11月30日、阪神からFA宣言していた大和(前田大和)のDeNA移籍が発表された。
2014年にゴールデン・グラブ賞を獲得した中堅の守備はもちろん、二塁、遊撃の守備も抜群で球界屈指のユーティリティープレーヤーとして一目置かれている。大和の流出に阪神ファンは嗚咽を漏らしているが、ファンの間で議論になっているのは、DeNAが提示した3年3億円(推定)の契約条件だ。
大和の守備は誰もが認めるところだが、規定打席に到達したのは2013年と2014年のみで、直近の3年間はチーム事情もあってスーパーサブの位置づけだった。
FA宣言前後には年俸8000万円前後の提示が有力とみられていたが、まさかの大台突破を決めた。
大和に1億円は果たして高いのか、安いのか。近年の守備職人たちの最高到達年俸と照らし合わせながら探ってみたい。
■最高到達年俸
2006年:1億2000万円(当時巨人)
平成の「守備の名手」でまず名前が挙がるのは小坂誠(元ロッテほか)。盗塁王2回の脚力とゴールデン・グラブ賞4度の実績を誇る小坂の年俸の最高到達点は1億2000万円。巨人移籍1年目にあたる2006年のことだった。
前年、ロッテは日本一を達成し、小坂もゴールデン・グラブ賞を受賞。しかし、西岡剛(現阪神)の台頭もあり、367打席で規定打席には届かず。チーム全体の年俸高騰、翌年にFA権を取得するなど複雑な事情もあり、巨人に金銭トレードで移籍した。
その後は肩の故障もあって出場機会を減らしたが、キャリア全体でみるとルーキーイヤーから56盗塁を記録し、レギュラーとして活躍していた。今であれば1億円台後半から2億円も狙えたのではないだろうか。
■最高到達年俸
2010年:1億3500万円
1990年代後半から2000年代にわたり、日本ハムの内野の要だった金子誠。二塁手で2回、遊撃手で1回のゴールデン・グラブ賞を獲得した。準レギュラー寄りのレギュラー格だったが、打率は2割台中盤のシーズンが多く、成績的には大和に似たタイプともいえる。
金子誠の年俸の最高到達点は2010年の1億3500万円。34歳のシーズンだった。前年はチームのリーグ優勝に加えて、自身も打率.304、14本塁打のキャリアハイを記録。好要素が見事に噛み合い、17年目で1億円プレーヤーの仲間入りを果たした。
■最高到達年俸
2015〜2018年:1億1000万円
守備を最大の武器に年俸1億円の大台に乗せているのは藤田一也(楽天)。2012年にDeNAから楽天に移籍して以降レギュラーに定着し、2013年の日本一に貢献。2014年には自身初の全試合出場を果たし、2013年から2年連続で二塁手のベストナインに選出され、ゴールデン・グラブ賞も受賞した。
2014年オフに年俸1億1000万円の2年契約を結び、2016年オフにも同条件で更新。2016年にもゴールデン・グラブ賞を受賞しており、戦術上も欠かせないピースになっている。これまでの守備貢献度を考えると、1億1000万円は楽天にとってはお得だったのではないだろうか。
そのほかにも井端弘和が3億円(2010年、当時中日)、荒木雅博(中日)が2億円(2011年、2012年)、本多雄一(ソフトバンク)が2億円(2012年)、平野恵一が1億9000万円(2012年、当時阪神)など、守備職人の高額年俸を挙げると枚挙に暇がない。
しかし、それぞれ1億円台に到達した年は、打撃や足でも結果を残しており「レギュラー」だった。
その点、今季252打席の大和の1億円到達はFAといえど異例であることに間違いない。ただし、ここ数年のようなスーパーサブではなく、レギュラーに定着すればどうだろうか。
今季の打率.280、出塁率.331のバットに加えて「大和の守備」がある。2014年に最多犠打を獲得したバント技術も通年なら遺憾なく発揮できるだろう。環境が変われば上積みが狙える30歳。大和の年俸1億円は意外と「安い買い物」になりそうな気がする。
文=落合初春(おちあい・もとはる)