今年の高校野球を語る上で欠かせない存在といえば、早稲田実業の「怪物1年生」清宮幸太郎で決まりだろう。甲子園ではホームラン2本を含む19打数9安打8打点、打率.474。「高校野球100年」という節目の年に誕生した、まさに「甲子園の申し子」だ。
ところがその甲子園大会期間中に、実は親指を骨折していたことがつい先日発覚した。
これまで極秘にされていたこのニュースを明かしたのは、今年「清宮パパ」としてラグビーファン以外からも注目を集めたラグビー・ヤマハ発動機ジュビロの清宮克幸監督だ。12月14日(月)、ニッポン放送『垣花正 あなたとハッピー!』に出演した際、月曜コメンテーターのテリー伊藤氏と対談し、「実は骨折していた。これはどこにも話していません」と、実の息子の極秘エピソードを明かしたのだ。
清宮氏の番組でのコメントをさらに掘り下げてみよう。骨折したというその試合は、甲子園3回戦(対東海大甲府)。第1打席が死球、第2打席でホームランを放っている。
清宮「インコースを攻められて親指を捻挫して、その次の打席でホームランを打ったんですが、実はあの時骨折していたんです」
振り返ると、この試合での死球は臀部に当たったもの。ただ、これで3試合連続死球と、執拗な内角攻めにあっていたのは間違いない。打席では手袋を、守備ではミットをはめているためわかりにくいが、確かに甲子園大会の後半以降、左手親指にテーピングを巻いていた。
清宮「これはどこにも話していません。痛みがひかないので最近病院で診てもらったら骨折していることがわかった」という。
「最近病院で診てもらったら」……つまり、骨折した手でその後も打席に立ち続けていたことになる。では、骨折した後の結果を振り返ってみよう。
3回戦※2打席目以降
第3打席:一ゴロ、第4打席:タイムリー二塁打(3打点)、第5打席:二塁打
準々決勝(対九州国際大付)
第1打席:投ゴロ、2打席:本塁打(1打点)、第3打席:三ゴロ失、第4打席:二塁打
準決勝(対仙台育英)
第1打席:ニゴロ(併殺打)、第2打席:内野安打、第3打席:四球、第4打席:ニ飛
骨折後に1本塁打、3二塁打、4打点をあげているのだが恐れ入る。そしてご存じの通り、甲子園大会終了後にはすぐにU-18に招集され、「日本の4 番」として活躍。その後、休む間もなく国体と秋季東京都大会に出場し、本塁打を連発するというまさに怪物ぶりを発揮している。
スーパースターの条件としてよく話題になる要素に「ケガをしないこと。ケガをしても試合に出続けること」があるが、清宮幸太郎は16歳にしてこの条件をクリアしていたことになる。
ちなみに清宮監督は放送のなかで、「甲子園でレントゲンをとっていたら、甲子園の次の試合もないし、U-18の出場もなかった。人生にとってどちらがいいのかはわからない」とも漏らしていた。
清宮監督はこの骨折エピソード以外にも、公私に渡る「激動の2015年」を振り返っていて、こちらも興味深い。
「清宮パパ」と呼ばれることについて
清宮「“清宮Jr”から“清宮パパ”に変わった瞬間が明確にわかった。連日スポーツ紙を飾っていて、早く“Jr”が取れればいいのになどと語っていた。その翌日から自分が清宮パパになっていた」
現在の息子の活躍・報道のされ方について
清宮「中学で取材を受けたときは正直騒ぎすぎだと思っていた。こんな風になるとは思っていなかった。でも、今になってマスコミの人たちが正しかったんだと思った」
ヤマハ発動機で師弟関係にある五郎丸歩選手について
清宮「ラグビーW杯以降、練習場に来るファンの数が違う。今までは3〜4人、今は平日でも200人は来る。観客の98%は五郎丸を見に来ている。でも選手たちはファンの視線を感じて緊張感が違う」
五郎丸フィーバーに監督として危惧することは無いのか?
清宮「練習をサボって別の仕事とかはいけないが、肝を外さずにやっていれば大丈夫、チームに対する自分の責任がある」
ラグビー日本代表監督、“清宮JAPAN”誕生について
清宮「選ばれる必要がありますから、こればかりはわからない(笑)」
振り返れば今年2月28日、ヤマハ発動機ジュビロをラグビー日本選手権初優勝に導き、「名将・清宮」と呼ばれた清宮克幸監督。そんな男が夏には「清宮パパ」に、秋には「五郎丸の師匠」と立ち位置が次々に変わっていったのだから、人生とは何とも不思議なものである。
野球目線で清宮克幸氏を掘り下げると、「清宮パパ」という視点以外にも、元ロッテ、そしてMLBでも活躍した小宮山悟氏とは早稲田大学時代の同級生。卒業後も仲が良く、共著で『選手の心を動かす監督の言葉』なる本まで上梓している。
来年も「怪物・清宮幸太郎」に注目すべきなのは間違いないが、その父、克幸氏の動向にも、野球ファンとして、そしてスポーツファンとして注視したほうがいいのは間違いない。
文=オグマナオト(おぐま・なおと)