アウトコース中心の攻めから、勝負球はインコース高めの速いボール。
清宮に対する日大一の投手の攻め方は一貫していた。打者にとってアウトコースを強く意識させられた後で、急にインコースへ投げられると対応しづらくなる。
その理屈から、日大一バッテリーはアウトコース中心の攻めで、清宮に強くアウトコースを意識させた。そして勝負球でインコースを突き、清宮本来の打撃を崩そうとしたのだ。
清宮が高校に入学して以降、多くのチームが目を血眼にして追い求めてきた攻略法。この二度の凡退により、各校がずっと探してきた清宮攻略の最適解が導き出されようとしていた。
しかし日大一が導き出した攻略法は早くも崩れ去る。
第3打席、清宮は高めの初球を叩いた。打球は高々と舞い上がり、そのままバックスクリーンに飛び込んだ。そして8回の第5打席、2球目の外角高めのストレートをライトスタンドに運び、この日2本目となる2ランホームランを放った。
清宮は試合中にしっかりと修正を施してきた。第2打席までの凡退の流れは“アウトコースを意識させられた状態で、インコースに投げられた”ことにあった。そこで清宮が手を打ったのが“インコースに投げられる前に勝負をつける”ことだった。
2度のサードフライは、いずれも2ストライクに追い込まれてから、投じられたインコースの球を打ち損じたもの。言い換えれば、アウトコース中心の攻めで、2ストライクまで追い込まれてしまったことが凡退の主な原因だった。
そこで清宮は追い込まれる前に、アウトコースのボールを仕留めることに注力した。それがこの2本のホームランを生んだ。
対戦相手は様々な要素を組み合わせることで、清宮の打撃を崩しにかかる。しかし、清宮は相手のそのような攻めに対し、組み合わされた要素をひとつひとつ切り取っていった。
そして、切り取った要素のなかから、自分の勝負できるポイントを抽出し、自分本来の打撃で対抗したのだ。
10月23日、早稲田実は3回戦で片倉と対戦し、5回コールドで圧勝した。
この日の清宮は2打数1安打1打点。第1打席こそ、横手投げの変則左腕にタイミングを崩され三振を喫したものの、その後は3出塁を記録した。
ある攻略法で目先の打席数だけ、清宮を抑えられることもあるだろうが、1試合トータル、あるいはそれ以降の対戦でも通用する効果的な攻め方は、まだ見つけられていない。
準々決勝に駒を進めた早稲田実の次の対戦相手は関東一。3季連続で甲子園出場中の強豪校である。彼らはどんな策をもって、清宮と対峙するのだろうか。楽しみは尽きない。
文=長嶋英昭(ながしま・ひであき)
東京生まれ、千葉在住。小学校からの友人が、サッカーのU-18日本代表に選出されたことがキッカケで高校時代から学生スポーツにのめり込む。スポーツの現場に足を運びながら、日本各地の観光地を訪れることが最大の生きがい。現在はアマチュアカテゴリーを中心にスポーツ報道の仕事に携わっている。