「高校野球100年」の節目の年となるこの夏、一人の高校1年生の一挙手一投足に注目が集まった。その少年は早稲田実業・清宮幸太郎。ラグビーの名選手・清宮克幸(現ヤマハ発動機ジュビロ監督)を父に持ち、東京北砂リトル時代には大人顔負けの体格の良さを誇り、世界大会で大活躍。早稲田実業に入学直後から主軸を任され、春季大会では本塁打を放つなど大器の片鱗を見せつけた。初めての夏を迎えた清宮の、西東京大会での活躍を改めて振り返る。
2日連続の雨天順延を経て迎えた7月19日。早稲田実業は3回戦で東大和南と対戦した。「3番・一塁手」で出場した清宮の注目の第1打席は四球。その後、第4打席までノーヒットが続き、迎えた8回の第5打席は1死三塁という場面。清宮が打つと、ボールはフラフラと上がり、遊撃手の頭上を越え、内外野の間に落ちるタイムリーヒットとなった。どんな打球であれ、夏の大会初安打、初打点を記録したものの、試合後に清宮は「すみません。あんなんで……」と大勢の報道陣を前に苦笑いを見せた。
ベスト8が懸かった7月20日の都日野戦。清宮は初回に三塁打を放つと、続く4番・加藤雅樹のタイムリーで先制のホームを踏む。この一打を皮切りに、清宮のバッティングが冴え渡る。3回にはライト前タイムリー、5回にセンター前ヒットでこの夏、初の猛打賞。7回に犠飛、8回に一時は勝ち越しとなるタイムリー二塁打と4打数4安打3打点と大暴れ。9回表には同点とされるも、その裏に1点を挙げ、なんとかサヨナラ勝ちで駒を進めた。
準々決勝の八王子戦は2死球を受け、マークが厳しくなってきたものの、6回の第4打席でセンター前ヒットを放ち、初戦から4試合連続安打とチームの主軸として活躍し続ける。
舞台を神宮球場に移した7月24日の西東京大会準決勝で対戦したのは最大の宿敵・日大三だった。0−0で迎えた3回、2死一、三塁の場面で清宮が左打席に入る。フルカウントからの7球目、ストレートを振り抜くと打球はそのまま右中間フェンスを直撃。惜しくもスタンドまでは届かなかったが、2点タイムリー二塁打で先制する。結局、この清宮の一打が決勝点となり、試合は2−0で早稲田実業が勝利。4年ぶりの決勝進出を決めた。
そして7月26日の東海大菅生との決勝戦。外野スタンドも大勢の観客で埋まる異様な雰囲気の中、試合が始まった。
この大一番で清宮は第1打席で一塁手へのライナー、第2打席で三振と精彩を欠く。試合は東海大菅生のペースで進み、7回を終え0−5と東海大菅生の甲子園出場が近づいていく。ところが8回、早稲田実業が反撃開始。打線が繋がれば繋がるほど、球場全体が早稲田実業を後押ししているかのような雰囲気に。東海大菅生もそれに飲まれてしまい、同点、勝ち越し、ととんとん加点していった。そんな猛攻の中、清宮はライト前へ7点目となるタイムリーを放った。この回に一挙8点を挙げた早稲田実業がリードを守り抜き、8−6で西東京大会を制して、5年ぶり29度目の甲子園出場を決めた。試合後、校歌斉唱では思わず涙を見せる清宮の姿があった。
注目されるプレッシャーの中、清宮は6試合で20打数10安打10打点と1年生とは思えない大活躍を見せた。
この夏の甲子園は、OBの王貞治氏が始球式を務め、第1回に出場したことから当時の復刻ユニフォームを着て開会式で入場行進することが決まっていた。早稲田実業にとっては何としても出場しなければならない大会だった上に、清宮フィーバーで注目度も高くなった。想像しがたいプレッシャーの中、叶った甲子園出場。聖地に初めて足を踏み入れる清宮がどんなバッティングを見せるのか、今からとても楽しみにしている高校野球ファンも多いだろう。早稲田実業の初戦の相手は今治西で、明日8日の8時試合開始予定だ。