合同トライアウトに集まった観衆の列は、入り口のバックネット裏の門からずらっと並び、その最後尾は外野ライトスタンドの門の当たりまで伸びていた。
9時半開門予定だったが、予定が早められ入場が始まった。アルプススタンドを除く内野スタンドが開放され、座席はほぼ満員状態。立ち見も出るほどだった。
これほどの観衆が集まったのは、週末に開催ということもあるのだろうが、関西のファン野球に飢えていたから、というのも一因ではないだろうか。
東京では明治神宮大会が開催され、東京ドームでは侍ジャパンの強化試合が行われていた。しかし、関西では社会人野球日本選手権が終わり、野球のイベントが何もない状態。この時期に野球が見られる喜びが、ファンにはあったのだと思う。
この日は11月中旬ながら小春日和で気温も高く、逆に暑いぐらいだった。そんな陽気のなか、選手たちがグラウンドに現れ、いよいよ始まるとなるとスタンドから拍手がわき起こった。観客も待ちきれないのだ。10時からシートノックが行われ、10時半からシートバッティングが開始された。
シートバッティングは投手が打者3人に対戦する形式で、カウント1-1から開始される。ウグイス嬢からピッチャーとバッターが紹介されると、拍手と声援が選手たちを包み込んだ。特に、地元の阪神の選手が出てくると、より一層大きな歓声がわき起こった。
トライアウトでは、いつものようなトランペットや太鼓の応援はない。したがって、バットとボールが当たる音が、選手たちが発する声などがよく聞こえる。ピッチャーとバッターの勝負を観客が見守り、いいプレーが起こると拍手で称える。選手は生き残りを賭けて必死なので、その迫力は見ている方にも伝わってくる。
選手も観客も集中している。純粋に投げて打つということを楽しむという野球の原点がここにあるように思えた。普段の野球観戦では、このような雰囲気は、なかなか体験することができない。
ただ、トライアウトが週末に甲子園で行われたのは嬉しいことだったが、トライアウトの内容を知らせる情報が少なく、わかりにくかった。
NPBから公開された情報は「9時半開門、10時シートノック、10時半からシートバッティング」だけだった。投手・野手が何人参加して、誰がどういう順番で出てくるのかがわからなかった。それらの情報があればもっと楽しめただろう。可能であれば、場内ラジオで実況、解説があれば面白いかもしれない。
ともあれ、トライアウトは見ていてとても楽しめた。来年もぜひとも見たいと思った。トライアウト参加選手の今後はどうなるかわからないが、ひとりでも多くの選手が野球を続けられるように願うのみだ。
文=矢上豊(やがみ・ゆたか)
関西在住の山本昌世代。初めてのプロ野球観戦は、今はなき大阪球場での南海対阪急戦と、生粋の関西パ・リーグ党。以来、阪急、オリックス一筋の熱狂的ファン。プロ野球のみならず、関西の大学、社会人などのアマチュア野球も年間を通じて観戦中。