長嶋引退記念本の中では屈指の充実度『栄光の背番号3 完全保存版長島茂雄』■長嶋茂雄スペシャル(第4回)
■「栄光の背番号3 完全保存版長島茂雄」
前回のベースボールビブリオでは、長嶋さんが現役バリバリの昭和36年に発行された
「王者長島のすべて」を紹介しました。そして時代は変わり昭和40年代になると、あのスーパースター長嶋さんにもアスリートの宿命である「年齢との闘い」が待っていました。
昭和49年10月14日、晩秋の
後楽園球場で行われた引退試合をもって長嶋さんは現役生活にピリオドを打ちます。
「今日ここに、自らの体力の限界を悟り…」と、いつもの1オクターブ高い声ではなく、こみ上げてくるものを懸命に押さえて絞り出す声がスタンドに響き渡る引退セレモニーは、当時の記憶がなくても、昭和の名シーンの一つとしてご存じの読者の方も多いのではないでしょうか。
今回のベースボールビブリオでは、その引退試合直後に発行された長嶋さん野球古本「栄光の背番号3 完全保存版長島茂雄」を紹介します。
「不運にもわが巨人軍はV10を…力及ばず…夢は破れました」スタンドには目頭をジッと押さえる中年のファンや、ノドをつぶして「ナガシマー」と叫び続ける若者。この日の後楽園球場には、熱狂的巨人ファンとして名高い
テリー伊藤や、当時はまだ20歳の
落合博満が会社をサボって駆けつけていたといいます。
その引退試合の直後は「長嶋さん引退記念本」が様々な出版社から雨後の竹の子のように数多く発売されたそうですが、1974年に報知グラフ冬季号として発行されたこの本もそのうちの一冊。現在も巨人軍情報には強いといわれる報知新聞社が発行しただけあって内容は濃く、群を抜く充実度を誇っています。
編集後記には「長嶋茂雄に関する資料と記録にかけては随一の定評がある報知新聞社が、その総力を挙げて編集に当たった」とあり、佐倉高校(当時は佐倉第一高校)時代の友人の好意で手に入れた長嶋さんの高校野球部時代の写真や、現役時代の様々な記録、長嶋さんの年表、前述した引退試合の際の裏話など、長嶋さんの少年時代から現役引退を発表するまでの写真や記録がギッシリ詰まった全276ページのその名の通り「完全保存版」といえるでしょう。
特に写真は時代を感じさせるとともに珍しいものが多く、プライベートな秘蔵写真も盛りだくさん。自宅の壁に少年ファンがイタズラした「長しまさんホームランうって」という落書きを苦笑しながら雑巾で消す姿や、昭和40年、亜希子夫人にエンゲージリングをはめる緊張気味の姿、さらには自宅で幼い長嶋一茂とキャッチボール姿など…。もちろん野球のプレー写真もデビュー時の4打席4三振、天覧試合のサヨナラホーマー、引退時の外野フェンス沿いに涙ぐむシーンなど「これでもか」というほどありますのでご安心を。
写真の他にも読み物も充実しています。「やってみたい仕事は?」という問いに
「テレビの総合司会者」と珍回答を披露する「長島に20の質問」や、
「ボクにはストライクゾーンが2つある。ムードが高まった時には"一番手のストライクゾーン"で打っている」などかの有名な「長島茂雄猛語録」など定番のコーナーの他、「長島茂雄における人間研究」では数々のエピソードが満載。
ある日、試合前の打撃練習を終えるとなぜが全裸になり風呂に入る長嶋さん。ナインが「まだ試合前ですよ」と問いかけると「そうか、なんかおかしいと思ったんだよな」と打撃フォームに夢中になるあまり試合に気がつかなかった話や、車のキーを忘れたことに気付き試合後、球場へ戻ってスタッフ総出でキーを探すも「いけね、今日は車で球場に来なかったんだ」と笑う長嶋さん。「ストッキングを片方なくした」といって片足に2足分履いていたり、
川上哲治監督のスリッパを勝手に履いて元の場所に戻さなかったり…。数々の伝説は実話だったことが確認できました。
長嶋さんを表現するキーワードは「栄光」でしょう。引退セレモニーで後楽園球場のバックスクリーンに表示された「ミスターG栄光の背番号3」はこの本のタイトルにも引用されています。「栄光」を辞書で調べると2つの意味があります。
一つは
「大きな名誉、輝かしい誉れ」という意味。もう一つは
「めでたい光、瑞光(ずいこう)」とありますが、長嶋さんの場合は輝かしくもあり、めでたくもある、まさに二つともピッタリと、違和感なく受け入れることができるのではないでしょうか。
長嶋ファンはもちろん、広く野球を愛するファンには欠かせない永遠の決定版愛蔵本は一家に一冊、必ず置いておきたい野球古本です。
■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリングと、まだまだ謎は多い。
文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他ともに認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは
@suzukiwrite
■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088
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