連載「秋の夜長は野球で楽しめ!」の第3回。最終回となる今回は「読書の秋」ということでオススメの野球小説&野球漫画をまたもや独断で紹介したい。
野球漫画の王道といえば『キャプテン』で間違いない。
名門・青葉学院中から墨谷二中に転校した谷口タカオ。実は青葉学院中では2軍の補欠だったのだが、周囲に勘違いされ、墨谷二中ではキャプテンに指名される。しかし、不断の努力と猛練習で己を鍛え、立派なキャプテンに成長する――。
という王道の成長ストーリーなのだが、革新的なのは『キャプテン』では墨谷二中のキャプテンが主人公ということ。初代キャプテン・谷口タカオが卒業すると、2代目の丸井、3代目のイガラシ、4代目の近藤茂一と世代交代していく。
初代・谷口のストーリーは『プレイボール』(ちばあきお/集英社)に引き継がれるのだが、『キャプテン』は墨谷二中の定点観察。個々の成長が綿密に詰まっており、連載から約40年経った今でも飽きずに読むことができる。ちばあきお氏が漫画界、野球界に革命を与えた名作中の名作だ。
また昨年4月からコージィ城倉氏の作画で『プレイボール2』がグランドジャンプ(集英社)で連載中だ。
先述した『プレイボール』の続編開始は衝撃的だったが、さらに驚いたのは作画がコージィ城倉氏だったことだ。なぜなら、2005年から2014年まで『週刊少年マガジン』、『マガジンSPECIAL』で同氏が連載していた『おれはキャプテン』が怪作だったからだ。
コージィ城倉氏は漫画原作者としても活動しており、森高夕次という名前で『グラゼニ』(講談社)の原作を担当している。
ピンとくる方も多いだろうが、『おれはキャプテン』は野球界への提言が込められたややブラックな漫画なのだ。
主人公のカズマサ(霧隠主将)は頭こそいいが影の薄い野球部員。しかし、顧問が荒療治と称してキャプテンに指名――。という王道的な幕開けなのだが、徐々にカズマサの本性が露になり、ワンマン&敏腕キャプテンになっていく。
高校野球編の第2章のサブタイトルは「くたばれ甲子園の章」というハッチャケぶりで、「王道」に対するルサンチマンが溢れ出す怪作なのだ…!
35巻で『おれはキャプテン』は一度完結するが、今度は東京六大学に舞台を移した『ロクダイ』(講談社)にストーリーは継承。カズマサたちが東大に入学し、並み居る野球エリートたちに挑む。(現在は『マガジンSPECIAL』の休刊に伴い休止中)
まさに「裏街道」を歩み続け、『キャプテン』『プレイボール』との対比が非常に面白い。
『ノーバディノウズ』は2009年、第16回「松本清張賞」の最終選考に残り、2010年に知る人ぞ知る第1回「サムライジャパン野球文学賞」の大賞に輝いた野球ミステリー小説。
メジャーを代表する韓国系スラッガーのジャスティン・キング。なぜか大都市の球団を嫌い単年契約を繰り返す「謎の選手」だが、「実は日本人では?」という疑念が浮かび上がっていた。特命を受けた新聞記者・蔵本脩平たちは「キング」の正体に迫っていく。
作者の本城雅人はサンケイスポーツの記者として第一線での取材経験があり、メジャーリーグの文化、アメリカの野球文化の描写はまさに知見のなせるワザ。細かな仕草をヒントに謎に迫るあたりも元スポーツ記者だからこその発想であり、「キング」が何者なのか目が離せない展開が続く。
ミステリーの性質上、ネタバレにならぬようあまり多くは語らないが、「秋の夜長」「野球好き」にはぴったりのエンターテイメント作品になっている。
なお現在、ドラフト情報が満載の本誌『野球太郎No.028 2018 ドラフト直前大特集号』が絶賛発売中。今回紹介した3冊とともに、秋の夜長を“野球読書”で楽しんでみてはいかがだろうか。
文=落合初春(おちあい・もとはる)