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悲願監督は今年も「悲願監督」だった…甲子園とは「待ってもこない恋人」へのラブレターなのか?

 全国各地で夏の甲子園切符をつかんだ代表校が続々と名乗りを挙げる中、あらためて思うのは「夏の甲子園とは負けゆく男たちの物語」だということ。約2カ月にわたるトーナメント戦で頂点に立てるチームは各地区で1校のみ。1チームの勝者を例外に、すべてのチームは負けゆくのみ。しかもほとんどは甲子園にすら辿りつけないのだ。

 有望選手をみても、この物語性から逃れるのは容易ではない。昨夏の優勝校・前橋育英高(群馬)の?橋光成、昨春のセンバツで優勝した浦和学院高(埼玉)の小島和哉、最速157キロの豪腕を擁する済美高(愛媛)の安樂智大ら、甲子園での勇姿を待ち望まれたエースたちですら早々と地方大会で姿を消している。

 7月25日。真夏日の午後2時。この原稿に取りかかるわずか前には、夏の甲子園まであと一歩の「悲願校」としても有名な霞ヶ浦高(茨城)が昨夏に続いて、またもや決勝戦で敗れ去った。霞ヶ浦高を率いるは高橋祐二監督。母校の同校バレー部を「春高バレー」に導いたこともある異色の名指導者だが、高橋監督もまた「負けゆく男たちの物語」にとらわれた「悲願監督」と呼べるだろう。

 これまで『野球太郎』では「悲願校」を毎年特集しているが、今号「高校野球監督名鑑号」では、巻頭ページで甲子園目前で夢破れてきた「悲願監督」をピックアップ。また、49地区別に有力高校監督を取り上げたページでも「甲子園未出場監督」の項目を設けている。

 高校野球監督名鑑に「悲願監督」として名を連ねたのは以下の5名。この夏に悲願成就をかける男たちの行く末は今、どうなっているのか……

高橋祐二 霞ヶ浦高(茨城)


バレーボール部監督としては霞ヶ浦高を全国に導いた実績あり。野球部を率いての2種目制覇にリーチをかける名指導者。

〈今夏の行方〉
7月25日。決勝戦で藤代高に3−12で大敗。2011年の決勝戦でも藤代高に9回2死から逆転負けを喫している。

森田誠一 横浜創学館高(神奈川)


横浜高OB。強打のチームとして横浜創学館高を鍛えあげ、強豪揃いの神奈川県で頭角を現してきた。

〈今夏の行方〉
7月24日。5回戦で相模原高に4−6で逆転負け。今夏の神奈川大会で大活躍の公立校によもやの番狂わせを起こされた。

鈴木翔吾 愛産大工高(愛知)


塚原青雲高(現・創造学園高、長野)では部長として甲子園出場経験あり。甲子園監督の右腕として力を発揮してきた男が、2012年にいよいよ監督就任となった。

〈今夏の行方〉
7月24日。科技学園豊田高を5−1で退けて3回戦突破したものの、26日に桜丘高に3-8で敗れた。

竹本修 市尼崎高(兵庫)


「元プロ野球選手」監督のパイオニア的存在。プロ引退後に教員資格を取り、高校野球の指導者になることを夢見ながら教壇に立ち続けた苦労人。

〈今夏の行方〉
7月12日。2回戦で高砂南高に9回表に5点を奪われ6−7で逆転負け。金刃憲人(楽天)を擁したチームで甲子園を狙った2002年夏の県大会の準決勝、神戸国際大付高に9回裏2死から5点を奪われて大逆転負けした悲劇が脳裏をよぎる敗戦だった。

北須賀俊彰 尾道高(広島)


これからの広島野球界を担うひとりとして期待を集める監督。自費の1億円で建てた自宅兼寮で選手たちと共に過ごし甲子園を目指している。

〈今夏の行方〉
7月17日。2回戦で広高に1−3で惜敗。2010年秋優勝、2012年春優勝と着実に甲子園間近まで歩みを進めるも、今年も悲願に手が届かず。

 今号の名鑑でピックアップした「悲願監督」はすべて敗れ去ってしまった。

 この結果を見ても、各地にいる未だ見ぬ期待のチーム、監督、選手を甲子園で待ち焦がれながらも、実は会えないケースが如何に多いのかがわかろうというものだ。

 そう思うと名鑑を眺めながら甲子園を楽しみに待つという行為は、「待ってもこない恋人」へのラブレターを書いていることに近いような気がしてくる。もしくは成就することのない「未来の恋人図鑑」を眺める行為いったところか。さて今夏、恋人は甲子園に現れるのか。首を長くして開幕を待ちたい。


■プロフィール
文=山本貴政(やまもと・たかまさ)/1972年3月2日生まれ。音楽、出版、カルチャー、ファッション、野球関連の執筆・編集・企画・ディレクションを幅広く手掛けている。また音楽レーベル「Coa Records」のディレクターとしても60タイトルほど制作。最近編集を手掛けた書籍は『ブルース・スプリングスティーン アメリカの夢と失望を照らし続けた男』、編集・執筆を手掛けたフリーペーパーは『Shibuya CLUB QUATTRO 25th Anniversary』、ディレクションを手掛けた展示会は『Music Jacket Gallery』(@新宿高島屋)など。

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