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【2本立ての2本目!】「1〜10」で振り返る<浦和学院vs仙台育英>ドラマは生まれるべくして生まれた…

 事実上の決勝戦──。

 戦前からそんな呼び声も高かった、大会3日目の「浦和学院vs仙台育英」。結果は仙台育英が11-10でサヨナラ勝ちしたのはご存知の通り。前評判に違わぬ、球史に残る死闘となったが、その勝敗の行方以上に、高校野球の醍醐味が詰まった一戦だった。

 いったい何が魅力的だったのか……その秘密を探るべく「1〜10」の数字を切り口に、改めてこの試合を振り返ってみたい。

交代を拒んだ背番号「1」


 10-10の同点で迎えた9回裏、浦和学院の2年生エース・小島和哉投手の左足がつった。気温35℃、湿度74%という過酷な環境の中、それでもマウンドを降りようとせず、続投を志願した背番号1の姿を、高校野球ファンは決して忘れないだろう。

 伝令の持ってきたスポーツドリンクを飲み、屈伸を繰り返して最後までマウンドを守る意志を見せたが、直後に安打を許し無念の降板。投じた球数は182球。夏に延長試合以外で180球以上を投げたのは、2002年に玉野光南・田中大祐投手が鳴門工戦で182球を投げて以来。限界はとっくに超えていたのだ。

史上「2」校目の珍記録が2つも


 仙台育英は昨年秋の明治神宮大会覇者。24回目の夏の出場は今大会の出場校では最多。文句なしの強豪校ではあるが、戦前の予想では「センバツの覇者・浦和学院有利」の声が多かったのも事実。そんな状況が覆される時というのは、決まって珍しい記録が生まれるものだ。

 この試合で生まれた珍記録が「1イニング8点で敗戦」というもの。これは史上2校目となるレアケース。また、春夏連覇を目指した学校の、初戦2ケタ失点も史上2度目の出来事だった。

大会「3」日目、最初の週末・最終試合


 くじ引きによって決まった対戦・日程とはいえ、まさに運命と呼ぶにふさわしい神の配剤。つまり、盛り上がる状況が揃っていた、ということでもある。甲子園球場でこの伝説の一戦を目撃できた数は、今大会最多の42000人。試合時間は2時間59分。19時を過ぎ、20時近くになっても、観客はほとんどが席を離れなかったという。

1イニング最多二塁打「4」本も、「4」番から快音聞こえず……


 浦和学院が3回、1イニングに4本の二塁打で一挙8点を奪ったことで試合が俄然面白くなったのだが、この「1イニング『4』本の二塁打」は史上8度目の記録。初回に5点のビハインドを負っても集中力を切らさなかった浦和学院打線はさすがだ。

 しかし、唯一悔やまれるのはセンバツで3戦連発を記録した浦和学院の4番・?田涼太選手が無安打に終わってしまったこと。同様に、プロ注目の仙台育英の4番・上林誠知選手もこの試合では無安打に終わり、両チームとも主砲は不発。それでも互いに二ケタ得点したところに、両校の層の厚さがうかがえた。


▲上林誠知(仙台育英)


「5」人


 この数字は、仙台育英のライトの守備位置についた選手の数。試合前のノックから、なぜかライトにだけ4人も選手が配置されていたのだが、終わってみればノックを受けなかった選手も含め、5選手がライトを守ることとなった。仙台育英にしてみれば、それだけ総力戦だった、ということの証でもあるだろう。

仙台育英、初回に一挙「6」点を奪えた理由は?


 前述した、ライトが5人も入れ替わるキッカケとなったのが、1回裏の攻撃時、満塁のチャンスでいきなり代打を送ったこと。初回から代打を送るなんて普通はあり得ない作戦だ。結果的に代打で出た選手は三振に終わったのだが、仙台育英のこの積極性が、怒濤の6点奪取の要因だったのでないだろうか。

甲子園「7」戦目にして初の敗戦投手


 これまで甲子園で6試合に登板し、自責点4だった浦和学院・小島投手が、この試合だけで自責点8。チームとしても11失点。甲子園通算7試合目で初の敗戦投手となった。


▲小島和哉(浦和学院)

史上「8」校目の春夏連覇ならず


 昨年の大阪桐蔭に続く、史上8校目の春夏連覇に挑んだ浦和学院の挑戦は初戦で終わってしまった。ちなみに、春夏連覇を阻止した学校は延べ34校目。過去33校のうち、1996年の松山商、2004年の駒大苫小牧など6校が、過去にその勢いを維持して優勝を果たしている。仙台育英はどうなるか?

1試合「9」四死球


 いずれにせよ、春夏連覇を逃した浦和学院の一番の敗因は、エース・小島投手の制球が定まらなかったこと。埼玉大会では6試合で14個だった四死球が、この試合だけで9個、しかも押し出し四死球が3個。県大会準々決勝ではひとつの四死球さえも与えなかった完全試合男がこの大一番で……これこそ、甲子園に潜む魔物の仕業だろうか。

明暗を分けた背番号「10」


 仙台育英側から見た勝因はいくつもあるだろうが、中でも2番手で登板した馬場皐輔投手の力投は外せない。3回途中からマウンドに上がり2点を失ったが、5回以降は無失点で8三振。背番号「10」の102球の好投が、仙台育英の逆転劇を呼んだのだ。

 そして、ドラマを語る上ではもう一人の背番号「10」にも触れないわけにはいかない。10−10で迎えた9回2死一塁。小島投手からバトンを受けたのが浦和学院の背番号「10」・山口瑠偉投手。「俺が抑えるから」と小島投手を諭してマウンドを譲り受けたが、仙台育英のサヨナラを許してしまった。しかし、この明と暗のコントラストこそ、「これぞ高校野球」と唸りたくなる光景でもあった。


▲馬場皐輔(仙台育英)


 まだまだ甲子園大会は序盤戦。これ以上の好ゲーム・激戦を期待しつつ、浦和学院と仙台育英のナインたちには拍手をおくりたい。


文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977

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