イニングの先頭打者を抑えることは、ピッチングの基本だ。先頭打者に出塁されると、どんな投手でも100%の力を発揮することは難しい。塁上の走者に注意力を奪われることがリズムを乱す原因にもなる。セットポジションからの投球で球威・球速がダウンし、打者に痛打されるリスクも高まってしまう。投手不利のファクターが多くなる。
昨年は開幕前にミコライオが椎間板ヘルニアを発症。松井裕は高卒2年目ながら、その代役として抑えに抜擢されると、63試合で防御率0.87、3勝2敗、球団史上最多の33セーブを残した。躍動感あふれる投球で打者をグイグイねじ伏せたあの活躍劇も、先頭打者の被出塁率を.271に抑えたことが、大きかった。
今年の松井裕はこの基本を徹底できず、昨年3割以下に抑えたその被出塁率は.531と悪化している。とくに制球を乱し歩かせる場面が多いのだ。ここまで出した四球21個中、先頭打者へは8個。このことが、後々の災難へつながっている。
4月17日のソフトバンク戦が象徴的だ。4点リードの9回、代打・吉村裕基に同点3ランを浴びるなど4失点を喫した。このときも先頭に四球を与えている。5月14日・15日の敵地ロッテ戦。松井が2戦連続でサヨナラ打を浴びた衝撃的な敗戦は、いずれも先頭打者に四球と二塁打で出塁を許したことで始まった。このように、失点した8試合中6試合は、先頭打者に出塁されたことが起点になっているのだ。
交流戦で5位に浮上した楽天は4位・西武とのゲーム差も3.0まで縮めた。前半戦終了までに4位浮上、3位・日本ハムを視野に入れるためにも、背番号1の復調は欠かせない。マウンドに上がり、最初に対戦する打者=先頭打者を、雑念なしでシンプルに全力で抑える。このことができれば、ピッチングの調子も上向くはずだ。
文=柴川友次(しばかわ・ゆうじ)
信州在住。郷里の英雄・真田幸村の赤備えがクリムゾンレッドに見える、楽天応援の野球ブロガー。各種記録や指標等で楽天の魅力や特徴、現在地を定点観測するブログを2009年から運営の傍ら、有料メルマガやネットメディアにも寄稿。