もつれにもつれたセ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)進出争いは、最終戦で破れた広島東洋カープが脱落。3年連続でのCS進出はかなわなかった。
シーズン前は、優勝候補に挙げられながら、優勝どころか、CS進出すらならなかった事にファンは落胆を隠せない。
順位が示すように、残念な試合が多かった今シーズンのカープ。そんなカープにおいて、ファンを熱狂させるプレーを数多く演出した選手がいる。その選手とは、カープ代打の切り札・小窪哲也だ。
昨シーズンから代打のポジションに座り、代打職人としてその存在感を示している小窪。今シーズンの代打成績は62打数19安打、打率.380、1本塁打、15打点、出塁率.500と、驚異的な数字を示している。 代打としての打点、安打数、出塁率はリーグ1位。打率は4位と、今シーズンの代打ではNo.1だといっても過言ではないだろう。
歯をグッと噛み締める表情を浮かべ、勝負を決める一打を放つその様はファンの心を掴んで離さない。低迷したカープの中で試合を最も盛り上げたのは、代打小窪のコール時だったかもしれない。
そもそも、カープには代打で輝く選手が過去にも多くいた。小窪の前には、前田智徳が代打の切り札として活躍。2012年には代打率.333を記録。19打点は代打打点リーグ1位の数字であった。翌年も打率.364の好成績を挙げ、その地位を不動の物とする。
カープの代打を語る上で外してはならないのが、右の町田公二郎と、左の浅井樹だろう。彼らは、今なお語り継がれている伝説の代打コンビだ。2人が最も躍動したのが1996年。ビッグレッドマシーンと呼ばれたこの年のカープ打線は、チーム打率.281を残した強打のチーム。そのなかで町田が打率.455、浅井が打率.420とともに4割を超える代打率を残す。
町田公二郎(通算代打成績)
打率.227/90安打/20本/71打点
特に町田は9打席連続代打出塁の日本記録を樹立するなど、他球団の脅威となった。町田はその他にも、代打本塁打歴代2位の20本を放つなど、一発のある代打としてその名を馳せた。その内、代打満塁本塁打4本は日本記録だ。
浅井樹(通算代打成績)
打率.315/159安打/8本/93打点
対する左の浅井は、アベレージヒッターだ。通算代打率.315は歴代3位。159安打は歴代2位の数字と、確実性ある打撃で代打を成功させてきた。
右と左、力と技とタイプが異なる歴代でも最高の強力代打が同時に在籍していたというのは奇跡ともいえるだろう。
そんな強力代打の系譜の中においても小窪は遜色ない数字とインパクトを残している。今シーズン放った唯一の一発がホームランも満塁ホームランと代打の系譜を汲んでいるように思えてならない。
PL学園高校、青山学院大学と野球エリートの経歴を持ちながら、そのエリートらしからぬ泥臭いプレースタイルは、ファンの好感を得ている。
そんな小窪哲也も、今年でFA権を獲得。その去就に注目が注がれている。ファンとしては来季もカープでその勝負強さを発揮して欲しいと願って止まない。
高校、大学、大学日本代表チーム、その全てでキャプテンを努めた統率力は、若手の多いカープでこそ力を発揮することだろう。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)