エース候補と呼ばれる若手投手が大成しなかった……というのは、プロ野球ではよくある話。
「こんなはずでは……」
昨季、ファンにそんなため息をつかせたのが若松駿太(中日)だ。
2012年に福岡・祐誠高からドラフト7位で中日に入団。下位指名ながら、2年目に1軍昇格を果たすと、3年目の2015年には先発ローテーションに食い込み、23試合で10勝4敗、防御率2.12の好成績を挙げ、エース候補に名乗りを上げた。
しかし、昨季は19試合で7勝8敗、防御率4.06で負け越し。飛躍が期待されたが、逆に相手打者の攻略を許す結果となってしまった。
このまま平凡な投手に終わってしまうのか……。そんな不安が脳裏を過ぎるが、2015年の好投は決して「初物だから」の一言では片づけられない。
若松の最大の武器といえばチェンジアップ。「ドローン」という擬音では物足りない、「ドロロ〜ン」といった感じでボールがこない。武田翔太(ソフトバンク)のカーブが“お化けカーブ”ならば、若松のチェンジアップは“お化けチェンジアップ”。まさに魔球の域である。
実は昨季も魔球は健在だった。チェンジアップに限定すると被打率は1割台。魔球攻略は許さなかったのだ。
では、なぜ飛躍できなかったか。チェンジアップ以外に答えがある。
若松はストレート、チェンジアップ、スライダー、カーブの4球種をベースに投球を組み立てる。確かに昨季もチェンジアップは魔球だったが、それ以外の球種はなんと被打率3割を超えていたのだ。
チェンジアップが魔球すぎるゆえ、他の球種を狙い打ちされた格好。しかし、裏を返せば、ストレートやほかの変化球で第二の武器を作ることができれば、とんでもない投手になるということだ。
昨オフは体重増加でキャンプを迎えたが、新たな武器を生み出すきっかけにはならず、若松自身も反省していた。
だが、調整失敗のなかでもチェンジアップ自体の威力は衰えなかった。試行錯誤の末でも、ブレない“投球の軸”になっている。
秋季キャンプからしっかりと体を絞り、自主トレにも余念がない。2月で22歳の若さ。こんなところでは終われない。
文=落合初春(おちあい・もとはる)