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柳田悠岐……ではなく菊池涼介、川島慶三。「柔」をポイントに身体能力の高さを検証してみた!

文=勝田聡

柳田悠岐……ではなく菊池涼介、川島慶三。「柔」をポイントに身体能力の高さを検証してみた!

 プロ野球選手に限った話ではないが、アスリートにとって「身体能力の高さ」というのは極めて重要な要素である、と言わる。

 しかし、身体能力は、例えば色がついているもののようにわかりやすいものではない。そして、単純に50メートル走で6秒ジャストだった、遠投で120メートルを記録した、と数値で表れるものばかりとは限らない。

 あくまでも漠然としたものなのである。にもかかわらず、「あの選手は身体能力が高い」といったファンの声を聞くことは少なくない。

 そこで本誌『野球太郎』編集部のカバティ西山は、どのような選手のことを「身体能力が高い」と考えているのか話を聞いてみた。カバティ西山の持論とは?

柔と剛のどちらにポイントを置くか?


──今回は身体能力の高い選手についてうかがいたいのですが、そもそもカバティ西山さんが考える「身体能力」ってどういうものなのでしょうか。

カバティ西山:やはり、その定義が必要ですね。そこでまず、野球のプレーにおける高い身体能力の対義語を考えてみたんです。となると「反復練習をして習得した技術」がそれにあたるのかなと。

──ということは、練習で習得できるプレーじゃないものが、高い身体能力によるプレーということでしょうか。一般的には糸井嘉男(オリックス)や柳田悠岐(ソフトバンク)のような選手のことを「身体能力が高い」と言っているファンが多いかと思います。

カバティ西山:はい、プロの選手が練習・トレーニングをしても追いつけそうにない飛距離や肩の強さがありますからね。そのような練習を重ねても踏み込めない領域のプレー、そもそも練習でやってない、咄嗟にできてしまうプレーのことを「高い身体能力によるプレー」と定義しました。その「高い身体能力」には2種類あると感じています。1つは、一般的にイメージしやすい「高い身体能力」をもった糸井や柳田を代表とする「剛」タイプ。もう1つが、「柔」タイプで、ここでは「柔」にポイントを置いて話を進めていきます。

──なるほど。その定義における「柔」タイプで身体能力の高いプレーヤーは誰ですか?

カバティ西山:まず広島の菊池涼介でしょうか。どんな体勢、飛んだり滑ったりしながら、ある程度、正確に強い送球ができる部分は高い身体能力がある証左でしょう。体の強さだけでなく、筋肉の柔軟性といいますか、優れた運動神経、体の反応のよさも持ち合わせていないとできません。スポーツ選手としてバランスがいいですよね。

──菊池は守備範囲の広さに注目が集まりますけど、身のこなしというか送球の強さは身体能力に由来していそうですね。その他にはどうでしょう。

カバティ西山:ソフトバンクの川島慶三とオリックスの後藤駿太でしょうか。

──川島と後藤ですか。少し意外な人選ですね。どうしてでしょうか。

カバティ西山:「高い身体能力」について、考え直すターニングポイントになったのが、2015年7月2日に行われた試合での川島の一連の動きでした。三塁走者だった川島が内野ゴロでホームに突っ込み、生還するスライディングが絶妙だったんです。

──動画で確認しましたが、捕手をかわして左手でベースを触り、その後、横に2回転していますね。

カバティ西山:その場面はギャンブルスタートだと思うのですが、ホームにヘッドスライディングしてから、その後の回転の仕方まで美しかったです。しかも、ホームインした後に“女の子座り”……正座から両足を外に開いた、いわゆるぺたんと座った状態から反動なしで立ち上がったのに驚きました。
 当時の川島は31歳です。プロ野球選手とはいえ、30歳を超えて“女の子座り”ができる柔らかい人は数少なく、さらに何事もないようにスッと立ち上がる筋力と体幹のバランス。「こういう選手のことも『身体能力が高い』って言うのだろうな」と考えるきっかけとなりました。

──たしかに、ただ筋力が強いだけではできないプレーであり、動作かもしれませんね。後藤はどんなプレーで感じたのでしょうか。

カバティ西山:高校時代(前橋商)の話なんですけど、甲子園でダイビングキャッチをした後、すぐに起き上がって送球し走者を刺したんです。打球の落下点までのスピード、勢いを殺さないダイビングキャッチ、それから送球に移る身のこなしが柔らかく、流れるようなプレーに見えました。

