阪神タイガースの寮は、昔から虎風荘の愛称で親しまれ、現在はファームが本拠地としている鳴尾浜球場に隣接している。立派な室内練習場も完備し、野球に打ち込むには申し分のない環境だ。
各球団とも寮にはウエート室やサウナなどが備えられ、食事も含め選手たちを全面的にバックアップする。
寮には多くのスタープレーヤーを生み出してきた歴史がある。巨人の選手が素振りをする部屋は「松井部屋」として、オリックスの青濤館406号「イチロー部屋」は長年空室で特別な部屋として引き継がれてきた。(注:青濤館は今年閉鎖され移転される)
プロ野球選手にとって、寮はグラウンドと同じくらい、重要なところなのだ。
12球団を見渡せば、寮長が選手の健康管理や生活習慣の指導役となっているケースが多い。プロ野球選手がゆえに、夜の誘惑も多いため、門限にはどの球団も非常に厳しい。
一昔前は、寮長が寝静まるのを待って、夜の街に繰り出し、それが見つかりボコボコに殴られたということもあったようだ。
ただ、得てして、そんな選手の方が野球にも真剣に取り組んでいた。大成した選手は、若い頃は皆、豪傑であったのだ。
いまの選手は、比較的まじめで、3度の食事を寮で済ませ、夜も部屋で静かに過ごす。よって門限を破ることもほとんどないという。某球団の寮で長年、料理長を務めていたある人物は、「生真面目で型にはまったタイプは逆に大成しないことが多い」とも言う。
元阪神の井川慶のように、逆に誰も口が出せないくらい、まじめで通すと大成するのかも知れない。野村克也元監督がそんな井川に、「もっと金を使って遊べ!」と言ったケースはレア中のレアだろう。
現在の虎風荘の駐車場には、ファームの選手たちのマイカーがずらっと並んでいる。ほとんどすべてが、高級外車だ。ある時期から契約金額が高騰し、プロ野球選手に成りさえすれば、高級外車に乗れ、ちやほやされる。その時点で野球人生の目的を達したと勘違いする選手もいる。
そんななか、寮長は“寮にいる選手が1人でも多く1軍で活躍してほしい!”と願っている。
しかし、その願いが叶わずに引退し退寮する選手は、毎年新入団選手とほぼ同じ数だけいるのだ。これだけは、いまも昔も変わらない悲しい現実である。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子どものころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。