Manny being Manny。
直訳すると「マニーはマニー」。これは、マニー・ラミレスの奇天烈なキャラクターを表した言い回しだ。唯一無二の奇天烈キャラを面白おかしくもじったもので、「マニーなら仕方ない」とか「マニーらしいなあ」といった意味合いで用いられていると、思われる。
こんなフレーズが作られるほど、強烈な個性で球界を闊歩してきた。数々の逸話のなかでも、グリーンモンスターにまつわるエピソードは有名だ。
グリーンモンスターとはレッドソックスの本拠地、フェンウェイ・パークにそびえる11.3メートルのレフトフェンスのこと。左翼手だったマニー・ラミレスにとって、このグリーンモンスターは「遊び場」だった。あるときは、投手交代の合間に携帯電話で通話を始めたり、用足しに消えたり……。試合中に堂々とグリーンモンスターのなかに出入りしていたのだ。
やりたい放題の行動に賛否の声が挙がったが、いい意味でも、悪い意味でも「Manny being Manny」で済まされてしまうのが、すごいところなのだ。
打撃は超一流ながら、守備に関してはまるでやる気のないマニー・ラミレス。数々の珍プレー、怠慢プレーを演じてきた。そんなマニーの数少ないファインプレーが、2008年に見せた謎のハイタッチプレーである。
左中間の大飛球を背走キャッチしたマニー・ラミレスは、その勢いのままフェンスへ到達すると、スタンド最前列で観戦していたファンとハイタッチ。振り向きざまに内野へ矢のような返球をすると、カットプレーもスムーズで見事にダブルプレーを成立させた。
(オリオールズの本拠地であるオリオール・パーク・アット・カムデン・ヤーズでの試合だったため、フェンスが低く、ハイタッチができた)
守備嫌いのマニー・ラミレスが珍しく真剣に走り、完成させたこのファインプレー。ファンが大歓声を上げたのはいうまでもない。しかし何故、観客とハイタッチをしたのか? その答えは神とマニー・ラミレスのみぞ知るところだ。
このほかにも、人の服を勝手に拝借する癖もあったマニー・ラミレス。トレードマークのダボダボのユニフォームを着るようになったのは、自分より20キロも体重が重いブルペンキャッチャーのズボンを履いたのがきっかけだったとか……。
気まぐれな性格ではあるが、打撃に関しては実力も姿勢も超一流だ。
奇天烈なキャラクターとは裏腹に、誰よりも早く球場入りし、入念なトレーニングをしていたことは知る人ぞ知る事実。努力無くしてあの輝かしい記録は達成できなかった。天才肌の男が見せる努力も大きな魅力だった。
こんな「奇天烈男」マニー・ラミレスが日本でプレーするかもしれない。何としてもその姿を目に焼きつけておきたい。そう思うのはファンならば当然だ。
しかし、台湾リーグ在籍時(2013年)は、「長い間、家族と離れてプレーすることはできない」という理由で、数カ月で帰国……。今回もその二の舞いになるのでは? そんな声が少なからずあるのもまた事実だ。ただ、その気まぐれぶりこそマニー・ラミレスの真骨頂。
「これぞManny being Manny」と笑って許すことがマニーファンのたしなみ、といえるのではないだろうか。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)