿は2013年11月発売『野球太郎No.007 2013ドラフト総決算&2014大展望号』に掲載された「30選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・服部健太郎氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)

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