守備位置がコロコロと変わる選手にはあまり大成するイメージはない。コンバートと聞くと、どうしてもマイナスイメージにとらえてしまいがちで、「ダメだったから次。次」と繰り返していく度に、これまでに積み重ねたものが崩壊していくような思いがある。
しかし、遊撃から外野、外野から二塁と守備位置が変わる度にチーム内での必要度が増した“ある稀有な選手”によって、その考えが固定観念に縛られすぎだったと思い知らされた。
その選手は外崎修汰。今や“辻西武”になくてはならないキーマンとなった男の流浪の野球人生を振り返る。
2012年のオフに中島裕之(現・宏之、巨人)がメジャー挑戦したことにより、正遊撃手の座がぽっかりと空いた西武。2017年に源田壮亮がその座を奪い取るまでに、永江恭平や金子侑司をはじめ10人ほどが挑戦してきた。外崎もそのなかの一人である。
外崎は2014年のドラフト3位で西武に入団。混沌としていた正遊撃手争いに終止符を打ってくれる選手が現れたかと、自分を含めファンの誰もが思った(その前には金子侑がやってくれると思っていたものだが……)。
しかし、ルーキーイヤーに遊撃手として34試合出場するも、7失策と精彩を欠く。このとき、西武ファンの筆者は「大卒とはいえ、いきなりは難しいか」という思いで見ていたが、2年目に開幕スタメンを勝ち取りながら20試合4失策と“やらかした”ときは、「外崎もダメだったか」と(自虐的に)サバサバした気持ちになったのを覚えている。
松井稼頭央、中島裕之らが担ってきた西武の遊撃手は“ミスターライオンズ”というポジションであるため、ファンはどうしても選手を厳しい目で見てしまう。2013年以降のカオス状態からその視線は少し緩んだかと思ったが、ファンとしては、やはりチームの遊撃手は常に「ミスター」であってほしいのだ。
そんなプレッシャーにさらされながら2017年に遊撃を追われた外崎は、俊足を生かして外野に活路を求める。“足が速いから外野に就く”はテンプレート的なコンバートにも思えるが、これが見事にハマって7月以降は右翼手のレギュラーを奪取。
遊撃手時代と異なり、期待されていないところからの出発だったことが功を奏したのか、驚異のスピード出世を遂げる。「プレッシャーいかんでこうも活躍度合いが変わるのか」と思わざるを得なかった。
2017年は最終的に打率.258ながら10本塁打、23盗塁と大暴れ。人間にはどんな才能があり、そしてどんなところにチャンスが眠っているかわからない。第1回アジア プロ野球チャンピオンシップ挑む侍ジャパンに選出されてMVPを獲得したときには、「遊撃に固執しなくてよかったなぁ」としみじみ感じたものである。
「2017年に生まれ変わったことで2018年は右翼手で決まり!」と思ったのも束の間、中村剛也の打撃不振により今度は三塁と併用される日々が始まる。しかしプロとしての自信がついたからなのか、振り回されながらもさらに成績を伸ばす。
打率.287、18本塁打、67打点、25盗塁と打撃の主要部門で軒並みキャリアハイを記録。ちなみに森友哉ファンだと思っていた著者の息子の心がいつの間にか外崎に鷲づかみにされており、「外崎のユニフォームを買ってほしい」とせがむまでになっていた。
記録もさることながら日々グングンと実力を伸ばす外崎は、キッズからしたらヒーロー以外の何者でもないのだろう。もう時代はアンパンチではなく「アップルパンチ!」なのである。
2018年の活躍により「2019年はもう右翼手として一本立ちだろう」と誰もが思ったが、そんな矢先に浅村栄斗の楽天移籍が決定。「空いた二塁をどうするの?」という空気が立ち込める間もなく、外崎の二塁挑戦が決まった。
久しぶりの本格的な内野手復帰に最初は戸惑ったように見えたものの、気がつけば打率.270、19本塁打、76打点(8月21日現在)と本塁打、打点の2部門のキャリアハイを更新。「西武の野手は大阪桐蔭(中村、浅村、森の出身校)と富士大(山川穂高、外崎の出身校)から獲得すればいい」とまで、本気で思わされたものだった。
外崎の二塁手挑戦に関しては、「慣れない守備位置で〜」というフレーズが冒頭につくことが多いが、むしろ大学時代の主戦場であるので慣れていないことはない。「開幕当初は久しぶりで感覚が鈍っていた」という表現のほうが正しいだろう。
むしろ慣れがないのは昨季の外野手だった。そうなると、外崎は慣れた内野で結果を出せず、慣れない外野で結果を出して地位を確立し、また慣れた内野に戻る不思議な道を歩んだ選手といえる。
もし外崎が遊撃手で出場機会が減ったときに外野手へのコンバートを受け入れていなかったら、今日の活躍はなかった。そう思うとプロ野球選手には心の柔軟性も必要なのだと思う。
慣れ親しんだ守備位置でプレーしたい気持ちは当然だが、まずは試合に出ることが先決。外崎の遠回りに見える選手生活からは、そんなプロ意識も垣間見ることができた。
「源田&外崎」という二遊間コンビが完成したことで、外崎の流浪生活もようやくピリオドを打つときがきた……と思うのだが、その見立ては本当に正しいのだろうか。答えはこのオフに!
文=森田真悟(もりた・しんご)