小野は折尾愛真から富士大へ進み、昨年、阪神からドラフト2位で指名された。高校時代は甲子園の経験はないが、ソフトバンクや巨人のスカウトから注目されていたこともあり、プロ志望届を提出。しかし、ドラフト指名されることはなく、富士大に進学した。
富士大でストレートに磨きをかけた小野は、再びスカウトの目にとまる。「投手豊作年」のドラフトにあって、大谷翔平(日本ハム)、藤浪晋太郎(阪神)らの世代としては一足遅れて注目されることとなったのだ。
思い返してみると、小野が目標とする藤川は1998年のドラ1投手。高知商時代には甲子園に出場し、将来のエースとして大きな期待を寄せられるなか、阪神に入団。しかし、度重なる故障に悩まされ、潜在能力を発揮できぬままファーム暮らしが続いた。
転機が訪れたのは2004年のこと。当時の2軍投手コーチ・山口高志氏のアドバイスでフォームを改造。「火の球ストレート」を手に入れたことで、藤川の野球人生は激変した。
小野は、藤川と同じ球質のボールを投げると先述した。しかし、それはストレートに限った話だ。そして、まだ「火の玉ストレート」には至っていない。
では、当時の藤川にあって小野にはないものは何か?
球質は同じだとしても、藤川には打者が「ストレート待ち」でもバットに当てることができない、浮き上がるような球のキレがあった。
現在の小野のストレートには、ファウルを打たせることはできても、空振りを奪うまでの威力はまだない。
ただ、藤川が「火の球ストレート」を手に入れるまでに、高卒プロ入りで6年の歳月を要していることを考えれば、大卒とはいえ小野にも若干の猶予は残されている。
入団時、もやしっ子のような細身で変化球を多投していた藤川が6年後にはバットにかすらせもしないストレートで打者を翻弄したことを考えれば、線が細い小野も将来、藤川を彷彿させる「火の球ストレート」を投げる可能性は、十分にありえる。
冒頭にも述べたとおり、小野はポーカーフェイスで物事に動じないタイプの投手だ。藤浪晋太郎がよく言う、脱力投法でリラックスしてキレのある球を投げ込むことにも長けている。
反対に、藤川はどちらかというと喜怒哀楽を表に出すタイプだ。
とはいえ、タイプはどちらであってもいい。打者を抑えればいい話しだ。
ただ、藤川にあって、小野にはまだないものがもう1つある。それは、藤川の投じるボールには魂がこもっているということ。まさに「火の球」、いわゆる気持ちの部分だ。
バットにかするか、かすらないかは、球のキレだけの話ではない。魂がこもってこそなのだ。
小野が藤川のようにボールに魂をこめることができれば、金本監督のいう、「大エース」への道は確かなものとなるに違いない。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。