週刊野球太郎
中学、高校、プロ・・・すべての野球ファンのための情報サイト

第5回 新時代到来。「女子野球」の現在地とは?

 野球の話題に一歩踏み込んでクローズアップするこのコーナー。今回は先日プロリーグの新体制が発表された「女子野球」とその周辺について、話題の漫画や書籍とともにご紹介!

夢、実現!───。


 1月17日(木)、ザ・プリンスパークタワー東京で華々しく行われた、日本女子プロ野球リーグ2013年度の新体制発表会。
 2010年度からスタートした女子プロ野球リーグも今年で4年目。「京都」「兵庫」の2球団制で始まった戦いは、2012年から「大阪」も加えて3球団体制に拡張し、そして2013年度、遂に念願の関東進出を果たすこととなりました。

 新体制は、東日本の「イーストアストライア」と西日本の「ウエストフローラ」の2球団制。前後期各12試合、年間24試合で争われるリーグ戦「ヴィクトリアシリーズ」と、上記2球団を4チームに再編し、全国16地域で開催する「ティアラカップ」の2パターンを実施します。(※カップ戦時は東日本「イーストアストライア」から北日本「ノースレイア」を、西日本「ウエストフローラ」から南日本「サウスディオーネ」を分割した4チーム制)

 リーグスローガンは、「夢、実現!」。「関東進出」という夢が実現するシーズンであり、さらなる「女子野球発展・普及」という夢のための第一歩となる大事なシーズンが始まります。

 世間からの注目度はまだまだ低い女子野球ですが、代表チーム「マドンナジャパン」は昨年、2年に一度開催されるW杯において史上初となる三連覇を達成。また、プロリーグだけではなく、関東女子硬式野球連盟が主催する「ヴィーナスリーグ」も存在(日本代表の主力はこのヴィーナスリーグ所属の選手が多大半を占める)し、競技人口の数でも世界一の規模を誇っています。

 少しずつ、着実に浸透している女子野球。実は野球漫画の世界でも同じ潮流が起きていることをご存知でしょうか。ここ5年の間で「女子」が主役の作品が急増しているのです。
 そこで今回は、2013年益々注目を集めるであろう「女子野球」への興味を深めるキッカケとして最適な作品をいくつか紹介していきたいと思います。


高校球児ザワさん』(三島衛里子/小学館「ビックコミックスピリッツ」連載)



 西東京にある野球強豪校・日践学院高校硬式野球部を舞台に、唯一の女子選手である主人公・都澤理紗ことザワさんの野球部員としての日常を1話完結形式で描きます。
 現状の高校野球規則では試合出場が叶わない女子選手。それでも野球がしたいと男子に交じってひたすら練習だけに明け暮れるザワさんのような選手は、実際にいくつかの高校で存在します(例えば、マドンナジャパンの代表候補にも選ばれた茨城G・G片岡安祐美選手兼監督もまた、高校時代、野球部で男子とともに練習していた一人です)。
 試合に出られないことを承知で一般高校に進学して練習だけを続ける……試合がしたくてもできない女子選手の、せつなさとひたむきさも堪能できる一冊とも言えるでしょう。

ボール・ミーツ・ガール』(たまきちひろ:著・綱本将也:原作/集英社「ジャンプ改」連載)


 主人公は、女子ながら天才的な打撃力とセンスを持つ水穂初芽。
 女性が正体を隠して高校野球に「挑戦」、という古くからあるテーマではあるものの、今作における「女子の挑戦」はあくまでも様々な挑戦の中のひとつ。高校野球、ひいては野球という競技にはびこる「常識」や「ルール」そのものを疑うことから展開していくのが見どころです。連載冒頭で監督の藍上彩葉(こちらも女性)が唱える「この野球部は、野球というルールに則って、野球ではないスポーツをして、甲子園出場だけを目指す」という言葉がその象徴とも言えます。
 例えば、「した!」「しゃーす!」というよくある球児の挨拶を「普通じゃなく異常」と説き、《「ありがとうございました」「よろしくお願いします」もはっきり言わない、言えないのは子供よ。大人の世界じゃ通用しない》と、選手全員にアルバイトをさせて挨拶や社会常識を学ばせ、他の学校の球児にはない「絶対的精神的優位」を手に入れようとします。
 描いているのは漫画家たまきちひろ氏ですが、原作に名を連ねるのは綱本将也氏。“年齢”に焦点を当てたサッカー漫画『U-31』、そして“監督”に焦点を当て大人気のサッカー漫画『GIANT KILLING』の原作者として名を馳せる綱本氏、と聞けば、その特異な物語構造にもうなづけるのではないでしょうか。

 『マックミラン高校女子硬式野球部』(須賀達郎/講談社「別冊少年マガジン」連載)


