胴上げ投手、再び。
17日、Kスタ宮城で行われたパ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ緒戦で圧巻の完封劇を演じた男は、昨日21日の試合でも最終回のマウンドへ。2安打を許すものの、苦手・井口資仁を抑えて、楽天を球団創設初の日本シリーズへと導いた。やはり田中将大は負けなかった。
このコーナーでは過去2回(初回 2回目)、今季の田中の投球内容をデータスタジアム(株)協力のもと分析し、その「攻略法」を以下の4つにまとめた。
(1)“エース同士の投げ合い”で楽天打線を抑え込め
(2)勝負は最初の3イニング。田中のエンジンがかかる前に1点でも多く!
(3)追い込まれる前に打つ。初球から積極的に打つ
(4)得点圏にランナーがたまる前の連打と、果敢な走塁
では、ロッテは実際にどう攻め、なぜ攻略できなかったのだろうか? いま一度細かく振り返ってみたい(※以下、特に記述のない場合は17日の試合での投球内容)。
(1)“エース同士の投げ合い”で楽天打線を抑え込め
ロッテの先発はエース・成瀬善久。今シーズン、不調のため6月末から登録抹消となり、CS直前に復帰した成瀬だったが、この試合では楽天打線を7回1失点。田中の試合における楽天打線の援護率が6点台だったことを考えると、エースの面目躍如という見事な投球内容だった。
しかし、田中はそれを上回る完封劇。打線が抑え込まれても、それをさらに上回って相手打線を零封してしまうのは、さすがのひと言だ。
(2)勝負は最初の3イニング。田中のエンジンがかかる前に1点でも多く!
やはりこの試合でも田中の立ち上がりは今ひとつ。1回、2回とも2安打を許したが、それでも失点しなかった。特に2回は1死一、二塁というピンチを迎えたが、ここで併殺を奪えたのが大きかった。
ロッテにしてみれば、今季、田中相手に打率.364と、チーム内で最も攻略できていた井口が、ヒットはおろか一度も出塁できなかったことも、得点に結びつかなかった要因と言えるだろう。
(3)追い込まれる前に打つ。初球から積極的に打つ
戦前から「早打ち」を宣言していたロッテ打線。これに対して楽天バッテリーは初球から変化球を多めに配球した。実に打者34人中30人に対して初球は変化球で入る用心深さでロッテ打線の打ち気をかわしていった。
(4)得点圏にランナーがたまる前の連打と、果敢な走塁
ロッテとして悔やむべきは、やはり前述した2回の攻撃。鈴木大地の二塁打、清田育宏の内野安打と2連打したにもかかわらず、走者を一、二塁にしかできなかったことだ。鈴木の二塁打で得点圏には進んでしまったが、清田の当たりが抜けていれば、果敢に本塁へ……というところでマギーに止められて、内野安打まで。続く里崎智也はバッテリーの術中にはまり、併殺打を打たされてしまった。
果敢な走塁ができなかった場面としては初回の攻撃も考えられる。俊足の岡田幸文が内野安打で出塁し、井口、今江敏晃を迎えた場面。岡田は揺さぶりつつも走らず、一塁に留まったが、井口はファウルフライに倒れる。今江は単打でつないだが、角中勝也が倒れ、先制攻撃ならず、岡田の足も生かせなかった。
また、勝負所の7回でも1死一塁の場面で再び、長打が期待できる里崎に回ったが併殺を奪われている。これはやはり田中の踏ん張りと楽天守備陣を褒めるべきだろう。
今季、リーグ最小失策数(63個)を誇る楽天守備陣が十二分に機能し、田中に安心して投球させたのではないだろうか。結局この試合、田中は7安打を許しながら、一度も三塁を踏ませなかった。
こうして振り返ると、ロッテは本コーナーと同じ田中対策を立て、それを実行しようとしたことが伺える。だが、その攻略法をことごとく田中が上回った、ということになるだろう。
連載第2回でも述べたが、田中はピンチの場面やカウントで追い込むと、如実にギアがあがる“アドレナリン投法”で今シーズン、圧巻の連勝記録を打ち立ててきた。だとすると、ポストシーズンは、最もアドレナリンが出やすい状況とも言える。
事実、田中はCSで先発登板すると、17日の勝利も含め3戦全勝。しかも、その全てが完投勝利で、防御率は0.67。明らかにもう一段、ギアが上がった投球をしているのだ。アドレナリン投法の真骨頂ともいえるポストシーズンで田中を攻略するには、シーズン中よりも大変な作業を擁する、ということになる。
田中はこのままノンストップで日本一の頂きまで一気に駆け上がるのか。それとも、盟主・巨人が“ストップ・ザ・田中”を果たすことができるのか。その答えは、26日からの日本シリーズで明らかとなる。
文=オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。また「幻冬舎WEBマガジン」で実況アナウンサーへのインタビュー企画を連載するなど、各種媒体にもインタビュー記事を寄稿している。ツイッター/@oguman1977