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本誌で語り尽くせなかったロングインタビュー完全版!三田紀房、高校野球の「監督」を斬る!(最終回)

『砂の栄冠』『クロカン』『甲子園へ行こう!』などで知られる三田紀房氏が、本誌『野球太郎』で語った「高校野球監督の見方」。紙幅の都合でカットせざるを得なかった未収録分をたっぷり含めた、完全版インタビューをお届けします。今回がラストになります。


高校野球監督という特殊な人種は
世界にたった4000人しかいない


──監督を大別すると、勝負師タイプと教育者タイプに分けられると思いますが、三田先生の好みはやはり前者ですか?

三田 正直、勝負師というのは高校野球ではかなり難しいと思います。プロと違って、高校生は監督が思っているようには動いてくれませんから。例えば横浜の渡辺元智監督なんか、「オレは相手のベンチを見ていれば100パーセントわかる!」と豪語しているわりには、割とスクイズをハズすんですよ(笑)。日大三の小倉全由監督だって、「オレの言う通りにやっていれば勝ったのに」的なことを、多少リップサービスも入って、口にしますけど、そう上手くはいかないんですよね。実際に動く選手は不確実な存在ですから。

 もしかしたら「オレは勝負師だ!」と思っている人ほど、意外と勝負に勝っていないのかも知れません。こだわればこだわるほど、勝ちがこぼれ落ちていくというか。そういう難しさがあるから、高校野球は面白いんですよね。



──では本当に勝てる監督へ求められる要素は何でしょう?

三田 野球はやっぱりツキというか、野球運みたいなものが大事ですよ。なかでも夏の大会は、甲子園に出場にするにしても、甲子園で優勝するにしても、1年間のすべての運が集中するぐらいの“バカヅキ”が必要。2013年の前橋育英・荒井直樹監督なんかは、もう野球の運を集中させたような感じだったんじゃないですか。たとえ優れた選手が揃っていても、ちょっとしたことで頂点まで辿り着けませんからね。

──余談ですが『砂の栄冠』には、『スカウト誠四郎』の武光誠四郎や『クロカン』の“ちぎっちゃ投げ”などが登場し、世界観が先生の他作品とつながっていることが示唆されています。今後、クロカンこと黒木竜次監督が出てくる可能性は?

三田 う〜ん……どうでしょうねぇ……。キャラクター的に“伝説のノックマン”は「あれクロカンでしょ?」とよく言われるんですけど。ノックが上手いところとか、裏表を使い分ける感じとかが、ちょっと似てるのかもしれません。でも、狙ったわけじゃないんですよ。ボク自身が、ああいう少し謎めいた男が好きなんですよ。

──『砂の栄冠』では、『クロカン』よりも“ベンチ以外”での駆け引きがクローズアップされるようになりました。

三田 自分自身の見方が変わったというのもあります。『クロカン』の頃は、高校野球はグラウンドのなかでやっているもので、勝負は実力で決まると考えていました。

 しかし、毎年、甲子園へ行くようになると、どうも「スタンドとグラウンドが無関係ではない」と感じるようになったんです。球場すべてが連動している、1つの生命体みたいに思えるというか。

『砂の栄冠』では“舞台芸術”という表現を使いましたけど、甲子園というのは球場にいる全員でイベントを成功させる、一種独特な空間。その特殊性を理解し、フィットさせられたチームはある程度、満足できる結果を残し、納得して故郷に帰れるんじゃないかと思うんです。

 よく「あっという間に終わってしまった」というコメントが出ますけど、終わるには終わっただけの理由があるわけです。『砂の栄冠』という作品は、甲子園をあっという間に終わらせないための準備と心構えを説く、1つの提案型マンガだという気はしています。

──プロアマ規定が緩和し、今後は金沢学院東の金森栄治監督(元西武ほか)のようなプロ野球出身の指導者も増えていきそうです。

三田 確実に増えるでしょうね。でも、学校側が思っているほど簡単にはいかないだろう、というのがボクの意見です。

 以前、プロ野球選手のセカンドキャリアを支援している会社の社長さんとも話をしたことがあるんですけど、1度プロとして脚光を浴びた人っていうのは、他人の意見に耳を傾けにくいようで、新しい人間関係を作るのがあまり上手くないんですよ。普通の社会人としてゴマをすったり、頭を下げたりすることに慣れていないから、色々なところで衝突し、軋轢を起こすわけです。

 しかも、高校野球の監督になる場合、就職先が地方になる可能性も高い。元プロ野球選手の大きな問題点は、一定期間、都市部で、それもプロ野球選手という水準の高い暮らしをしてしまった、ということなんです。子どもの頃に田舎で育ったとしても、都会での華やかな生活に慣れた人が、いきなりグラウンドと寮しかないような田舎へ行ったら、当然イヤになっちゃうらしいんですよ。つまり、グラウンドの指導云々ではなく、生活面の問題でダメになる人が多い。もちろん事前に元プロ野球選手たちにも説明するんだけど、本人たちは実感がないから、よくわからないんだとか。

──『砂の栄冠』にプロ野球出身の監督が出てくる予定はありますか?

三田 いやぁ、今のところありません。意外と甲子園のファンは甘くないんですよ。大越基さん(元ダイエー)が早鞆の監督としてセンバツに出てきたときも、思っていたよりも盛り上がらなかった。甲子園で選手として大活躍して、プロの舞台に登り詰めた方でも、甲子園のファンは満たされなかったんです。

――なるほど。

 結局、高校野球が好きな人は、プロ野球の世界みたいな完成した状態にはあまり興味がないんですよ。彼らは自分たちが果たせなかった、「頑張れば勝てる」という“逆転”を観に来ているわけなんです。甲子園のファンでパッと見、成功している人なんて少ないと思いますよ。成功してカネを掴んで、ベンツに乗っているような人が、あんな熱いなか高校野球を観に来るわけがないですよね(笑)。だから彼らは超・判官贔屓なんです。

 でも、そういうファンが5万人も集まって、高校生の野球を観ているのって、日本だけですよ。世界の人から見ればまったく理解できないでしょうけど、日本の文化なんだから、堂々と開き直っていればいいんです。


──最後に、もし先生ご自身が高校野球の監督になれるとしたら?

三田 100パーセント、やりませんね。ノックも打てないですし。やっぱり、責任が重いですよ。生半可な覚悟じゃムリです。緊張のあまり、ベンチで動けなくなるというのも、よくわかります。「じゃあオマエが甲子園のベンチで采配振ってみろよ」って言われたら、絶対にムリですから。本当にスゴイ人たちだと思いますよ。

 高校野球という我が国における特殊文化のなかで、高校野球の監督という、たった4000人の変わった人種がいるわけです。世の中がもっと監督に注目してくれればいいなと思いますね。

第1回インタビュー

第2回インタビュー


■三田紀房先生プロフィール
三田紀房(みた・のりふさ)/1958(昭和33)年生まれ、岩手県出身。会社勤めを経て、漫画家デビュー。『クロカン』『甲子園へ行こう!』『スカウト誠四郎』などの野球マンガを手がける。また野球以外でも『ドラゴン桜』など人気作品を多数輩出。現在、週刊ヤングマガジンで『砂の栄冠』を連載中。

■ライタープロフィール
ツクイヨシヒサ/1975年(昭和50)生まれ。野球マンガ評論家。著書に『あだち充は世阿弥である。――秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ―彩珠学院 甲子園までの軌跡―』(小学館)など。『野球太郎No.010 高校野球監督名鑑』では、高校野球マンガに登場する名監督たちをタイプ別に分析した。

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