 美人ぞろいの女子野球部に男子マネージャーがひとり……という構造から連想するハーレム展開を見事に裏切る、母性あふれる男子高校生の魅力と、骨太な野球描写のギャップが楽しい女子野球4コマ。
 ナイン一人一人のキャラクターやライバル高校の造形・設定も濃く、また4コマ漫画でありながら全国制覇を目指しての練習や試合描写が多く、グラブの手入れシーンやポケットを大きくする方法など細かい野球あるあるネタも満載の、ある意味で本格野球漫画です。
 一方で、大会に出場するのは全国でも16校だけという女子野球がおかれた環境もかいま見せつつ、女子らしい休日のショッピングシーンやガールズトークがあったりと、様々な意味で「新しい」野球漫画と言えるでしょう。

球場ラヴァーズ』(石田敦子/少年画報社「ヤングキングアワーズ」連載)


 本作のテーマは「観戦」。野球にまったく興味がなかった女子高生が、熱狂的な広島カープファンの女性2人組と知り合い、カープとプロ野球に魅せられていくと同時に人間として成長していく過程が描かれていきます。津田・マエケン・黒田など、カープの選手や歴史を深く掘り下げながら、「なぜ野球観戦に人は魅せられるのか」を女性目線から考察。また、プロ野球のシーズン動向と連動しているため、実際のカープの順位にあわせて一喜一憂したり、東日本大震災でプロ野球の開幕が延期されたことも、ファンとしてどう受け止めるか、という視点で掲載され、話題を集めました。
 読み終わったら思わず球場に行きたくなる一冊であり、野球に詳しくない方(特に女性)に、野球の魅力を教えるための書としてもオススメです。


 この他にも、女性が活躍する野球漫画としては、不定期連載の『アイドルA』(あだち充)、『野球狂の詩』(水島新司)などの人気シリーズも存在します。
「女子野球」そのものは、これまでにも『メイプル戦記』(川原泉)、『鉄腕ガール』(高橋ツトム)、『剛球少女』(千葉きよかず)など、定期的に作品テーマになるキーワードではありましたが、ここまで同時多発的に扱われたことはありませんでした。
 そして、これまでの作品の多くが「魔球」や特別な才能という武器(そしてなぜか「サウスポー」が多い)で男子の中に混じっていくストーリーだったのに対し、近年の作品は、女子が置かれた「野球ができない」「野球ファンを堂々と名乗れない」といった境遇をそのまま舞台装置として扱い、ある意味等身大サイズで展開されるのが特徴的であると言えます。それはある意味、「女子野球」が身近な存在になってきた証左であると考えることができるでしょう。

 最後に、「女子野球」の魅力をもっと深く知りたい、という方にオススメしたい新刊をご紹介します。

マドンナジャパン 光のつかみ方』(長谷川晶一/亜紀書房)



昨年、前人未到のW杯三連覇を成し遂げた女子野球日本代表こと「マドンナジャパン」。カナダ・エドモントンで行われた第5回IBAF女子野球W杯における9日間9試合の戦いを、長年「女子野球」を追いかけ、大会中も代表と同じ宿舎に泊まり密着取材を敢行したスポーツライター長谷川晶一が綴ります。

 史上初の「兄妹プロ野球選手」となった川端友紀。  日本一有名な女子野球選手・片岡安祐美の奮闘。
 女子野球の名門校、埼玉栄高校で鎬を削った同級生たち。
 強気と弱気と繊細さで代表をまとめあげた、元西武ライオンズの新谷博代表監督 etc.

「自分、野球をやっていて死んでもいいかなと思います。(中略)私が死ぬときには、棺桶の中に絶対にボールとバットとキャッチャーミットを入れてほしいと思っているんです。私は命を懸けて野球に取り組んだという証拠を残して死にたいんです」
 こう語ったのは、日本代表の主砲であり、正捕手を務めた西朝美選手。ロンドン五輪が開催されていたその裏で、スポーツメディアでもほとんど取り上げられることがなかった偉業達成を果たした彼女たちの野球に懸ける思いが詳細に語られていきます。
 そこには、「女子だから」「女性なんて」といった卑下もエクスキューズもありません。日本女子野球の現在地を知る上で、まさに外せない一冊であると言えるでしょう。

 新体制発表会において、日本女子野球機構スーパーバイザーを務める太田幸司スーパーバイザーが、「マドンナジャパン」の強さと偉業を紹介しつつ、次のように語りました。
「2020年のオリンピックで野球が復活するならば、女子野球も開催したい。そのくらいの大きな夢を持っている」

 初夢は大きい方がいい。そんな言葉を信じたくなる、女子野球の新たな船出が間もなく始まります。

★文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。 ツイッター/@oguman1977

記事タグ
この記事が気に入ったら
お願いします
本誌情報
雑誌最新刊 野球太郎No.32 2019ドラフト直前大特集号 好評発売中
おすすめ特集
2019ドラフト指名選手一覧
2019ドラフト特集
野球太郎ストーリーズ
野球の楽しみ方が変わる!雑誌「野球太郎」の情報サイト
週刊野球太郎会員の方はコチラ
ドコモ・ソフトバンク
ご利用の方
KDDI・auスマートパス
ご利用の方