コリジョンルール元年となった2016年。ルール運用に関して、現場ではかなりゴタゴタしたが、「コリジョンゆえのプレー」として、一、三塁からのディレード気味のダブルスチールが急増した。
それもこれも、コリジョンルールにより、ホームベース付近での捕手のブロックが事実上禁止となり、「クロスプレーでは走者有利」という認識が高まったため。
セーフティースクイズも同じ理屈だ。バント空振りや小飛球となったときに三塁走者がアウトになるリスクを避けるため、スタートが遅れても、ボールがしっかりと転がるのを確認してからホームに突入するケースが増えた。
ディレード気味のダブルスチールやセーフティースクイズなどは、奇策の部類に入る作戦だ。それでも、どうしても1点が欲しい、あるいは成功しそうな相手守備陣と見れば、なりふりかまっていられないということか。
コリジョンルールが攻撃面のやや意外な方向に波及した2016年でもあった。
2016年の観客動員数は、セ・リーグが1384万8988人、パ・リーグが1113万2526人となり、2年連続で史上最多を更新した。セ・リーグでは広島やDeNAの横浜、パ・リーグでは日本ハムの北海道、ソフトバンクの福岡、楽天の仙台など、もはや球団がホームタウンに完全に定着しており、地域活性化にもひと役買っている。
一時はプロ野球人気を危惧する声も聞かれていたが、この観客動員の数字を見る限り、それは杞憂と言わざるをえない。そういった人気低迷論は、おそらく地上波の野球中継の視聴率が伸び悩んだことに由来しているのではないか。
かつては地上波頼みだったプロ野球中継も、今ではBSやCS、ネットでの中継体制が充実しており、コアなファンほどそういった視聴環境を整えている。
熱気を直接感じたいファンは球場へ。自宅でくつろぎながら試合終了まで堪能したいファンはCSを契約。野球ファンの観戦の仕方も多様化しているのかもしれない。
アクロバティックなフィールディングと強肩で、4年連続ゴールデン・グラブ賞に選出された今宮健太(ソフトバンク)。その守備力だけでなく、小技にも長けた選手だ。
6月3日の中日との一戦では、2回裏の無死一塁からきっちり送りバントを決め、1992年に川相昌弘(現巨人3軍監督)が記録した27歳9カ月を大幅に更新する24歳10カ月で、200犠打に到達した。
その日はホームランも放ち、お立ち台に呼ばれた今宮は「これは、ぼくひとりの力でできることではなく、先輩たちが塁に出てくれたおかげでバントを決められた記録なので、仕事ができたことはよしとして、先輩たちに感謝でいっぱいです」と謙虚にコメント。
守備の要、そして打線のつなぎ役として、V奪回を目指すソフトバンクに欠かせないキャラクターだ。
オリックスがシーズンを通して捕逸ゼロという、やや地味ながらも史上初の快記録を達成した。
今季のオリックスの捕手の出場試合数は以下のとおり。
84試合:若月健矢
65試合:伊藤光
43試合:山崎勝己
3試合:伏見寅威
1試合:齋藤俊雄
1試合:田中大輔
6人の捕手でつないで捕逸ゼロ。これまで、1979年の広島、1981年の近鉄、2007年のロッテが捕逸1でシーズンを乗り切っていたが、今季のオリックスはそれを上回ってみせた。
ただ、チームの成績はというと、5位・楽天に5ゲーム差の最下位。前年の5位に続いて2年連続Bクラスとなってしまった。2017年は、その捕手の守備力を、ひとつでも多くのチームの勝利につなげたいところだ。
セ・リーグの広島とパ・リーグの日本ハムががっぷり四つに組み合って、好ゲーム連発だった2016年の日本シリーズ。
日本ハムが優勝を決めたのは第6戦だったが、この試合の北海道・札幌地区での実況中継(STV)の平均視聴率は50.8%まで伸びた。同地区の日本ハム戦では、2006年の日本シリーズ第5戦で、同じく優勝を決めた試合での52.5%に次ぐ数字となった。
なお、瞬間最高視聴率を叩き出したのは第6戦の8回表、日本ハムの攻撃。中田翔の押し出し四球で勝ち越したあと、バースがその差を2点に広げるタイムリーを放った場面で、なんと66.5%! 札幌地区で、この時間にテレビの前にいた3人に2人が日本シリーズの行方を見守っていたことになる。
絶対的な守護神として長きに渡ってチームを支えてきた中日の岩瀬仁紀が、8月6日のDeNA戦で5番手としてマウンドに上がり、史上3人目となる900試合登板を達成した。
1999年のデビュー以来継続していた50試合以上の登板は2013年でストップ。積み重なる疲労もあってか、2014年は34試合、2015年はゼロ、そして2016年も15試合と、年々、登板数は低下。2016年11月に42歳となり、ここからの復活は決して楽な道のりではないだろう。
ちなみに、登板数1位は米田哲也の949試合、2位が金田正一の944試合。岩瀬は3位で、今季終了までに904試合まで伸ばしている。全盛期の岩瀬なら、2017年にも米田の記録を抜いて史上1位となっていただろうが、果たしてどうなるか。
なお、投球イニング数を見ると、米田が5130回、金田が5526回2/3で、岩瀬は914回1/3と、両レジェンドの1/6程度。時代の違い、野球の違いと言えばそれまでだが、米田、金田ともに恐るべし鉄腕ぶりである。
プロ野球の発展に大きく貢献した人物に贈られる正力松太郎賞。2016年度の受賞者は、日本ハムを率いてパ・リーグ、日本シリーズを制した栗山英樹監督だった。
2012年から指揮を執る栗山監督の成績は、1位、6位、3位、2位、1位。2度のリーグ優勝だけでなく、Bクラスがわずか1回と安定感も抜群だ。
今季の栗山監督の「三大名采配」を挙げるとすれば、大谷翔平の二刀流の推進、増井浩俊の抑えから先発への転向、連勝中の中田翔のスタメン外し、といったところか。
どれも、詳細な説明は不要だろう。そして、ほかの監督では進められたかどうかわからないほどのデリケートな案件だ。それを大胆かつきめ細かくやってのけた。
ただ、前述したように、2012年にリーグ優勝した翌年は最下位に沈んでおり、決して来季が安泰というわけではない。それは誰よりも栗山監督がわかっているはず。
来季はどんな手綱さばきを見せてくれるのか。今から楽しみだ。
文=藤山剣(ふじやま・けん)