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第二回 「パ・リーグとセ・リーグの取組みの違い」

 現在発売中の『野球太郎No.002』で球団経営の視点からドラフト戦略について語ってくれた楽天オーナー代行、パ・リーグ理事長でもある井上智治氏。しかし、話はそこで終わらなかった。セとパにおけるリーグビジネスの違い、侍ジャパンの問題点、そして野球という競技そのものが抱える課題などなど、「野球ビジネスの現在地」について球界のキーマンが鋭く迫ります。今回は三週連続の第二回目となります。

【柔軟なチケッティング・システムが課題】
─── 「パ・リーグTV」をはじめ、パ・リーグは独自に様々な取り組みをされていますね。
井上
 パ・リーグは、6球団でまとまって動くための実動部隊として先程のPLM(パシフィックマーケティング株式会社のこと/第一回を参照)という会社があり、今年からは「パ・リーグTV」というインターネットテレビも始めて大成功しました。これはパ・リーグの全試合がインターネットで視聴できる、ということで野球ファンの裾野を広げることにもつながると思います。しかも各球団の収益にも寄与しているということなのでPLMはよくやった! と思いますね。
─── 次に考えている施策は何かありますか?
井上
 まだ具体化はしていないんですが、来年はチケッティングのシステムだったり、パ・リーグのポータルサイトの活用なども含めてキチンと議論していこう、という話をしています。
─── チケッティング・システム?
井上
 例えば、将来的には年間シートで販売した席でも来られない場合は個別にインターネットを通して再販売することができる、とか、チケットを買ったんだけれども行けなくなってしまった時にリセールができるようなシステムを作る、というようなことも検討していきたいですね。それから、チケット価格についても、購入時期によって価格がダイナミックに動いたりとか。メジャーではすでに柔軟なサービスを実施しているので、パ・リーグでも同様のことができないかを検討する、というのが課題です。
─── 12球団統一で、というのは、やはりなかなか難しいですか?
井上
 できれば12球団でやりたい。でも、12球団でひとつにまとまりましょう! と言ってもいきなりは難しいので、まずはパ・リーグで6球団がまとまろうと。もちろん、パ・リーグだって意見が完全に一致してる訳じゃないんですよ。自由競争の原理でやりたい球団もあれば、戦力均衡を重んじるべきだという球団もある。でも、みんなでまとまって「リーグビジネス」をやらなくちゃダメだ! という部分では6球団全て共通した考えだし、合意しているんです。将来12球団で「リーグビジネス」ができればいいですね。

【周辺層からの野球ファン離れ】
井上
 今、野球ファンというのはコア層では根強いものがあるんですが、周辺層からどんどんどんどん野球ファンが減っていってるんです。小・中学生を対象にした調査でも野球ファンが減っているし、そもそも野球をやったことがないという層も多いわけです。これは将来、プロ野球にとってものすごいダメージになってくる。この危機意識に関してはパ・リーグ各球団はものすごく強く持っているんですが、セ・リーグの球団さんはまだ余裕があるからか温度差はかなりあります。
―── 周辺層のファンが減っている理由はどこにあると思いますか?
井上
 まず、プロ野球は以前、地上波で中継されていました。地上波というのはやっぱり波及力がありますから、それを見る一定の裾野を維持する上ではとても意味があった。ところが最近はBSやCSの有料放送が主流です。普通の人は無料で流れてなければ見る機会はどんどんどんどん無くなりますよね。そういう意味で、地上波の縮小とともにファン層も縮んで行く関係にあります。だからこそ、どうファン層を広めていくか、もっと真剣に議論しなくちゃいけない。侍ジャパンのプロジェクトも事業収益も重要ですが、アマチュアを巻き込み、野球ファンの裾野を広げる意義も大きい。
─── 競技人口も減っていますか?
井上
 リトルリーグに入ったり、中学・高校の野球チームの数はすごくあるので、そこだけを見ると野球ファンはたくさんいるという話になります。でも、昔は子どもたちがもっと気軽にキャッチボールをしたり、三角ベースの野球をしたりと、いろんな楽しみ方があったのに、そういう人たちがどんどんいなくなっている。やっぱり、野球というスポーツがそもそも、すごいハンデを背負っていると思うんです。バットとグローブがないとできないし、結構広いスペースがないとできない。ところが、サッカーはボールがひとつあればそれなりに遊べるし、バスケットボールだってある一定のスペースがあればできます。だから、野球というのはもともと、親しむのにとてもハンデのあるスポーツなんです。
─── それは確かにそうですね。
井上
 あと、野球ってルールがとても難しいスポーツ。ある程度上の世代は小さい頃から野球に親しんでいるから、打って、右に走って、こうなったらアウト! というのは当り前だと思っていますが、初めてこのスポーツを知る人にしてみたら、野球のルールってえっらい難しい。サッカーのルールであれば、オフサイドがちょっとわかりづらいくらい。野球はルール的な意味でも、コアファンじゃない層を引き込む上でハンデがあるなぁと思います。だから、何もしないでいたら野球ってファンが縮小するスポーツになりかねない、という点をパ・リーグ6球団で危機感を共有しています。これが、12球団で危機感を共有し、新しい取り組みができるようになればいいなと思います。


■プロフィール
★井上智治(いのうえ・ともはる)/1955年生まれ、大阪府出身。1994年に弁護士からビジネスの世界に転身して井上ビジネスコンサルタンツを設立。2004年に楽天・三木谷浩史氏にプロ野球団設立を持ちかけ、東北楽天を創業し、楽天野球団取締役となる。2005年からはオーナー代行に就任し、また2008年からはパ・リーグ理事長を5期連続で務め、パ・リーグの発展を支えてきた。

★インタビュー=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。 ツイッター/@oguman1977

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