前号「しっくりこない背番号」
阿部慎之助を継ぐ4番候補として巨人が1位指名したのは高校球界屈指のスラッガー。パワー、ミート力、変化球への対応力、状況判断力など、すべてにおいて素材の違いを見せる男は「ホームラン王も」と口にした。
ホームラン数が注目され、中田翔(日本ハム)の高校時代と比べる声が挙がってくる中、岡本はどこを目指しているのか。何度か聞いたことがある。そんな問いにたとえばこんな言葉を返してきた。
「まず率を残したい。いい投手から打ちたい。その中でホームランも打てればいいと思っています」
口にしたのはやはり「も」。その後、最後の夏前に『野球太郎』の取材でプロへ進んだ時の仮定話としてこんな質問をしたこともあった。「3割、30本、100打点と2割5分、50本、100打点ではどちらの数字により魅力を感じるか」。すると岡本は前者を選んだ。予想通りだ。「3割は絶対打ちたいですね」、そして「ホームランは毎年20本以上コンスタントに打てるような選手になりたい」と続けた。岡本の描く理想像を改めて確認できた瞬間だった。
この先も岡本は、「を」ではなく「も」でいくのだろうか。どこを目指すのかで、打者としてのスタイルも決まっていくはずだ。
たとえば高卒スラッガーの代表格、清原和博についてこんな話がある。プロで記録した525本塁打は歴代5位の数字だが、上位4人はいずれもホームラン王の常連。しかし、1年目に31本塁打を放ち、王貞治の868本を抜く男…とまでの期待を背負った清原は、シーズン40本をクリアすることなく、タイトルとも無縁のまま現役生活を終えた。そんな清原の「無冠」について西武時代の森祇晶監督がこう評価したことがある。「彼は4番でもチームバッティングをしてくれる。もし、自分のことだけを考えて打てばもっとホームランを打てるだろう。でも、そうしないのが素晴らしい」。
オリックス時代のイチローに対し「もし、イチローが打率を気にせずに打ったらホームランを40本は打てる」という声も何度か聞いた。逆に通算404本塁打、ホームラン王の経験もある中村からは絶好調だった当時、「ホームランを打たなくていいのなら、4割近く打てますよ」との言葉も。もう1人、岡本も関心を寄せる中村剛也(西武)について述べたい。
大阪桐蔭高時代の中村は各大会で4割超えが当たり前。西谷浩一監督が「空振りの記憶がほとんどない」と話すほどの確実性と高校通算83本塁打のパワーを備え、ナニワのカブレラの異名を取るスラッガーだった。しかし、プロではチーム事情からホームランを求められ、スタイルが変化。46本塁打、101打点の一方、打率.244、日本人としてパ・リーグ最多となる162三振を記録した2008年秋、中村はこんな話をした。
「打率ももっと上げたいですよ。でも、今年の僕にはまだその技術がなかった。ホームランと打率の両方を求めたらダメになっていたと思う。だから途中からは打率は気にせんと、思い切って振っていこうとだけ思っていました」
さらに前年までの姿を思い出しながら続けた。
「自分ではいつもホームランを打ちたいんです。でも、去年はヒットを打たないと試合に出られない気がして、結果的にどっちつかずの状態になってしまって。だからもう1回、やっぱり自分の持ち味はホームランだと割り切ったんです。今年はそういう1年でした」
つまり、このレベルの選手でも二兎(本塁打と打率)を追うのは容易ではないということなのだ。
どこを目指すのか、何を求めるのか。ここが岡本の道を決める大きな一歩になる。岡本は「ホームランを」と「ホームランも」のどちらでいくのか。夏前の取材ではこんなセリフも残している。
「何年もプロでやっていけるとしたら、率も残して長打も、っていう気持ちになると思うんです。でも、初めの3年は結果を出して自分をアピールしないといけない。だからしっかり振って、自分の持っているよさを出していこうという気持ちがあるんです」
「自分のよさとは、つまり、長打であり、ホームラン?」。そう続けるとうなずいた。
「はい。だから最初は三振かホームランかくらいのフルスイングをして…。そんなイメージです」
個人的には「も」よりも「を」の岡本をプロで見たいと思っているので楽しみをふくらませる一言だったが、この思いを持ち続けられるか。「ホームラン王も」と口にした会見の記事では、こんな言葉も見つけることができた。
「長打を期待されていると思う。縮こまっていては何の魅力もない」
ちょっとワクワクしてきた。好きな言葉の「克己心」には、自分の欲望を抑える心、自制心、といった意味がある。しかし、ひとまずはここまで背負ってきた重責を降ろし、シンプルにバットを振り、遠くへ飛ばすことを求めてほしい。その中でアーチストとしての喜びに目覚めでもすれば、ミスターと原監督を足しても見劣りしないほどの長距離砲が誕生するかもしれない。まずは3年、フルスイングに徹し、一兎を追え!
(※本稿は2014年11月発売『野球太郎No.013 2014ドラフト総決算&2015大展望号』に掲載された「30選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・谷上史朗氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)