「今までお会いしたなかで、すごいと思った監督はいますか?」
中学野球の取材で講習会などに行くと、よく指導者の方からこんな質問をされる。
筆者は野球未経験ということもあり、取材に行く先々で多くを学ばせてもらい、みなさんすばらしい方ばかりなのだが、その経験とともに必ず挙げさせていただいているのは日大三の小倉全由監督だ。
2015年12月発行の『中学野球太郎Vol.9』の特集は「『野球』で食べていく」。そのなかで、「高校野球監督という仕事」をテーマにした小倉監督への取材に同行した。
取材場所は日大三の選手寮の食堂。全国屈指の強豪校の監督ということもあり、かなり緊張していたが、小倉監督がやってきた瞬間、そのキリッとした立ち姿、おだやかな笑顔に自然と全身の筋肉が緩んだ。
一言でいえば「カッコイイ」だが、そのオーラがケタ違い。まるで大物芸能人を生で見たときのような高揚感があった。お話をうかがううちにその理由がだんだんと見えてくる。エネルギーが体から溢れ出ているのだ。
「58歳の男が選手たちと一緒に甲子園という目標に向かって、グラウンドで汗を流すことができる。こんなに幸せなことはありません」
高校野球監督の醍醐味を語る小倉監督の表情は幸せそのもの。
「毎年、夏に負けたあとは誰よりも落ち込んでしまいます。なんで勝たせてあげられなかったんだろう。夜も眠れない日が続き、ボーっとしてしまう。グラウンドにどんな顔でいけばいいのだろう……」
言葉だけで畏れ多くも小倉監督の主観にスッと入っていける。情景がすぐに思い浮かぶ。エネルギーが身に自然と染み込んでくる不思議な感覚だった。
平日は選手寮で選手たちとともに生活している小倉監督。選手たちが自主トレに励む時間にはそれを見守りつつ、自身の体も鍛え上げる。58歳(当時)とは思えない若々しさはそこからも生まれているのだろう。
「選手たちにはいつも『カッコイイ男になれよ』と伝えています」
出会いはその一回限りだが、“カッコイイ男”の姿を間近で見て学べる日大三の選手たちが心底うらやましいと感じた。
日大三にはまだまだカッコイイ男たちがいる。特に注目しているのが、秋に背番号1を背負った岡部仁だ。
岡部は中学時代に東京青山リトルシニアのエースとして、リトルシニア日本選手権で3位になっており、こちらも『中学野球太郎』で取材したことがある。
クラブハウスに着いたとき、初めにカメラに目線とピースサインを向けてきたのは岡部だった。「なんの取材ですか?」「いつ発売されるんですか?」。瞬く間に選手たちのムードが高まっていく。
しかし、いざインタビューに入ると一気に雰囲気が変わった。背筋を伸ばし、真剣な目で言葉のひとつひとつに熱がこもる。
「全員三振を狙っていきました」
その目は東京青山シニア・宮下昌己監督(元中日)仕込みの勝負師の眼差し。端正な顔立ちもあり、自分が同世代の女の子ならば、絶対に惚れていただろう。
闘志、気持ち、それを表現できる言葉。中学生離れしたスター性に驚いた。プロの世界で“カッコイイ男”を何人も見てきた宮下監督も「あいつはカッコイイですよ」と目を細めていた。
取材当時の岡部は、日大三への進学が決まっていた。
「小倉監督に惚れました」
日大三を選んだ理由をこう語っていたが、先述の小倉監督への取材で“カッコイイ男”が1本の線で結ばれた。
カッコイイ中学生が小倉監督の下でどんなカッコイイ高校生になったのか。日大三投手陣には、昨秋の東京大会で清宮幸太郎(早稲田実)から「ここぞの5三振」を奪った左腕・櫻井周斗もいるが、甲子園の舞台で岡部の晴れ姿も見てみたい。
男が惚れるカッコイイ男たち。今春は日大三のオーラに酔いしれたい。