拝啓 加藤良三コミッショナー様
春光うららかな季節となりました。
センバツが盛り上がり、まもなくプロ野球もシーズン開幕とまさに「球春」。それだけにWBCで日本が準決勝で敗れ、3連覇がならなかったことだけが口惜しい今日この頃です。加藤コミッショナーにおかれましてもアメリカまで応援に駆けつけ、忙しい毎日を過ごされたのではないでしょうか。
ところでその準決勝終了後、「山本監督、退任」と報道するものがある一方で、「2015年に開催予定の国際大会・プレミア12へ向け、山本監督への続投要請をする」と報じているものも出ています。加藤コミッショナーにおかれましてはどちらになるにせよ、コミッショナー権限のもとに早急な決断をしていただくことを切に願ってやみません。
そもそも今回の代表監督選考に際し、過去2回の監督決定が直前まで難航したことを踏まえ「2010年7月に決定する構想を持っている」と当初言われていました。ところが、フタを開けてみれば山本浩二監督に決定したのが2012年の10月10日。実に2年以上ものズレが生じています。
しかもこの間、「現場の人間にはムリだ」という王貞治特別顧問の助言を振り切り、加藤コミッショナー自らが巨人・原監督やソフトバンク・秋山監督など、あくまで現役監督の就任要請にこだわり続けたそうですね。結果、監督決定の遅れが準備の遅れにつながったと見られてもおかしくないと思います。
今後、「侍ジャパンは常設化する」ということは既に決定しています。また、2015年には国際大会・プレミア12の開催も決まっています。その上では、監督を誰にするのかはもちろんのこと、その監督に求められる「ノルマ」は何か、選手選考や大会結果の継続性をどうするか、という点なども含め、サッカー日本代表における「強化委員会」のような組織も常設する必要もあるのではないかと考えます。
これまでと同じ轍を踏まないためにも、今こそ、今回のWBCの敗因分析と今後の侍ジャパンの体制をどうするか、という方向性の提示を早急にしていただければと思います。
敗因の分析、というと真っ先に思い浮かぶのが「WBC球」への対応に関してです。そもそも、「国際試合でNPB選手のボールに対する違和感が少なくなることを期待」して、加藤コミッショナーの肝いりで2011年から導入されたのが「NPB統一球」でした。
しかし、WBC使用球と統一球は、革の素材も縫い目の高さも違ったそうですね。にもかかわらず、日本敗退後に加藤コミッショナーが述べたコメントは「日本のボールの方がケガをしにくい。国際大会でも日本のボールを使ってもらえるようにしていきたい」というものでした……ではなぜ、統一球の導入を決定したのでしょうか? また、世界大会の使用球を変更するほどの権限・イニシアチブがNPBにあるのでしょうか? 加藤コミッショナーが現実問題として検討すべきは、革質や縫い目の高さなどをWBC球に近づける努力する。もしくは、選手からも変更要請が出ている「統一球」を今一度見直すことも視野に入れるべきではないかと思います。
何らかの手を打たなければ、統一球に刻印された「加藤 良三」という文字が空しくなる一方です。
「NPBのイニシアチブ」という意味では、去年夏、選手会がWBCへの参加を一時拒否したことも忘れられません。
不参加の理由としては、「代表チームのスポンサー権などをNPB側に譲渡するようMLBなどの主催者側に求めていたが、認められなかったため」でした。その後、「日本代表独自のスポンサー権やグッズ販売権の確保などがおおむね認められた」として、無事に大会参加へと舵が切られた訳ですが、選手会がWBCへの参加表明をしたその席において、「本来は加藤コミッショナーがイニシアチブを取って(権利獲得のため)MLBと戦わないといけないのに、役目を果たしていない」と、新井貴浩選手会長(当時)が異例のコミッショナー批判を繰り広げました。
また、今回の日本代表は現役メジャー選手が一人もいないチーム編成となりました。日本が誇る野球人たちが素直に大会に臨めない、というのは悲しい現状ですが、果たして、メジャー選手が参加しやすくなる土壌はできていたのでしょうか? 例えば、過去2回の大会でも議題になっていた「メディカルチェック」は、今回も行われないままでした。結果、ケガを抱えたままの選手が代表合宿に参加したり、本調子ではない選手がプレーするということも生じています。まず考えるべきは「プレイヤーズ・ファースト」。選手がいかに気持ちよくプレーでき、その結果生じたケガへの保障はどうなっているのかなど、選手が懸念する「シーズン後への影響」を軽減するためにできたことは他にもあったはずです。
だからこそ改めて言いたい。コミッショナーの役割とは一体なんなのでしょうか? そして、WBCとは誰のためにある存在で、侍ジャパンはどこに向かっていけばいいのでしょうか?
甲子園では高校球児が、明日の侍ジャパンを夢見て熱戦を繰り広げています。しかし、国内における「将来のビジョン」が明確に描けなければ、早々にNPBを見限り、一足飛びにMLBを目指す球児が増えないとも限りません。現・日本ハムの大谷選手がMLB挑戦を表明し、あたふたしたことをもうお忘れでしょうか?
今一度、コミッショナーとしての「強いリーダーシップの発揮」を望んでやみません。 敬具
文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977