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第9回『ドリームス』『大甲子園』『ONE OUTS』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1



《意味》
遠くへ打球を飛ばす。強いボールを投げる。塁間を速く走る。野球の動作は、前方へ押し出す力が重要な役割を果たす。普段から、パワーを意識した練習を積むべし。

《寸評》
打撃スイングや投球フォームを磨くのは、少しでもムダなくボールに力を伝えるため。美しさを競うためではない。毎日の練習で数をこなしていくと、なぜかこの単純な原理を忘れがち。作中では、素振りで数センチずつ進むという練習方法を紹介。

《作品》
『ドリームス』(七三太朗、川三番地/講談社)第2巻より

《解説》
超の付く問題児・久里武志は、夢の島高野球部の新入生歓迎試合で上級生チームと対戦。持ち前の技術と知識で、新入生チームを引っ張っていく。
久里の独断で途中交代させられた一番・大村は、悔しさをバネにグラウンドの隅で素振りを開始。その姿を見た久里は、軸足で地面を蹴るように振れとアドバイスを送る。久里によれば、地面を蹴りながら素振りをした場合、戻ったときに足が前の位置よりも数センチほど動いているという。
「それを何べんもくり返すんだ(中略)野球ってなあ 前に力を押し出してパワーを作るスポーツだ いつもおんなじとこでバット振っていたって進歩はねぇんだよ」
久里からの助言を受け、大村は素振りの質を改善する。彼の後ろには、いつしか地面を少しずつ削った足跡の道が完成していた。


★球言2


《意味》
打撃練習はマシンを相手に朝から晩まで続けることもできるが、投手の肩が消耗品である以上、投球練習には限界がある。現代野球が投低打高になるのは当然の帰結。

《寸評》
智辯和歌山高や日大三高など、圧倒的な打撃力で甲子園を制するような野球部では、バッティング練習を同時に4〜6カ所で行う風景が日常的(※10)。疲れを知らない複数のピッチングマシンが、左右・緩急を投げ分け、選手たちのバッティング技術を底上げしている。
※10・『別冊宝島 公開!甲子園 名門野球部のトレーニング2』(宝島社)より

《作品》
『大甲子園』(水島新司/秋田書店)第17巻より

《解説》
東京都の後楽園球場にある日本ハムファイターズの選手食堂。土井垣将は、母校・明訓高の甲子園中継を見守っていた。
マウンドでノーヒット・ピッチングを続ける対戦相手の青田高・中西球道。彼が「ここまでのようにストレート一本で押してくれたら(※11)」、打ち崩すことができると土井垣は断言する。
「今の野球は投低打高の時代(中略)自分は監督の時に(中略)練習の七割を打撃についやしました(中略)打者はそれができるんですよね しかし投手には特投げなんて不可能です」
高校時代、監督兼選手として常勝チームを率いた男の解説は続く。
「なんといっても 投手の肩は消耗品です もし球道が自分のスピードに酔い 自身過剰になってストレートで押すなら 終盤につかまえられますよ」
果たして、彼の予言は的中するのか。激闘は後半戦へと向かっていく。
※11・作中では「たら」に傍点。


★球言3


《意味》
打者は、真ん中のボールを打つフォームを理想型にしながら、各コースに対応する。内角高めと外角低めは、この理想型を大きくアレンジしなければならないため、特に打ちにくい。

《寸評》
同じ対角線への投球でも、内角低めと外角高めの場合、真ん中のボールを打つときと手を伸ばす長さがあまり変わらないため、打者は対応しやすい。腕をたたんで叩いたり、伸ばして拾ったりする分、内角高め&外角低めは、投手にとって打たれにくい組み立てになってくれる。

《作品》
『ONE OUTS』(甲斐谷忍/集英社)第19巻より

《解説》
念願のプロ野球パ・リーグ制覇まで、あと一歩と迫った埼京彩珠リカオンズ。首位の千葉マリナーズと1.5ゲーム差のまま最終5連戦を迎えるが、初戦の先発である渡久地東亜がいきなりの36失点。歴史的な大敗を喫してしまう。
あとがないリカオンズは、第2戦を2対0、第3戦を4対0と連続完封勝利。第4戦も五回終了時点で8対0と大量リードする。
一方、初戦の好調がウソのように沈黙を続けるマリナーズ打線。その秘密は、初戦の渡久地による投球にあった。彼は、執拗にインハイとアウトローの球を投げ続けることにより、マリナーズの打者たちの打撃フォームを崩していたのだった。
「ド真ん中のボールを打つ時こそが その打者のフォームの理想型」と語るマリナーズのスコアラー。その理想型をアレンジしなければ打てない「二つのコース」の特殊性をあらためて選手たちに再認識させるのだった。

※次回更新は12月25日(火)になります。

文=ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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