プロ10年目を迎えた今シーズン、今年ダメなら終わりという不退転の決意で臨んだ金刃。ケガも癒え、充実したキャンプを送った。開幕1軍こそ逃したものの、3月31日には1軍合流。特筆すべきは、そこからの大変身である。
投球フォームを完全なサイドスローに変えたのだ。
金刃はコーチと話し合い、左ヒジを思い切って下げるという突貫工事に踏み切った。1軍で通算156試合に登板し、通算281回2/3を投げてきた実績を持つ投手である。普通なら積み上げてきた実績にしばられてもおかしくはない。しかし、金刃は視線を未来へ向けた。強い意志を垣間見ることができるその決断が、自身にもチームにとっても功を奏す形になった。
ソフトバンクには森福允彦や飯田優也、ロッテは松永昂大…といった具合に、パ・リーグ他球団の開幕ロースターには、当然のように中継ぎ左腕が名を連ねた。
しかし楽天は、その役割を任せられるサウスポーがいなかった。左腕は抑えの松井裕樹だけという布陣で、開幕を迎えたのである。
そんな背景もあり、楽天の救援右腕による左打者被打率は.356と芳しくない。4月24日現在、本塁打も3本打たれている。
一方、プロ3年目23歳の濱矢廣大と金刃による救援左腕の被打率は.148と上々、チームに必要不可欠な存在となっている。
実は楽天移籍後、金刃の左打者対戦成績は被打率.306、被出塁率.392と、サウスポーにしては物足りないものだった。
特に昨季は被出塁率.452と、ファンをモヤモヤさせてきた。しかし今季は、楽天に欠かすことのできない左打者キラーだ。
ここまで対戦した左打者22人との成績が、あまりにも素晴らしい。20打数3安打、二塁打1本、4三振、1四球、1犠打、被打率.150。打者のタイミングを完全にずらし、打たせた打球17本の82.4%がゴロに、ヒット3本もすべてゴロ打球だ。
楽天が3年ぶりのAクラスへ浮上するには、「切れ味鋭い刃」のような黄金左腕、金刃の活躍が必要不可欠になってきた。
文=柴川友次(しばかわ・ゆうじ)
信州在住。郷里の英雄・真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドに見える、楽天応援の野球ブロガー。各種記録や指標等で楽天の魅力や特徴、現在地を定点観測するブログを2009年から運営の傍ら、有料メルマガやネットメディアにも寄稿。