4月5日・巨人戦(東京ドーム)で今年の阪神を象徴するシーンが見られた。
巨人の先発は、昨シーズン阪神が5勝もの白星を献上したアーロン・ポレダだ。
初回、1番・高山俊がレフト前ヒットで出塁、2番・横田慎太郎は、セーフティバントの構えは見せるものの、ベンチは当たり前のように強攻策を指示。金本監督の采配には上位打線には送りバントの選択肢はなく、ランナーは足を使い、打者は常にフルスイングで打って出る、今年の超変革の1つの表れだ。
3回、ライトへのヒットで出塁した藤浪晋太郎は、続く高山のライト前ヒットで一気に三塁まで進塁する。一瞬、藤浪はセカンドベース付近で躊躇するも、3塁ベースコーチの高代延博ヘッドコーチが迷わず手を回したのだ。
走者が投手で、イニングも浅く、通常なら無理をしない場面であるが、今年の阪神は違う。まさに走るはずのない選手が「走る」ことを実践する。
藤浪の走りは、長いストライドで、宜野座キャンプ“地獄のリレー競争”を彷彿させる走りっぷりだった。
続いてこの回、打者・ゴメスの場面で、1塁走者マット・ヘイグが、ディレードスチールを仕掛け、捕手の二塁送球間に、3塁走者の横田が生還。コリジョンルールを意識したダブルスチールで1点をもぎ取った。
また6回には四球で歩いたゴメスが、無警戒なバッテリーの隙をつき二塁盗塁に成功。このときのポレダはクイックで投げておらず、手元で計測した投球時間は1.64秒、捕手・小林誠司の二塁への送球が1.86秒であったため、ゴメスは2塁まで3.5秒の猶予があったことになる。
プロの走者の一、二塁間を走るタイムは、おおよそ3.2秒だといわれている。足の速くないゴメスでも、クイックせず、変化球を投じたポレダの投球タイミングだと、3.5秒以内で走れる計算があったのであろう。
常に走ることを意識しているからこその好走塁だったといえよう。後に動揺したポレダはボークでも失点。この回でマウンドを降りた。
開幕戦ではランディ・メッセンジャーが盗塁。そして昨季までは「走るはずはない」と無警戒であったゴメスの盗塁は、相手チームに刺激を与えるだけでなく、味方の走れる選手をも刺激する。まさに超変革が進んでいる証だ。
走ることは野球の原点でもあり、外国人選手や投手の区別なく、全選手が全力疾走することは、金本監督の目指すところでもある。
超変革を掲げた今年のタイガース。宜野座キャンプの“地獄のリレー競争”が、選手への意識付けに意図されたのでは……と、勘ぐってしまうほど、ここまで金本監督の狙いが面白いほどはまっている。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。