──川島も後藤も所属チームでレギュラーではありませんが、「身体能力は高い」ものがあると見ているのですね。

カバティ西山:2人とも“瞬間最大風速”は強いけれども、最終的な数字は普通にまとまってしまうんですよね……。プレーは柔らかくても、それが打撃成績にはつながらないようで(苦笑)。ただ、レギュラーになれなくても案外、こういった選手が長くプレーするんじゃないかなって思います。

 「柔」にポイントを置いた身体能力の高い選手として菊池、川島、後藤の3人が挙がった。菊池は広島で確固たるレギュラーであり、日本代表メンバーでもあるため、驚きは少ない。一方、川島と後藤はレギュラーと言える存在ではない。そういった選手の名前が出てくるのは少し意外だった。

投手は判断基準が少なく難しい


──これまでに菊池、川島、後藤の名前が挙がりました。その他の若手選手ではどうでしょうか。

カバティ西山:先の定義から見ると、中日の根尾昂は身体能力高いですよね。大阪桐蔭高時代からジャンピングスローでそんなに投げられるの? というプレーを見せています。「柔」タイプにも「剛」タイプにも見える、ハイブリッドな選手だと思います。アマチュアの選手ですが、亜細亜大の田中幹也が興味深いです。

──東海大菅生高時代に甲子園で「忍者」と呼ばれていましたね。

カバティ西山:そうです。その田中です。菊池の大学時代(中京学院大)を思い出すような身のこなしと柔らかさがあります。彼のような選手がいるとシートノックを見るのも楽しくなりますね。亜細亜大のシートノックは、レベルも高いですし、もともと見ていて楽しいのですが(笑)。

──根尾の名前が出たのでお聞きしたいのですが、藤原恭大(ロッテ)はどうでしょう?

カバティ西山:藤原は糸井や柳田の系統ですね。柔らかさというより力強さが先行しています。

──なるほど。これからが楽しみですね。ちなみに投手ではどうでしょうか。

カバティ西山:投手は、身体能力を測るうえでの手がかりがどうしても少ないですよね。バント処理やフィールディングのうまさが基準になるのでは、と思ったこともありましたが、練習が少なくてもできるタイプもいれば、それこそ反復練習で身につけたうまい選手もいます。

──たしかに単純な守備のうまさは身体能力と違う基準になりますね。

カバティ西山:どこで測るかは非常に難しいです。一つの例としてですが、早稲田大時代の大石達也(西武)、明治大のエース・森下暢仁、元中日の浅尾拓也などはショートでシートノックを受けても、他の選手と遜色なく上手でした。サッと二遊間に入ってノックが受けられる選手は身体能力が高いと言ってもいいかもしれません。

──エース級の投球ができて、しかもショートでシートノックを受けるのは身体能力が低いと難しいですよね。では、日本に来る外国人選手はどうでしょうか。ほとんどの野手が大砲タイプなので、あまり「柔」のタイプは少ないかもしれませんが。

カバティ西山:日本に来る外国人選手で二遊間を守れる選手は、「柔」も「剛」も兼ね備えた「身体能力の高さ」があると思います。ロッテなどでプレーしたクルーズ、広島や阪神で活躍したシーツ、横浜のローズなんかもそうですね。ただ、DeNAのソトはちょっと違うかもしれません。

──ソトが違うのはなんとなくわかります(笑)。最後になりますが大谷翔平(エンゼルス)はどう見ていますか?

カバティ西山:別格でしょう(笑)。イチローが引退会見のときに「世界一の選手にならなきゃいけない選手」と言っていたほどですから。

 今回は「身体能力の高い選手」という曖昧なテーマを取り上げたが、一般的に抱かれているイメージとは少し違ったのではないだろうか。それは冒頭でも触れたが、剛と柔のどちらにポイントを置くかの違いからくるものである。

 身体能力を語る場合、どうしても5ツール(コンタクト、パワー、スピード、フィールディング、肩)を中心に選手を見てしまう。そのため「剛」が中心になるのは致し方ない。一方で、カバティ西山氏は身のこなしや柔軟性と言った「柔」を中心に見ていた。だから人選も異なるのである。

 これをきっかけに野球の新しい見方を知ってもらえれば幸いである。

文=勝田聡(かつた・さとし)

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