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第7回 「大型トレード」列伝〜男達を待ち受ける数奇な運命〜

 キャンプイン直前に報じられた「糸井トレード」の衝撃ニュース。
 1月23日午後、日本ハムの糸井嘉男外野手、八木智哉投手と、オリックスの木佐貫洋投手、大引啓次内野手、赤田将吾外野手による2対3の大型トレードが発表された。
 4年連続打率3割、球界一の強肩と超人的な身体能力を武器に4年連続ゴールデン・グラブ賞受賞。もちろん、WBC日本代表候補にも選出されている球界トップスターのトレード劇は、近年では非常に珍しいケースだ。そこで今回は、これまで球界を震撼させてきた「大型トレード」をプレイバック。その後の人間模様も含めながら振り返ります。


【ケース1:「野村再生工場」に再生された二人の悪人】

江夏豊、他(計2名・阪神)⇄ 江本孟紀、他(計4名・南海)




 1975年オフ。江夏豊投手を持て余していた阪神・吉田義男監督から懇願される形で南海・野村克也監督がトレードを受諾。阪神からは江夏に加え望月充外野手、南海からは江本孟紀投手・島野育夫外野手・長谷川勉投手、池内豊投手による2対4のトレードが成立した。
 この時、江本を格下に見ていた江夏が「なんで俺があんなレベルの投手と交換させられるんだ」と吠え、江本も新聞を通して「ええがげんにせえ!」と応戦。その後、二人の間で激しい舌戦が交わされるが、後に和解。それどころか、後年江夏の刑事裁判において情状陳述をするまでの良き友人の間柄となった。2011年に上梓された江本孟紀著『野村克也解体新書』の中で「野村克也を語る」と題し、江本・江夏の二人で対談をするなど、その関係性は今でも続いている。


【ケース2:「空白の1日」から始まった、永遠の呪縛】

小林繁(巨人)⇄ 江川卓(阪神)




 1978年秋のドラフト会議。この前年、クラウンライターからドラフト指名を受け、入団拒否していた江川卓投手が、ドラフト前日に巨人と電撃契約(空白の1日事件)。セ・リーグ事務局はこの契約を無効として江川投手の選手登録を却下。それに抗議した巨人はドラフト会議をボイコットした。ドラフトでは南海、近鉄、ロッテ、阪神の4球団が江川投手を1位指名し、阪神が交渉権を獲得。巨人は、全12球団が出席していないドラフト会議は無効であると主張し、阪神の交渉権を認めなかった。この問題はこじれにこじれたが、最終的に金子鋭コミッショナーの「強い要望」により1979年1月、ドラフト指名した阪神に入団した上で、小林繁投手を相手とする交換トレードで巨人に移籍することとなった。
 阪神に移籍した小林投手は「ジャイアンツだけには負けたくない」と、この年、巨人戦8連勝。22勝、防御率2.89という成績を挙げ2年ぶりの沢村賞を獲得した。一方、何度も沢村賞を受賞する大投手になるだろうと期待された江川投手が、引退までに一度もその賞を受賞できなかったのはなんとも皮肉な結果である。
 その後、「空白の1日」から20年目の2007年秋、二人は黄桜のCMで共演を果たす。リハーサルもなく撮影された中で小林が「しんどかったやろなぁ。俺もしんどかったけどな。2人ともしんどかった」と江川に語りかけた。「この対談で初めてお互いのわだかまりが取れた」と後に江川は語っている。


【ケース3:「将来中日の指導者として呼び戻す」の約束はいずこへ】

落合博満(ロッテ)⇄ 牛島和彦、他(計4名・中日)




 1986年。このシーズンに2年連続3度目となる三冠王を獲得した球界No.1打者・落合博満選手に対して、中日は抑えの切り札・牛島和彦投手、上川誠二内野手、平沼定晴投手、桑田茂投手の4選手を交換要員としてトレード成立にこぎつけた。落合選手の年俸はこの移籍によって跳ね上がり、ここに球界初の1億円プレイヤーが誕生した。
 しかし、このトレードには後日談がある。当時、中日でリリーフとして活躍していた牛島はトレードに納得せず、拒否する構えも見せていたが、星野監督の説得によりロッテへの移籍を了承。その際、星野監督から「将来中日の指導者として呼び戻すから」という口約束があったとされている。ところが、中日復帰は実現せず、それどころかトレード相手の落合氏が中日の監督になるという展開に。その後、横浜ベイスターズの監督に就任し、落合中日と対戦した牛島監督の心境たるや、いかばかりであろうか。


【ケース4:辣腕・根本が結んだ二人の大打者、幸一・幸二の物語】
最後に、2つの大型トレードが生んだ奇跡的なつながりを紹介したい。

田淵幸一、他(計2名・阪神)⇄ 真弓明信、他(計4名・クラウン)


 1978年オフ、クラウンライターライオンズから生まれ変わったばかりの西武ライオンズ。監督兼管理部長だった根本陸夫は、新生ライオンズの切り札として阪神から田淵幸一捕手・古沢憲司投手の2人を、真弓明信選手・竹之内雅史選手・若菜嘉晴捕手・竹田和史投手の4人と交換する大型トレードを敢行した。
 ケガに悩まされていた田淵選手も西武で鍛え直し、1980年に5年ぶりとなる40本塁打以上(43本塁打)を記録。そしてこのオフ、ドラフト外で入団したのが秋山幸二選手である。秋山選手は田淵選手から右の大砲の座を譲り受け、西武黄金期を築き上げていく。

秋山幸二、他(計3名・西武) ⇄ 佐々木誠、他(計3名・ダイエー)


 1993年、9年連続30本塁打以上というパ・リーグ記録を達成した秋山選手だったが、シーズンオフに福岡ダイエーとの大型トレードの主役となる。このトレードの絵を描いたのがまたしても根本陸夫当時のダイエー監督である。西武からは秋山幸二外野手・渡辺智男投手・内山智之投手、ダイエーからは佐々木誠外野手・村田勝喜投手・橋本武広投手という主力同士3対3の大型ドレードが敢行された。
 それまでの両翼が狭い西武球場から、両翼も広く、フェンスも高い福岡ドームが主戦場となった秋山選手は打撃フォームの改造を決意。そのモデルとなったのが、プロ1年目に練習で目撃し、高々と舞い上がる独特の放物線を打っていた田淵幸一氏だったと、自著『卒業』の中で明らかにしている。

 以上、どの例を見ても、その後、トレードの主役となった男達の間には宿命とも呼ぶべき関係性が築かれているのがよくわかる。だからこそ、今回のトレードではどんなドラマが生まれるのか……キャンプから注目していきたい。


※次回更新は2月12日(火)となります



★文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977

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